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[tog]43:伝説の白鳳凰

 少し先で立って待っていた少女のところまで来ると、少女は涙目で見上げ、大丈夫ですかと話し掛けてくる。心細げに手を伸ばして、自分の手をきゅっと握ってくるのが可愛くて、周子はにっこりと微笑んだ。
「うん、大丈夫よ、ありがとう」
 ギャランは呆けたように腕の中の周子のそんな微笑を見つめていた。
 ごくり、と喉を鳴らした。
「おう、こいつはそう簡単にはくたばらん。ソレよりだな、これからおれはコイツをちょっと本気で口説くからな、どっか行ってろ、ロレンスなんざ今すぐその頭から叩き出してやる、えーと、だがコイツはこれから寝ねぇとならんがな。体力気力ぼろぼろだし……まあなんだ、睡眠学習ってぇやつででもだな?」
「……ったく、またなんかわけのわからんバカなこと言いだしてるよ」
 周子は乾いた笑い声を上げる。
「うん、そ、それならそれで、そうしたいんですけど……」
 周子を見上げる少女の目がまた、たちまちに緩んで、ぶわっ!と大粒の涙があふれた。
「あっちにたっくさんいるんですぅ〜!これじゃあお家に帰れません〜!うわああああん!」
 少女の指差す向こう、屋敷の裏口へと続く先には、重なるように蜘蛛の大群が待ち構えている。
 ざわざわと無数の足が擦れるような気味の悪いざわめきが聞こえて。
「わあ!また!なんでこんなにごっそりいるのよ!」
 周子が短い悲鳴を上げた。
 一拍置いて、あっ!とギャランが間の抜けた声を出す。
 既に周子はその腕の中にない。周子は少女を背にかばうように、きりりと立って、蜘蛛の大群に毅然と対峙した。
「ったく、やけに気乗りしないけど、一気に行きますか」
「か、かっこいいですぅ……」
 背にかばわれた少女が今度は感動のあまりに目を潤ませる。
 ギャランは慌てて周子に声を掛けるが、既に周子は詠唱を始め、トランス状態になりつつある。
「おい、おまえフラフラだろ!こういうやつをだな、度が過ぎればどうなる?」
「ロスト!」
 短く叫んで周子が印を結び行く。高度な魔法ほど、そのアクションも多い。
「ああちくしょう!何してやがる、おれに任せろ!」
「痛っ!」
 詠唱をさえぎり、ギャランが周子を派手に突き飛ばして、腰に手をやった。
「畜生!剣がねぇ!」
「お決まりだわね!後先考えて行動しなさいよ!呪文に集中するのにだって体力気力要るのよ!やり直しじゃない、ばか!」
 再び周子が印を結んでゆく。
「やめろって!やめてくれ!」
 ギャランがそんな周子に取りすがる。
「そんな状態で!お前がロストしたら!」
「あんたがびびるなんて、らしくない!」
「びびる?おれがかっ!」
 予想だにしなかった言葉に、それこそビックリして。ギャランはしばしその場で呆然と立ち尽くした。
「周子!」
 澄んだ、毅然とした声が鋭く飛んだ。
 ようやくカズマの姿が蜘蛛の大群の向こうに見えた。
 腰の剣を抜き、蜘蛛をなぎ払い、こちらへ駆けてくる。
「周子、大丈夫ですか!一体なんですかこれは!」
「若っ!」
 カズマの斜め後方にエンギワルーの短剣が素早く飛んだ。カズマの死角から襲い掛かろうとした大蜘蛛めがけ、とっさに手にしていた短剣を放ったのである。ぐばあ!と派手に体液を撒き散らして、至近距離に迫っていた蜘蛛の頭のあたりがちぎれた。
「エンヴィ」
「若、奴らすばやいようですよ!御気をつけなされませ!」
 カズマがまた一匹ざぶりと、切り捨てた。
「剣を貸してください!」
 エンギワルーの声に応え、カズマが自分の腰に残る短剣を投げ渡すや、エンギワルーはあやまたず受け取り、すかさず蜘蛛に飛び掛る。すばやく、的確で豪快な、なんとも鮮やかな太刀筋だった。
 へぇ!やるじゃん、とエンギワルーのその様に感嘆の声を上げた周子に、我に返ったギャランが叫んだ。
「カズマ、おれにも剣を寄越せ!」
「すいません!二本しか差してませんもので!」
