コハリトりみっと
長編恋愛FT「タトゥー・オブ・ギャラン」がメインの小説・雑記サイト。
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「……しかし、例の洞窟もここ最近は大変な賑わいだとか?」
「ほほう、さすがにお耳が早い」
不仲だなんだと言いながらも、その後カズマは素直に茶を勧められ、ラインハルトと話し込んでいる。そのおかげで周子はゆっくりと豪勢な食事をとることが出来たのだが。
フォン・グランツ家とイーズリー卿、両家の仲が悪いとか、過去に遡ってさまざまな諍いがあるだとか、そんなことを二人とも言っていたのだが、実際の経済活動や政治の話とはこれまたすっぱり切り離されているらしい。
この二人は金融経済の話と政治の話にはとことん興味があるようで。一度話し始めると両者共にますます興が乗りゆくようでまるで話が終わる気配が無い。
王が王宮を出奔している今、宮中で政務を仕切っている宰相のアシューとかいう男をどのように転がすか、なんて事を大いに語らっている。真摯なのか、剣呑なのか。
周子にとっては全くつまらぬ話……経済がどうとか、金融がどうとか、政治がどうとか、まるでどうでもいい話としか思えぬ話題ばかりが続いていたが、やがて、真っ二つまんじゅう、という興味深い言葉に周子はぴくりと反応した。
「ねえ、何、それ!」
身を乗り出してきた周子を見て、あきらかにカズマはしまった、という顔をした。
「そんななりをして、その上大人しく会話を聞いているものですから、まるで普通の女性かと思い油断しました」
と、真顔で言ってくる。
「普通の女性ですが」
「好奇心猫を殺すと申します」
ムッとして返す周子にカズマは冷ややかにそう言い切って。にべも無い。もう帰りますよ、と促してカズマが腰を浮かせかけた。
「はは、これですぞ」
ラインハルトがぱんぱんと手を打つと、いかにもお土産品といった包装のされた包みを侍女が持ってきた。
包装を破りその箱を開けてみれば、そこに並んでいるのは小石ほどの大きさの白いごくごく普通の饅頭で、なぜかちょうど真中あたりに切れ目が入っていてそこに竹串のようなものが突き刺してある。
「真っ二つの剣の洞窟の番人が、暇つぶしに作ったのがおもしろいと評判でな、いま、巷でバカ売れなのだよ?」
「ふえ、これが?」
―――塩饅頭?
ひとつ摘んで手にとると、饅頭は待ってましたとばかりに周子の手のひらの上でぱくりと二つに割れた。ずいぶん念入りに切れ目が入れてあるようで。しかも切り口は妙にすっぱりと綺麗だ。
「真っ二つの剣の洞窟の番人はかなり腕の立つ剣士でな。ご覧の通り」
「剣で饅頭を切るんですか?」
「平和な世の中ですからなぁ」
ラインハルトが軽く肩を竦める。ナイフや包丁とかじゃないんだ、とマッチョな剣士が饅頭を相手に剣を振るう姿を想像して周子はつい小さな笑いをもらした。
カズマがまじまじと周子の顔を覗き込んでくる。
「……面白いですか」
「え?ええ?」
カズマのあっけにとられた表情も面白い。周子は思わずケタケタと声を上げた。
「……品のない笑い方だな」
「いやしかしだな、そうですぞ、カズマ殿、真っ二つ饅頭、こんな可愛らしい冗談も通じぬようでは、さすがに唐変木と言われても仕方が無いぞ?」
「……あなたですか、あの陰口の元締めは」
カズマはたちまち嫌そうな表情をした、はーあ、とうんざりとした吐息を漏らすと、その秀麗な額に指を当て、メガネの隙間からラインハルトをちら、と睨み上げた。
「男女の機微も分からぬトウヘンボクなぞと……なんともそちらの品性を疑いたくなる陰口ですね、まあそんなもの、好き勝手に言っていれば良いですがね?」
ラインハルトはちょび髭をいじりながら鷹揚に微笑んでいる。
「事実ですぞ。だから貴殿はそれほどの財を成しながら全然モテないのだ」
何か思い当たる節でもあるのだろう、ラインハルトの言葉に、鼻白みながらもその紫の目が揺れている。
「あはは、トウヘンボクなんて言われているの!」
「別に女性にモテたいと思ったことなどないですが?」
「ほうほう、女にもてぬ男の強がりにしか聞こえぬなぁ」
そんなカズマの様子が可愛くてたまらない、といった風にラインハルトは笑う。
「その外見でモテないなんて意外だけど、でもまあ分かる気もするわねぇ、そうか、もてないのか、わははははははは!」
