コハリトりみっと
長編恋愛FT「タトゥー・オブ・ギャラン」がメインの小説・雑記サイト。
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馬車に放り込まれて、またまた連れ去られるようにして王宮を後にして。
再びラインハルトの屋敷に戻ってみると、先ほどの料理がまだ並べられたまま手付かずに残っていて。空腹を感じていた周子はそれを食べたいと申し出たのだが、途端に断られた。
「こんな冷めたもの……改めてご用意いたしますから。ぜひとも私の歓待をお受けください」
ラインハルトの恭しい言葉に周子は苦い顔をする。
「いや、実はね、別にそんな贅沢好きではないんだってば」
歓待される贅沢は知っている、だけれどもおなかが空いているのはイマなんです、と涙目で訴えたが、ラインハルトはキッパリと首を横に振った。
「ぜひ、私の歓待を、贅を尽くした料理の数々をご堪能下さい」
歓待を尽くしたいと言うこの男は、召喚の種というものを知っているのだろう、と周子は思ったのだが。
「王のお連れになった女性に、残り物を食わせたなど、末代までの恥です」
「…………」
なんかやっぱ違うかも、と周子は力なく首を振った。
「残り物も何も。だって、手さえついていないじゃない」
そう言って、周子はぴくり、と軽く身を竦めた。
テーブルの上にハンズがちょろちょろと動き回っていたからだ。
「ハンズ!」
周子の鋭い声にハンズは慌てたようにソファの下に潜ってしまった。
「ちっ、言うこと聞かないな、ったく父さんに言いつけるわよ」
「あの奇妙な生き物が腹を空かせていたようです、ふむ、ではやはり、残り物は残り物ですぞ。……全く、残り物に興味を持たれるとは、失礼ながら、食べ物には卑しいお方かな」
「失礼です、その言い方!」
「……グランツ家にいらっしゃるそうですが、あそこではまともな食事も摂らせてもらえなかったとか?グランツ家はけちですからな、全く、けちでけちでけちで……客人として身を寄せるには最悪のところであるぞ……」
「えっ?そうなんですか?」
むむむむー、とラインハルトは低く唸って。
「ルドルフのやつにはさんざん煮え湯を飲まされてきたが、あ奴の息子のカズマもこれまた嫌なヤツで。抜け目がないというか計算高いというか。父親からまさしく嫌なところばかり受け継ぎおって。……というより、なんであのルドルフにだけ男の跡取が生まれるのだ、わしには子女ばかりだというのに。家督を継ぐべき男の正嫡があるとは、それもあんな切れ者の……なんともうらやましい、ああいや、つくづく、かえすがえすも口惜しい……憎らしい、だいたいルドルフ・フォン・グランツ、あの男は……」
まるで立て板に水。その口から溢れる恨み言はさながら泉の如き有様。
ぶつぶつと言っているのを聞く限り、イーズリー卿ラインハルトは、カズマの父、ルドルフ・フォン・グランツとはまさに政敵、両家の因縁も相当に深いらしく、恨み言に事欠かぬようである。
いつまでも終わる気配のない恨み言のオンパレードに、周子はこれみよがしに大きく咳払いをしてみせると、ルドルフはようやくもとの平静を取り戻し、真面目な表情になった。
「すいません、ルドルフのことになるとつい、ムキに。恨みごとが尽きぬもので」
「お気になさらず。……食事の指示を。出来るだけ早く。私はホントは残り物でも何でも構わないんです、おなかが空いてるんですから、とにかく早く」
苛立ちを露わに、黒目を寒々と細めて周子は言うと、ラインハルトは、すまぬすまぬ、と鷹揚に笑ってぱんぱん、と両手を打った。そうして侍女たちにニ、三命じると、周子の座ったソファの前にどっしりと腰を下ろした。
「で、あの後、イーヴ殿とは何かありましたか」
「イーヴ、ってあんたも彼女といい仲なの?」
「は?はははは……」
そう聞くと、困ったように笑ってごまかしている。