 真っ二つの剣はどうなさいました?と返されて、ギャランはぐぐう、と低く悔しげに唸った。
 ばっさばっさと蜘蛛を斬り捨ててゆくカズマとエンギワルーの勢いはなかなかなものの、数では圧倒的に勝ち目がない。一体ドコから沸いてきたのか知れぬほどの大群である。
 ―――何処から……いやたぶん、やはり封印の書の中からだろう、
 すぐ後で大きくなっていく少女の泣き声が周子の胸をじりじりと焼いた。
「女の子ってこんなに可愛かったっけ!ああ、もう、どうしましょう!気分はヒーローだわ!よっしゃ、気合入れて行きますか!なんか決め台詞でも欲しいところだわね!ちょっと頭死んでて全然思いつかないんだけど」
 周子は気合を入れると、茫洋とした意識をなんとか寄せ集め、辛抱強く詠唱を唱え、印を結びゆく。さすがに冷や汗が浮かぶ。肩が震える。
 ―――ヨシ、来た、
 周子の足下からものすごい勢いで突風が巻き上がり、黒髪が逆立つ。
 行使せんとする呪文の威力に手ごたえを感じ。
「あー、うざっ!どいてよじゃまっ!エスカーダアルティス!」
 周子は鋭く叫ぶと、最後の印をキッチリと結んだ。
 容赦なく広範囲に爆発の衝撃波と炎を撒き散らす殺戮最上級呪文である。
「周子!ひどいです!」
 カズマが短く叫んで身を伏せた。
「若っ!」
 エンギワルーがカズマの上に守るように覆いかぶさった。
 青白い超高熱火炎がすさまじい勢いで放射状に四散し、刃と化した火炎が殺傷範囲内の蜘蛛の山を粉砕し、焼き尽くす。
 やがて、ぼろぼろになりながらカズマとエンギワルーが身を起こした。
 そんなカズマとエンギワルーを見遣って周子はにやっと笑った。
「心配しなくていいわよ、味方へのシールドが効くから。ね、無事だったでしょう?ははん、これでお開き。一発芸!なんちゃって」
「ね、って……ほんとに我々を味方だと思ってくれてますか?」
 カズマのその言葉に沈黙して。
 やや間をあけて。周子は、はははと軽く笑った。
「なかなかイイトコロを突くわね」
「周子……冗談にもほどが……おっと、周子?」
 カズマがふいに崩れ落ちる周子を慌てて支えた。
 どこか焦点の合わない黒目で周子はカズマを見上げる。
「あー、ごめん、ちょっと疲れちゃってて。さすがにもー無理。悪いけどこのまま部屋に連れて行ってくれる?」
「え、ええもちろんです、大丈夫ですか?全く無茶をなさって。なんということだ、どれほど心配申し上げれば気が済むというのです」
 カズマが周子を抱き上げ、神妙そうにその顔を覗き込む。
 そんな二人を目の当たりにして。
 ギャランはなにやら妙な敗北感をごっそりとその背にしょって、うめいた。
「おれはおまえが心配なだけだ、ロストしたらどうする、お前のためならおれは素手でも戦うぞ、お前の身を案じて何が悪い、なんであんな大ワザを」
 ほおを伝うのが、雨なんだか涙なんだかわからないくらいに惨めな気分である。
「ちくしょー、剣だ、剣さえあれば!こんなあほなツラ下げんで済むだろう!!剣を持て!と言っても、誰もあの剣に触れられないんじゃあ、自分でとりに行くしかないじゃあねぇか!えらく不便だぞ!不便だ!剣!剣よ!おれの元に飛んで来い!来いってぇんだ!畜生!」
「うむ、我を呼んだか?」
 振り返ると、庭の低木の上に停まった白い羽根の巨大な鳥がギャランを覗き込んでいる。
「白鳳凰……伝説の……神の鳥?」
 カズマが呆然と呟く。
 驚きのあまりに周子を取り落としそうになり、周子がその首根っこをつかんで短く抗議する。
「我は持ち主を選ぶ。ゆえに、何人たりとも我の許可なく触れることは許さぬが、主と認めたものが呼べば、どれほど離れていても我は主の下に飛んで行くぞ?」
 ギャランはおもむろにその秀麗な眉を引き寄せた。
 胡散臭そうに見遣る。
「おめー、だれだ?カズマ、剣をよこせ、うざ。やっちまえ!」
「なんと!……そのあたりが心配で今まで静観を決め込んでいたのだが。やはりバカなのだな」
「がはー!トリ!鳥頭にまでバカ呼ばわりされてるよ!」