「その格好でその笑いはどうかと思いますね、ピンクのドレスが泣きます。まずはとにかく着替えを。いやその前に、周子、さっさと帰りますよ。帰りが遅くなったのを知られると王は怒りますでしょうし!そもそも私はあなたを連れにわざわざこんなところまで来たんですよ!」
「えー?いやよあんなエロ国王」
周子は嫌なものを思い出したというように眉を寄せた。
「口を慎め」
冷え冷えする紫の目で、ぴしり、と言い放つ。
「い・や・よ!あんな真似する変態エロ国王なんて。ギャランはあんな綺麗なお姉さん方と毎晩ヤリまくっているんでしょう、なんで私をキープするのよ、マジでアッタマに来るわ!絶対にギャランを主だなんて認めないわよ!ちょび髭のほうがまだまし!!ちょび髭ラブ!!」
「ラブ、って、ちょび髭、って、それはあんまりでしょう」
「うーるさ!ミアムに還してくれるまで、私はここを動かない!」
カズマは目を剥いた。
「わがままを言うにもほどがあります、私はあなたを王の下へ連れ帰らねばなりません、命令だ、立て。屋敷に帰ります」
「はん!偉そうに!あんたの命令なんて、このタトゥー、ちーっとも効かないもんね!お生憎様、ざまあみろ!ハンズ、やっちまいな!!」
「なにっ!?」
周子の鋭い命令に、ハンズがものすごいスピードでソファの下から飛び出してきたかと思うと、レフトとライトがすばやくカズマの肩まで上り、メガネを奪った。
だがそれも一瞬で。
「予想以上のすばやさだな」
カズマはあっさりとレフトを握りつぶすと奪われたメガネを取り上げた。
肩の上でライトが硬直している。カズマはメガネのない素の眼差しで周子を睨んだ。
「やっちまいな、だなんて子供になんてことをさせるんです」
「かーっ、相変わらずショボいな、ハンズは」
周子はどっかりとソファにのけぞって、あきれ返ったような冷たい声を上げた。カズマはそんな周子のふてぶてしい態度につくづくうんざりして。
几帳面そうにメガネのグラスを絹のハンカチで拭いて、掛けなおす。
「で、これはいったい何なのでしょうか」
掛けなおしたメガネでまじまじと手の中のレフトを見、一層げんなりする。
「思わず子供と言ってしまいましたが、どうでしょうかね……」
カズマは手の中でぐったりしているレフトを気持ち悪そうに床にほおった。びたん、と生ものでも投げつけたような半ば潰れた音が床の上で鳴った。あわててライトが駆け寄り、レフトを抱き起こす。ぴるぴると震える二匹。
「ほう、子供の手を握りつぶすなど、冷淡メガネ野郎とやらが巣食うグランツ家にはぴったりの、これまた良くない噂になりそうな感じだの」
「噂にするのはあなただろう!」
ぷちり、とカズマが軽くキレた。
「そうよそうよ、まったく五歳児に何てことするのよ!」
あっさり尻馬に乗って口を尖らせる周子。
「……けしかけておいてまるで自分は善人だな。だからなんなのですかあれは。大体子供、って、五歳児、ってなんですか」
カズマはうんざりと首を横に振った。対する周子はしれっとしている。
「父さんの使役獣。魔物?いつもは父の所管する”封印の書”という本の中にいて、まァ用があれば召喚して使役するんだけどね。大して役には立たないから肩を揉ませたりとか、腰を揉ませたりとか、マニキュア塗って遊んだりとか、ああ、お風呂の支度と、食事の支度と、茶碗くらいは洗えるけど」
封印の書、と呟きかけ、はっとしたようにカズマは慌てて言葉を飲み込んだ。一度眼差しを伏せ、先程から突き刺さらんばかりのラインハルトの興味深げな視線をかわすと、何事も無かったかのように軽く肩を竦める。
「……児童福祉に反するのでは?」
それならむしろ大活躍だろう、とカズマ言って。
ん?児童福祉?とまるで初めて聞いた言葉のように周子は軽く小首を傾げてみせる。
「なんでか知らないけどハンズはあんたの家の庭にいたのよ。父さんが寄越したのかどうかもさっぱり分からないんだけど。だからとにかく私はミアムに還らなくっちゃ。ロレンスのことも気になるし、とにかくどうも落ち着かないわ。少なくともここは私の居場所じゃない。召喚ミスだって最初からそう言ってるでしょ」
周子は真面目な顔をした。
「さっきの話だけど、グランツ家に何でも頼れというのなら、無論私をミアムに還してくれるわね」
「王の意向に反しない限りは」
「駄目ってこと?」
カズマが苛立ちのこもった鋭い眼差しを向けてくる。