改めて見ると、壮年のラインハルトは、脂ののったいい感じで、世の中の酸いも甘いもかみ分けた、どっしりとした壮年の貫禄がある。恰幅が良く、権力と財力とを兼ね備えた男盛りに見えた。王のオンナに陰でこっそり手をつけても平然としているような、押しも押されぬ大人の男の、そんないい貫禄である。
それは、まだ若くて几帳面そうなカズマよりも余程柔軟に物事を考えてくれそうで、ぐぐっと頼りになりそうな、いい意味での大人の貫禄にすら、周子には思えた。
「……ということは、イブは男でも女でもどっちでもおっけーな人ってことなの?」
「と、申しますと?」
しらばっくれちゃって、と周子は軽く笑った。
「……お風呂で素っ裸で迫られて思いっきしキスされて、ほかにもいろいろと……ああでも未遂で済みましたけど。まあかなりやばかったといえばまあやばかったかな」
「なんと!」
ラインハルトは、ギョッとしたように口元を押さえた。
「……もう少し、穏やかな表現にはならんのですか。仮にもあなたは女性でしょうに」
「…………ツッ込むところはそこですか?」
ちがうだろ、と周子は憮然と腕組をした。
そして、ふと自分の胸元を見る。
そういえば、自分は王宮の浴室から救い出されたままの、つまりは、はだかにバスタオル一枚巻いただけの格好だ、と周子は気付いて。
―――よくこれで宮殿の中を走り回っていたな。
はははー、と冷や汗を一筋たらして取り繕うような乾いた笑いを浮かべると、周子の意図を察してラインハルトも、気の毒そうな表情をした。
「確かに、うら若い女性の姿としてはまずいですな」
再びぱんぱんと手を打って侍女を呼ぶと、女物の服を持ってくるように言いつける。ラインハルトが手を打つ、ぱんぱん、という音は、なかなか聞いていて小気味良い、と周子は思った。この男が手を打てば、おそらくたいていのことは叶うであろう。
周子はにっこりと微笑んだ。
―――望めば多少の無理を通すことが出来るくらいの、地位も金も存分に持っていそうだし、何より年相応に捌けている。あのメガネよりもずっと”使い勝手”が良さそう。
「とにかく。食事を済ませたら、馬と金を出していただけますね?」
「よろしいとも」
ラインハルトは快諾した。
「その、人探しとやらにも協力して差し上げようかの?」
「!本当ですか!」
「うむ。あなたが、その人探しとやらの間、当家の客人として当方にごゆるりと滞在してくださるのならば。無論、歓待いたしますぞ。……あんなショボくてけち臭いグランツ家に身を置くよりはるかに良い待遇をして差し上げましょうぞ?」
「本当に?じゃあ、ぜひ!私もあんの冷淡メガネ野郎とは縁を切りたくてしょうがなかったんです!好都合です!」
「冷淡メガネ野郎……周子殿はよくもまあ、仰いますな!スカッとする」
「スカッと、ですか」
「グランツ家にはいつも苦汁を飲まされているからの。ルドルフめ、わが世の春もこれまでだ」
「これまで、って……?」
ややして侍女が現れる。
「とりあえず、私の娘の服でもよろしいかね」
「え?ええ、もちろん、ありがとうござ……ええっ!」
侍女から受け取った服をざっと広げて、周子はあんぐりと口を開けた。
その表情を見て、ラインハルトがはははと鷹揚に笑った。
「女性はねぇ、こういう、可愛らしいのが一番ですよ。あなたのような、抜き身の刃物のようでは扱う側が傷つきますからな?」
「ぬ、抜き身の刃物、ですか」
うむ、とラインハルトが頷いている。
「貴女にその気がなくとも、扱う側は傷つき、持て余す」
なにやら妙に重みのあるその言葉に、周子は黙ってラインハルトを見た。侍女に促され、隣室でそれに腕を通して。
「……あのう……」
ピンク色の、びらっびらの、レースのふりふりがついた、可憐な美少女ドレスである。
おそるおそる、先程の部屋に戻りラインハルトの前に姿を現す。
「さすがにこれはちょっと……あー、いや、文句言う気は無いんですが、他に何か無いですか?こちらの侍女のような、お勤め用の簡素な服で構いませんけど」
「何を。似合う似合う。似合いますぞ」
「……そうですか?」
「周子殿はこうしてみるとずいぶんと可愛らしく見えますぞ」
―――かわいい?