 周子が笑い転げた。
 白鳳凰がつくづく嫌そうに目を半開きにして周子を振り返る。
 身震いするかのように、白い羽根をばさりと一閃して。
「タチバナ。つくづく無礼なやつだな。おぬしの父もそうだったが、その先代も、またその先代も……ああ、いろいろと思い出した。……つくづく、お前の血は代々無礼だな。まあ、もうタチバナに使役されることについてはもはやとうの昔にあきらめたがな」
「使役?」
「我は先代、イビサの命にてクレリック・リザートに仕えていた、伝説の真っ二つの剣だ」
「あんた、あの真っ二つの剣なの?」
「いかにも。我は元来タチバナの命に従う使役獣であり、それこそ永きにわたって代々タチバナの血の直系との契約を糧に命をつないできた、高位の魔族である」
「真っ二つの剣はクルの剣だとしか聞いていない。あんた飛べるの?剣なの?鳥なの?どっち?両方?なんか都合良すぎじゃない?」
「うむ。いままで静観を決め込んできたが、やはりイビサはお主にはろくに話をしていないようであるな。本気でタチバナの血を絶やすつもりだったらしい。ドランクドラゴンを本気で葬るつもりだったとは、さすが、あやつはキチガイだ、むかしから表情一つ変えぬ、おかしな奴だったが……」
「ドランクドラゴン、って……血を絶やす、って……?」
「とんだ世間知らずだの」
「!アンタまでそんなこというの!」
 トリにまで言われた、すごいショックだ、と周子はうめいた。
「……まあ良い。もし知りたければ、おいおい話してやろう。おそらくイビサの意思には反するであろうが……奴は既に呪竜を抜かれて死んでおるのだから、もはや後戻りもできまい」
 白鳳凰は理知的な、なにでも知っているかのような、心の奥にまで深く染み入るような良い声でゆっくりとそう応えた。
「後戻り、ってうっわー、なんか思わせぶり……なーんか、すんごーい、やーな感じ。あっ!ちょっと待って!呪竜って!!!」
 周子はキッ、と白鳳凰を睨みつけた。
「父さんは……父さんは名を刻んだの?」
 白鳳凰がゆっくりと頭をうなだれた。
 がたがたと体が震えた。
「……誰、の?」
「ロレンス」
 頭が真っ白になった。
「父さんは、ロレンスに殺されたの?」
「いや。イビサはタトゥーに」
「……抗ったの?」
「怒り狂ったクレリック・リザートがロレンスを真っ二つに叩き斬ったが」
「うそ。じゃ、ロレンスも死んでるの?」
「そう、いや、こっちの世界におる」
 周子の黒髪がざばり、と逆立った。
「じゃあ、私がロレンスを殺ればいいってわけね!」
「早まるな。ロレンスはお前の召喚契約の主でもある、お前はロレンスの庇護下にあるはずだ」
「庇護、って……」
「少なくとも、お前を探しているはずだ」
 周子は頷くと、カズマの首に回した腕にぎゅっと力をこめる。カズマが心配そうに周子を顔を覗き込む。周子は何処か苦しげに目を伏せて小刻みに震えている。
「周子?」
 その表情に、ふいに心臓をわしづかみにつかまれたような、不安な気がして、カズマがかすれた声で周子の名を呼ぶ。腕の中で震えるその様はなんとか弱く頼りないことか。
 周子が心の扉を閉ざしたのを悟り、白鳳凰は微かに目を細めた。
 いたわるような、優しい声をかける。
「さて、我はそこの金髪のガキがあんまりにもしつこくうるさく呼ぶものだから、わざわざ出張ってきたのだが。どうする?確かに、頭の悪さに難はあるものの、本気でお前を守ろうとしていたからな、我を岩から抜かせてやったのだ、我はタチバナを守る者にのみこの身を従属させる。我を奴に仕えさせる気があるのか?我と契約を交わせば、タチバナのお前が命ずれば、我は何でもするぞ」
 周子はその声音に少し落ち着いたようだった。
 ふうん、と喉を鳴らしてすこし首を傾げた。

「ああ、じゃあ、肩揉みがいいな……」
「周子!王に帯剣させるように言ってください!」

 軽い冗談を言えるようになったらしい周子の口をカズマがぎゅむと抑えて鋭くささやいた。
「肩揉みなら既にハンズがいます!」