「いったいいつの間にそんなに王に取り入ったのか私の方が聞きたいくらいですよ。王がこんな風に何かに執着するなんて初めてです。ミアムへ帰りたければ、あなたご自身が王と交渉なさい。先程私からニールセンの鉄鋼脈を取り上げたときのように、脅しでも何でもなさって満足のいく結果を得たらいかがです?あの方がうなずけば、無論、私はそれに従います、ギャラン王は意志の大変お強いお方だ、あなたの言葉に転んで素直にうなずくとは思えませんがね」
その言葉は鋭い。切り捨てるように苛立ちをこめて言い放ったものの、カズマはすぐにしまったとでも言うかのようにラインハルトを見た。ラインハルトはちょび髭をいじりながら興味深げにそんなやり取りを見ている。
「ふむ、まこと、王はこの娘に執着しておるようだな」
「貴殿が興味を持つような関係ではないので。余計な干渉は一切しないで頂きたい」
ラインハルトにはこのあたりの話は聞かれたくないのだろう、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。そして、ミアムではなくミングラムだ、と再度ラインハルトに念を押した。
「さ、何はともあれ、帰りましょう」
「これ、剣の形をした串なのねぇ」
退出を促すカズマを無視して周子は饅頭から竹串を抜き、一つ口に放り込む。竹串にはなにやら字が書かれてあった。
「ああ、占いになってましての」
それを聞いた次の瞬間、周子は一箱十二個入りのすべての饅頭の竹串を引き抜いた。
「なんと性急な!」
ラインハルトが驚いた声を上げる。
ワシらの分は?ワシらの占いの楽しみを無下に奪うな!食べるときに初めて抜くからこそ、ささやかな楽しみがあるというものではないか!とラインハルトは大真面目に文句を言う。
「やだ、どれもいいことしか書いてないじゃん!」
「土産物だからそれでよいのではないか!そうでなければそれこそ呪い師か何かが売るであろうよ」
「ちょび、あんた案外ノリツッコミなのね!気に入ったわ、ちょび!」
「……いや、ちょび!とは少々手厳しいのでは」
ラインハルトはふいに自分が床の上で伸びている無様なハンズと同じレベルで扱われそうな予感がして冷や汗を拭った。
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「ほほう、さすがにお耳が早い」
不仲だなんだと言いながらも、その後カズマは素直に茶を勧められ、ラインハルトと話し込んでいる。そのおかげで周子はゆっくりと豪勢な食事をとることが出来たのだが。
フォン・グランツ家とイーズリー卿、両家の仲が悪いとか、過去に遡ってさまざまな諍いがあるだとか、そんなことを二人とも言っていたのだが、実際の経済活動や政治の話とはこれまたすっぱり切り離されているらしい。
この二人は金融経済の話と政治の話にはとことん興味があるようで。一度話し始めると両者共にますます興が乗りゆくようでまるで話が終わる気配が無い。
王が王宮を出奔している今、宮中で政務を仕切っている宰相のアシューとかいう男をどのように転がすか、なんて事を大いに語らっている。真摯なのか、剣呑なのか。
周子にとっては全くつまらぬ話……経済がどうとか、金融がどうとか、政治がどうとか、まるでどうでもいい話としか思えぬ話題ばかりが続いていたが、やがて、真っ二つまんじゅう、という興味深い言葉に周子はぴくりと反応した。
「ねえ、何、それ!」
身を乗り出してきた周子を見て、あきらかにカズマはしまった、という顔をした。
「そんななりをして、その上大人しく会話を聞いているものですから、まるで普通の女性かと思い油断しました」
と、真顔で言ってくる。
「普通の女性ですが」
「好奇心猫を殺すと申します」
ムッとして返す周子にカズマは冷ややかにそう言い切って。にべも無い。もう帰りますよ、と促してカズマが腰を浮かせかけた。
「はは、これですぞ」
ラインハルトがぱんぱんと手を打つと、いかにもお土産品といった包装のされた包みを侍女が持ってきた。
包装を破りその箱を開けてみれば、そこに並んでいるのは小石ほどの大きさの白いごくごく普通の饅頭で、なぜかちょうど真中あたりに切れ目が入っていてそこに竹串のようなものが突き刺してある。
「真っ二つの剣の洞窟の番人が、暇つぶしに作ったのがおもしろいと評判でな、いま、巷でバカ売れなのだよ?」
「ふえ、これが?」
―――塩饅頭?