お世辞にしてもそりゃひどい、と周子は口の端を下げた。そんなこと言われたこと無い、とでも言いたげな、そんな周子の表情に、ラインハルトはまるで自分の娘でも相手にするかのような、温かい笑みを浮かべた。
しばし、落ち着いて当家に身を寄せると良い、と言われて、周子はまあとにかくそうしようかと、大人しく一度うなずいた。
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再びラインハルトの屋敷に戻ってみると、先ほどの料理がまだ並べられたまま手付かずに残っていて。空腹を感じていた周子はそれを食べたいと申し出たのだが、途端に断られた。
「こんな冷めたもの……改めてご用意いたしますから。ぜひとも私の歓待をお受けください」
ラインハルトの恭しい言葉に周子は苦い顔をする。
「いや、実はね、別にそんな贅沢好きではないんだってば」
歓待される贅沢は知っている、だけれどもおなかが空いているのはイマなんです、と涙目で訴えたが、ラインハルトはキッパリと首を横に振った。
「ぜひ、私の歓待を、贅を尽くした料理の数々をご堪能下さい」
歓待を尽くしたいと言うこの男は、召喚の種というものを知っているのだろう、と周子は思ったのだが。
「王のお連れになった女性に、残り物を食わせたなど、末代までの恥です」
「…………」
なんかやっぱ違うかも、と周子は力なく首を振った。
「残り物も何も。だって、手さえついていないじゃない」
そう言って、周子はぴくり、と軽く身を竦めた。
テーブルの上にハンズがちょろちょろと動き回っていたからだ。
「ハンズ!」
周子の鋭い声にハンズは慌てたようにソファの下に潜ってしまった。
「ちっ、言うこと聞かないな、ったく父さんに言いつけるわよ」
「あの奇妙な生き物が腹を空かせていたようです、ふむ、ではやはり、残り物は残り物ですぞ。……全く、残り物に興味を持たれるとは、失礼ながら、食べ物には卑しいお方かな」
「失礼です、その言い方!」
「……グランツ家にいらっしゃるそうですが、あそこではまともな食事も摂らせてもらえなかったとか?グランツ家はけちですからな、全く、けちでけちでけちで……客人として身を寄せるには最悪のところであるぞ……」
「えっ?そうなんですか?」
むむむむー、とラインハルトは低く唸って。
「ルドルフのやつにはさんざん煮え湯を飲まされてきたが、あ奴の息子のカズマもこれまた嫌なヤツで。抜け目がないというか計算高いというか。父親からまさしく嫌なところばかり受け継ぎおって。……というより、なんであのルドルフにだけ男の跡取が生まれるのだ、わしには子女ばかりだというのに。家督を継ぐべき男の正嫡があるとは、それもあんな切れ者の……なんともうらやましい、ああいや、つくづく、かえすがえすも口惜しい……憎らしい、だいたいルドルフ・フォン・グランツ、あの男は……」
まるで立て板に水。その口から溢れる恨み言はさながら泉の如き有様。
ぶつぶつと言っているのを聞く限り、イーズリー卿ラインハルトは、カズマの父、ルドルフ・フォン・グランツとはまさに政敵、両家の因縁も相当に深いらしく、恨み言に事欠かぬようである。
いつまでも終わる気配のない恨み言のオンパレードに、周子はこれみよがしに大きく咳払いをしてみせると、ルドルフはようやくもとの平静を取り戻し、真面目な表情になった。
「すいません、ルドルフのことになるとつい、ムキに。恨みごとが尽きぬもので」
「お気になさらず。……食事の指示を。出来るだけ早く。私はホントは残り物でも何でも構わないんです、おなかが空いてるんですから、とにかく早く」
苛立ちを露わに、黒目を寒々と細めて周子は言うと、ラインハルトは、すまぬすまぬ、と鷹揚に笑ってぱんぱん、と両手を打った。そうして侍女たちにニ、三命じると、周子の座ったソファの前にどっしりと腰を下ろした。
「で、あの後、イーヴ殿とは何かありましたか」
「イーヴ、ってあんたも彼女といい仲なの?」
「は?はははは……」
そう聞くと、困ったように笑ってごまかしている。
改めて見ると、壮年のラインハルトは、脂ののったいい感じで、世の中の酸いも甘いもかみ分けた、どっしりとした壮年の貫禄がある。恰幅が良く、権力と財力とを兼ね備えた男盛りに見えた。王のオンナに陰でこっそり手をつけても平然としているような、押しも押されぬ大人の男の、そんないい貫禄である。