「だってハンズは握力が物足りない。五歳児だし」
「彼の手を御覧なさい」
 周子は、鳥独特の鋭い爪を備えたその脚を見、ひく、と頬を引きつらせた。
「肩揉みには向いていませんよ」
「そ、それは、たしかに一理あるわね」
 何処までも冷静なカズマの言葉に頷いて、周子は真面目な顔になった。
「じゃ、あんた揉んでくれる?」
「!私が?なぜ?グランツ家次代宗主のこの私が?」
 カズマは驚いたように憮然とそう言って断ったが、すぐに思い直したように、分かりました、とうなずいた。その代わり、と周子に要求する。
「わかった。肩揉みと交換条件ね?真っ二つの剣、あんた、ギャランの剣になっていつでもどこでもあのバカと一緒にいなさい、どんなときでもあの男に最大限の力を貸しなさい」
 わしは肩揉み程度の交渉材料か!と白鳳凰はなんとも嫌そうに身を捩った。
「……むむ、だがまあ、よかろう。では、契約だな。血を」
「血!?贅沢な!」
「これまでの使役主であったお前の父、イビサが死んで久しい。これは新たな契約だ、契約と引き換えに私はお前の魔力を常に供給されることになる。我はお前の金の精気を分けて欲しいのだ」
「き、供給って、ど、どれくらい?ドランクドラゴンの盟約石みたいに、人の魔力をバカスカ喰うの?そ、それはちょっと困るような気がするんだけど。ほ、ほら今日みたいに、キラーウルフとか、こんなデカ蜘蛛だとか、ごっそり出てきたら、いろいろ厄介だろうし……第一、今日はめっちゃくちゃ疲れてるし、魔力を分けるなんてとてもとても」
 周子は露骨に嫌がった。
「いいから早く!」
「いたっ!」
「カズマ、てんめー、おれのオンナに何しやがる」
 カズマは周子の親指をきつく噛み切ると、周子の親指の先をそのままつかんだまま、有無を言わせず、白鳳凰の額になすりつけた。
「使役獣との血の契約って、こうでいいんですよね?昔何かの文献で見ました」
「まあタチバナの血には変わりはない、良かろう」
 ぱっ、とまばゆい白光が瞬き、周子と白鳳凰とを包んだ。
「周子タチバナ、汝を我の主と認めよう、我命尽きぬ限り、主たるお前の命に従い、お前を守る者に力を貸そう……血印契約、ここに相成った」
 カズマは周子を力いっぱい抱きしめた。
「三現神ですよ!やった!三現神です!」
「か、カズマ様?」
「白鳳凰は伝説の三現神の一つですよ!王はとうとう一つ手に入れたんですよ!まさか真っ二つの剣がそうであったとは!すごい!すごいことですよ!」
 カズマは周子を放り出すと、天を仰いでガッツポーズをしている。
 ほうりだされた周子はむっとして。
「あれ?でもちょっと調子が良くなったかも?自力で立てるし?」
「うむ、我の力を少し分けたからな。契約を交わした以上、われわれの間にはある種の依存関係が生じておる。お前に死なれたら、我もまた当分、タチバナの金の精気とは無縁になってしまうからな、いくら我が高位の魔族とて、そうそう長い間は空腹には耐えられん。お前が出てくるまで、もう既に五百年も待っていたのだ。我が本来の力を存分に取り戻すまで、タチバナには生かさず殺さず、魔力を分けてもらいたいのだ」
「へえ、まるで寄生虫のような発言……」
「つくづく無礼な奴だ!!我は神とも呼ばれるだけの力のある魔族だぞ!」
「魔族で、神って、もうなんだか矛盾してるみたいだけど、あー、まー、いいや、とにかく、だるいし。寝るわ。ねりゃー魔力も回復するし。じゃあね、トリ、後でゆっくりハナシ聞かせてもらうわー、ばははーい」
「トリ、ってお前は我の主だろ、名を聞かぬのか、名を!名を聞け!名で我を縛れ!」
 がなりたてる白鳳凰を無視し、ギャランはつかつかと周子に歩み寄ると、むんずとその腕をつかんだ。
 秀麗な面持ちを切なげに歪ませて、周子を抱き寄せる。
「ぼろぼろだな、とにかくお前は寝た方がいい、来いよ、おれが連れてってやる」
「歩けるもの、もう自分で行けるわ」
「……いや、おれが、連れて行く。少しぐらい、おれを頼れよ、もっとずっと」
「……あ……」