ひとつ摘んで手にとると、饅頭は待ってましたとばかりに周子の手のひらの上でぱくりと二つに割れた。ずいぶん念入りに切れ目が入れてあるようで。しかも切り口は妙にすっぱりと綺麗だ。
「真っ二つの剣の洞窟の番人はかなり腕の立つ剣士でな。ご覧の通り」
「剣で饅頭を切るんですか?」
「平和な世の中ですからなぁ」
ラインハルトが軽く肩を竦める。ナイフや包丁とかじゃないんだ、とマッチョな剣士が饅頭を相手に剣を振るう姿を想像して周子はつい小さな笑いをもらした。
カズマがまじまじと周子の顔を覗き込んでくる。
「……面白いですか」
「え?ええ?」
カズマのあっけにとられた表情も面白い。周子は思わずケタケタと声を上げた。
「……品のない笑い方だな」
「いやしかしだな、そうですぞ、カズマ殿、真っ二つ饅頭、こんな可愛らしい冗談も通じぬようでは、さすがに唐変木と言われても仕方が無いぞ?」
「……あなたですか、あの陰口の元締めは」
カズマはたちまち嫌そうな表情をした、はーあ、とうんざりとした吐息を漏らすと、その秀麗な額に指を当て、メガネの隙間からラインハルトをちら、と睨み上げた。
「男女の機微も分からぬトウヘンボクなぞと……なんともそちらの品性を疑いたくなる陰口ですね、まあそんなもの、好き勝手に言っていれば良いですがね?」
ラインハルトはちょび髭をいじりながら鷹揚に微笑んでいる。
「事実ですぞ。だから貴殿はそれほどの財を成しながら全然モテないのだ」
何か思い当たる節でもあるのだろう、ラインハルトの言葉に、鼻白みながらもその紫の目が揺れている。
「あはは、トウヘンボクなんて言われているの!」
「別に女性にモテたいと思ったことなどないですが?」
「ほうほう、女にもてぬ男の強がりにしか聞こえぬなぁ」
そんなカズマの様子が可愛くてたまらない、といった風にラインハルトは笑う。
「その外見でモテないなんて意外だけど、でもまあ分かる気もするわねぇ、そうか、もてないのか、わははははははは!」
「その格好でその笑いはどうかと思いますね、ピンクのドレスが泣きます。まずはとにかく着替えを。いやその前に、周子、さっさと帰りますよ。帰りが遅くなったのを知られると王は怒りますでしょうし!そもそも私はあなたを連れにわざわざこんなところまで来たんですよ!」
「えー?いやよあんなエロ国王」
周子は嫌なものを思い出したというように眉を寄せた。
「口を慎め」
冷え冷えする紫の目で、ぴしり、と言い放つ。
「い・や・よ!あんな真似する変態エロ国王なんて。ギャランはあんな綺麗なお姉さん方と毎晩ヤリまくっているんでしょう、なんで私をキープするのよ、マジでアッタマに来るわ!絶対にギャランを主だなんて認めないわよ!ちょび髭のほうがまだまし!!ちょび髭ラブ!!」
「ラブ、って、ちょび髭、って、それはあんまりでしょう」
「うーるさ!ミアムに還してくれるまで、私はここを動かない!」
カズマは目を剥いた。
「わがままを言うにもほどがあります、私はあなたを王の下へ連れ帰らねばなりません、命令だ、立て。屋敷に帰ります」
「はん!偉そうに!あんたの命令なんて、このタトゥー、ちーっとも効かないもんね!お生憎様、ざまあみろ!ハンズ、やっちまいな!!」
「なにっ!?」
周子の鋭い命令に、ハンズがものすごいスピードでソファの下から飛び出してきたかと思うと、レフトとライトがすばやくカズマの肩まで上り、メガネを奪った。
だがそれも一瞬で。
「予想以上のすばやさだな」
カズマはあっさりとレフトを握りつぶすと奪われたメガネを取り上げた。
肩の上でライトが硬直している。カズマはメガネのない素の眼差しで周子を睨んだ。
「やっちまいな、だなんて子供になんてことをさせるんです」
「かーっ、相変わらずショボいな、ハンズは」
周子はどっかりとソファにのけぞって、あきれ返ったような冷たい声を上げた。カズマはそんな周子のふてぶてしい態度につくづくうんざりして。
几帳面そうにメガネのグラスを絹のハンカチで拭いて、掛けなおす。
「で、これはいったい何なのでしょうか」
掛けなおしたメガネでまじまじと手の中のレフトを見、一層げんなりする。
「思わず子供と言ってしまいましたが、どうでしょうかね……」
カズマは手の中でぐったりしているレフトを気持ち悪そうに床にほおった。びたん、と生ものでも投げつけたような半ば潰れた音が床の上で鳴った。あわててライトが駆け寄り、レフトを抱き起こす。ぴるぴると震える二匹。