それは、まだ若くて几帳面そうなカズマよりも余程柔軟に物事を考えてくれそうで、ぐぐっと頼りになりそうな、いい意味での大人の貫禄にすら、周子には思えた。
「……ということは、イブは男でも女でもどっちでもおっけーな人ってことなの?」
「と、申しますと?」
しらばっくれちゃって、と周子は軽く笑った。
「……お風呂で素っ裸で迫られて思いっきしキスされて、ほかにもいろいろと……ああでも未遂で済みましたけど。まあかなりやばかったといえばまあやばかったかな」
「なんと!」
ラインハルトは、ギョッとしたように口元を押さえた。
「……もう少し、穏やかな表現にはならんのですか。仮にもあなたは女性でしょうに」
「…………ツッ込むところはそこですか?」
ちがうだろ、と周子は憮然と腕組をした。
そして、ふと自分の胸元を見る。
そういえば、自分は王宮の浴室から救い出されたままの、つまりは、はだかにバスタオル一枚巻いただけの格好だ、と周子は気付いて。
―――よくこれで宮殿の中を走り回っていたな。
はははー、と冷や汗を一筋たらして取り繕うような乾いた笑いを浮かべると、周子の意図を察してラインハルトも、気の毒そうな表情をした。
「確かに、うら若い女性の姿としてはまずいですな」
再びぱんぱんと手を打って侍女を呼ぶと、女物の服を持ってくるように言いつける。ラインハルトが手を打つ、ぱんぱん、という音は、なかなか聞いていて小気味良い、と周子は思った。この男が手を打てば、おそらくたいていのことは叶うであろう。
周子はにっこりと微笑んだ。
―――望めば多少の無理を通すことが出来るくらいの、地位も金も存分に持っていそうだし、何より年相応に捌けている。あのメガネよりもずっと”使い勝手”が良さそう。
「とにかく。食事を済ませたら、馬と金を出していただけますね?」
「よろしいとも」
ラインハルトは快諾した。
「その、人探しとやらにも協力して差し上げようかの?」
「!本当ですか!」
「うむ。あなたが、その人探しとやらの間、当家の客人として当方にごゆるりと滞在してくださるのならば。無論、歓待いたしますぞ。……あんなショボくてけち臭いグランツ家に身を置くよりはるかに良い待遇をして差し上げましょうぞ?」
「本当に?じゃあ、ぜひ!私もあんの冷淡メガネ野郎とは縁を切りたくてしょうがなかったんです!好都合です!」
「冷淡メガネ野郎……周子殿はよくもまあ、仰いますな!スカッとする」
「スカッと、ですか」
「グランツ家にはいつも苦汁を飲まされているからの。ルドルフめ、わが世の春もこれまでだ」
「これまで、って……?」
ややして侍女が現れる。
「とりあえず、私の娘の服でもよろしいかね」
「え?ええ、もちろん、ありがとうござ……ええっ!」
侍女から受け取った服をざっと広げて、周子はあんぐりと口を開けた。
その表情を見て、ラインハルトがはははと鷹揚に笑った。
「女性はねぇ、こういう、可愛らしいのが一番ですよ。あなたのような、抜き身の刃物のようでは扱う側が傷つきますからな?」
「ぬ、抜き身の刃物、ですか」
うむ、とラインハルトが頷いている。
「貴女にその気がなくとも、扱う側は傷つき、持て余す」
なにやら妙に重みのあるその言葉に、周子は黙ってラインハルトを見た。侍女に促され、隣室でそれに腕を通して。
「……あのう……」
ピンク色の、びらっびらの、レースのふりふりがついた、可憐な美少女ドレスである。
おそるおそる、先程の部屋に戻りラインハルトの前に姿を現す。
「さすがにこれはちょっと……あー、いや、文句言う気は無いんですが、他に何か無いですか?こちらの侍女のような、お勤め用の簡素な服で構いませんけど」
「何を。似合う似合う。似合いますぞ」
「……そうですか?」
「周子殿はこうしてみるとずいぶんと可愛らしく見えますぞ」
―――かわいい?
お世辞にしてもそりゃひどい、と周子は口の端を下げた。そんなこと言われたこと無い、とでも言いたげな、そんな周子の表情に、ラインハルトはまるで自分の娘でも相手にするかのような、温かい笑みを浮かべた。
しばし、落ち着いて当家に身を寄せると良い、と言われて、周子はまあとにかくそうしようかと、大人しく一度うなずいた。
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- 2005-08-26 17:00
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