 ギャランは愛しくてたまらない、といった風におもむろに周子をぎゅっと抱きしめる。周子はビクリとしてその腕の中で息を呑んだ。
「我の名を聞け!我の名は、ララクロノフだ!!」
 白鳳凰が羽根を散らして叫んだ。
「おっけー!」
 ぐっ!とかるーく親指を立てて合図する周子の様子はおよそ血を介した召喚とも契約とも使役ともそぐわぬ軽薄さである。もちろん、切なげなギャランの表情ともかなり縁遠いものがある。
 周子はその勢いでギャランを突き放し、びっ!と人差し指を突きつける。
「あんたが剣よ来い!なんて突拍子もないこと言うから、こんなヘンなトリが来て、結局私が契約する羽目になったのよ、供給って、一体どんだけ魔力を消費すると思ってんの!……ははん、いや私も実際知らないけどさ?でもまあ、これでいつでも剣が使えるし、呼べば飛んで来るなんて便利ですもんね!で、で?なんか言うことあるんじゃあ、ないの?」
「さ、さんきゅー……?」
 ギャランが困惑しきったようにうめいて。ここはそう言う場面か?こう、おれの目を見詰めて……おれと見詰め合ってちゅーっと、じゃないのか、とぶつぶつと呟いた。
「おっけ。じゃ、ちょうどいい、その立派な剣様でそこらへんの焼け残った叢、刈っといて」
「おれがかっ?」
「クモの巣だらけだから。丸刈りにして、刈った草は焼いといて。万一卵なんてあったら厄介でしょ、キッチリ始末しといたほうがいい。ま、あんたは今回一番活躍してないからね、そのくらいはやらないと。ヨロシクー」
「うぐ」
「情けないな、若造。まあよい、タチバナの無礼は代々のことだ、あきらめろ」
 白鳳凰が剣の姿に戻ると、すうっとギャランの手の中に降りてくる。
「なんでおれが」
 真っ二つの剣を握り締めてギャランが呆然と呟く。
「あ、カズマ様、あのさ、あの……その……」
 ギャランを無視し、周子はカズマを見上げ、言葉をかけた。
 先ほどの最上級破壊呪文のあおりを食らって哀れ半壊となった屋敷に目をやって。バツの悪そうにバリバリと黒髪を掻いた。
「また、壊しちゃった、ごめん」
「いいえ!保険、掛けてありますから!」
 カズマははつらつとした声で応える。
「どうせなら、全壊の方が良かったんですが。今回の保険の掛け金、非常に高かったんですが、でも掛け金よりもはるかに!!すごいです!こんなリターンは!!いやはや!なんともいとおしいですね、あなたがいてくれて良かった」
 返って来るであろう保険金の額を計算しながら、カズマは上機嫌で。満面の笑みを浮かべて周子の両手を握りしめた。
「えっ?」
「ああいえ、失礼。大黒字でしてね?」
 ははあ、と周子はつくづく感心してカズマを見上げる。
「……あなたはホントにお金が好きなのね」
「ええ!あなたがどうにも金塊に見えます。いえいえ、錬金術師のようですよ、すばらしい。私、こんなに素晴らしい人間を見たのは初めてです。いやまことに素晴らしいお方です。この先もぜひずっと私と共にあって欲しいものです!」
 カズマは上機嫌で周子の肩を抱く。
「さて!今夜のご馳走は何にしましょうか!!何でも好きなものを仰ってください!盛大に、パーっと!さっきのおかゆというのはあれは冗談です、ええもちろん!撤回します!」
「こら!そこ!何口説いてやがる!」
「……口説くだなんて心外です、いくらなんでもあんまりです」
 ギャランの言葉に、途端に真顔に戻ると、カズマが至極不快そうにそう返した。
 そして、まじまじとギャランを見つめて。
「……えーと、手伝いましょうか」
「なに?」
「なんだか今回はあまりにあれなので」
「あれというのはなんだアレというのは」
「いえその」
 カズマの目が数瞬ためらったように宙を泳ぐ。
「情けないと?」
「……ええ、まあ、その」
「だーっ!どっか行け!おまえらみんなどっか行け!」
 ギャランが刈った草の一握りをカズマに投げつけた。

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