「ほう、子供の手を握りつぶすなど、冷淡メガネ野郎とやらが巣食うグランツ家にはぴったりの、これまた良くない噂になりそうな感じだの」
「噂にするのはあなただろう!」
ぷちり、とカズマが軽くキレた。
「そうよそうよ、まったく五歳児に何てことするのよ!」
あっさり尻馬に乗って口を尖らせる周子。
「……けしかけておいてまるで自分は善人だな。だからなんなのですかあれは。大体子供、って、五歳児、ってなんですか」
カズマはうんざりと首を横に振った。対する周子はしれっとしている。
「父さんの使役獣。魔物?いつもは父の所管する”封印の書”という本の中にいて、まァ用があれば召喚して使役するんだけどね。大して役には立たないから肩を揉ませたりとか、腰を揉ませたりとか、マニキュア塗って遊んだりとか、ああ、お風呂の支度と、食事の支度と、茶碗くらいは洗えるけど」
封印の書、と呟きかけ、はっとしたようにカズマは慌てて言葉を飲み込んだ。一度眼差しを伏せ、先程から突き刺さらんばかりのラインハルトの興味深げな視線をかわすと、何事も無かったかのように軽く肩を竦める。
「……児童福祉に反するのでは?」
それならむしろ大活躍だろう、とカズマ言って。
ん?児童福祉?とまるで初めて聞いた言葉のように周子は軽く小首を傾げてみせる。
「なんでか知らないけどハンズはあんたの家の庭にいたのよ。父さんが寄越したのかどうかもさっぱり分からないんだけど。だからとにかく私はミアムに還らなくっちゃ。ロレンスのことも気になるし、とにかくどうも落ち着かないわ。少なくともここは私の居場所じゃない。召喚ミスだって最初からそう言ってるでしょ」
周子は真面目な顔をした。
「さっきの話だけど、グランツ家に何でも頼れというのなら、無論私をミアムに還してくれるわね」
「王の意向に反しない限りは」
「駄目ってこと?」
カズマが苛立ちのこもった鋭い眼差しを向けてくる。
「いったいいつの間にそんなに王に取り入ったのか私の方が聞きたいくらいですよ。王がこんな風に何かに執着するなんて初めてです。ミアムへ帰りたければ、あなたご自身が王と交渉なさい。先程私からニールセンの鉄鋼脈を取り上げたときのように、脅しでも何でもなさって満足のいく結果を得たらいかがです?あの方がうなずけば、無論、私はそれに従います、ギャラン王は意志の大変お強いお方だ、あなたの言葉に転んで素直にうなずくとは思えませんがね」
その言葉は鋭い。切り捨てるように苛立ちをこめて言い放ったものの、カズマはすぐにしまったとでも言うかのようにラインハルトを見た。ラインハルトはちょび髭をいじりながら興味深げにそんなやり取りを見ている。
「ふむ、まこと、王はこの娘に執着しておるようだな」
「貴殿が興味を持つような関係ではないので。余計な干渉は一切しないで頂きたい」
ラインハルトにはこのあたりの話は聞かれたくないのだろう、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。そして、ミアムではなくミングラムだ、と再度ラインハルトに念を押した。
「さ、何はともあれ、帰りましょう」
「これ、剣の形をした串なのねぇ」
退出を促すカズマを無視して周子は饅頭から竹串を抜き、一つ口に放り込む。竹串にはなにやら字が書かれてあった。
「ああ、占いになってましての」
それを聞いた次の瞬間、周子は一箱十二個入りのすべての饅頭の竹串を引き抜いた。
「なんと性急な!」
ラインハルトが驚いた声を上げる。
ワシらの分は?ワシらの占いの楽しみを無下に奪うな!食べるときに初めて抜くからこそ、ささやかな楽しみがあるというものではないか!とラインハルトは大真面目に文句を言う。
「やだ、どれもいいことしか書いてないじゃん!」
「土産物だからそれでよいのではないか!そうでなければそれこそ呪い師か何かが売るであろうよ」
「ちょび、あんた案外ノリツッコミなのね!気に入ったわ、ちょび!」
「……いや、ちょび!とは少々手厳しいのでは」
ラインハルトはふいに自分が床の上で伸びている無様なハンズと同じレベルで扱われそうな予感がして冷や汗を拭った。
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- 2005-08-28 15:00
- カテゴリ : 「タトゥー・オブ・ギャラン」/長編/連載中
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