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[tog]46:絡む理由は

 エンギワルーから一通りの事情を改めて聞き、カズマは頷いた。
「キラーウルフが……それに先ほどの大蜘蛛の大群。ルドルフ一行を襲った狼は囮という可能性もありますね。もっと私も気を付けるべきでした……しかし、なぜ、この私の屋敷に、魔物が襲撃を仕掛けてくるのか」
「この周子が居るからだろう」
とギャランが唸る。激しく立腹しているが既に存分にカズマの無用心振りを責めているので、もはやカズマに対しては言葉は無い。その苛立ちの矛先は周子に向かう。
「お前、本当に身に覚えは無いか」
「あったら、とっくに親玉を叩いてるわよ」
 間髪入れずに切り返す周子。
 ギャランはふん、とバカにしきった風に鼻を鳴らした。
「親玉はそのロレンスに決まってる」
「その口、二度と叩けないようにしてやるわ」
「周子!」
 カズマが印を結びかけた周子を慌てて取り押さえる。
 ギャランが苛立ちを抑えきれぬ様子で周子を頭ごなしに怒鳴りつけた。
「お前はこの国に恨みでもあるのか!お前が来てからというもの、魔物が続出だぞ!それも、お前の居所を探っているみたいだ!一体、何を隠している!このおれに隠し事をする気か、おれはお前の主だぞ、知っていることは全部、吐け!お前の所為なんだからな!」
「王、それは言い過ぎでは」
 少なくとも命令するのはおやめください、とカズマはギャランの言質を正した。
「はっきり言わんとこのバカには通じんだろ!」
「はっきりとしか言えないバカ国王のクセに!」
 周子もまた噛み付く勢いをいささかも抑えようとしない。
 ものすごい勢いで罵りあいの応酬を繰り広げ、睨み合った。
 ただでさえ率直で血の気の多い王である。いつ、剣を抜くか知れぬ。カズマはかばうように周子を抱きしめ、はらはらしながらどうにかこうにか割って入るが。
 だが今度はカズマが周子を抱きしめたのがよほど気に障ったのだろう、ギャランは一層怒りに肩を震わせ、怒鳴った。
「なんだこの魔物の出現ぶりは!おかげで眠っていた軍部が総動員だぞ!ここ数ヶ月の間に何でこんなに国が動くんだ!なんでお前が狙われるのか、理由はたった一つ、間違って召喚された事だ!」
「あんたの所為で事故ったのよ!」
「知るか!勝手に押しかけた挙句、何が望みを言えだ!」
「私を自由にしろって言ってんのよ!」
「訳のわからぬままに振り回されるのはゴメンだ!おれはお前の事情を話せと言っている、お前と魔物との関係をとっとと吐け!」
「王、少し頭を冷やされた方が……」
 冷や汗を滴らせながら、カズマが忠告する。
「あなたの不用意な命令ひとつに周子の命が懸かっています、お言葉にご注意していただきたい、命令するは断じてご容赦いただきたい」
 さすがにそれはそうだと思ったのか、ギャランの青い目がかすかに揺れる。周子から目を逸らせあらぬ宙を睨んで。
「ふん、カズマが居てよかったな」
「あんたがね、ばーか」
「!……………勝手にしろ!」
 ギャランは足音も高く部屋を出て行く。
 カズマは深くため息を吐いて。
「これほどに逆らって手討ちに合わない人も珍しい」
「やりたきゃやれってのよ」
 ふん、と周子は大きく鼻を鳴らした。
「あんの変なトリの剣でばっさりやっちゃえばいいんだわ!こんなタトゥーに操られるくらいなら!あんな奴!あれが主だなんて、私、死んだほうがマシ!」
 ごっそりと不機嫌丸出しでそう言うと、周子はカズマの腕を払い、ふらふらとベッドに歩み寄って身を投げ出した。
「ギャランが主だなんて……まじで死んじゃいたい」
 ベッドのシーツにぐりぐりと額を擦り付けまるで駄々を捏ねるようにそう言う周子の様子はまるで子供の仕草で。敵とみなしたものを容赦なく蹴散らす強さと物騒さ、だが同時に世間知らずな子供臭さの同居するなんとも不思議な姿態だった。
「何もそこまで極端に嫌わずとも……」
 ああ見えて、王は信頼に足るまこと良いお方ですよ、とカズマは深いため息を吐いた。
「王はあなたを大切に思っていらっしゃいますよ?」
 それが報われないからこそいっそう激しく苛立ちをぶつけてくるのだ、無下に拒むな、とカズマは冷静に説いて聞かせるが。
「ロレンス。あなたがここに居てくれればいいのに」
 周子はギャランの弁明をするカズマを無視し、まるでまじないのようにロレンスのその名を呟く。何度も何度もロレンスの名を呟いて。
 さすがにこれはあまりいい気分はしない、とカズマは内心そう思った。
「ねぇ、カズマ様……」
 しばらくしてから周子はポツリと言った。
「どうして、ギャランは王であることをあんなに拒むの」
 はっ、と小さく、息を呑む気配がある。
 カズマとの間の空気ががらりと変わったのを周子は感じた。
 瞬く間に緊迫したその空気に、周子は何か触れてはならぬ琴線に、いや、なにかもっと巧妙に張り巡らされたトラップの鉄線に触れたのだと咄嗟に判断した。
「王になる呪がかかってるって?王になるのを望まれてるということ?それでもギャランは王になりたくないと言い張っているの?」
「………………」
「呪いなの?それではたして呪いなの?」
「………………」
「あのバカはとことん周囲を無視して。なんだか、まるで存在している空間が違う、みたいなくらいに、他人と自分とを切り離して。宮中をさんざん悪し様にギャランは言ってるけど、実際はそんな険悪な雰囲気もないし、それどころか、みんなギャランを好いているようにも見えるのに。なんであのバカは一人でみんなを寄せ付けないの?」
 カズマは頷くでもなく、ただ黙って聞いている。
 周子はさらに切り込んだ。
「向けられる好意を、すべて拒絶するのはどうしてか」
「ですが、あなたは彼に拒絶されてはいない」
 カズマは落ち着いた声でそう返した。答える気はないと暗に告げる。
「そうね」
 周子はカズマの言外の拒絶をかわすように軽く首をひねった。
「そりゃタトゥーの呪があるからよ」
 恨みこそすれ、好意なんて、とんでもない、と周子はあっさりと言った。
「どんなに嫌っていても惹かれるのがタトゥーの効力よ。まるで惚れ薬」
「王があなたに構うのもタトゥーの所為だと仰るのですか?」
 もちろん、とうなずく周子。カズマはなんだか妙に苛立ちを覚えたがその理由がよく分からない。
 好きな相手くらいは自分で決める、タトゥーは関係ない、だって本当の主はロレンスだもの、と周子はキッパリ答えて。
「タトゥーを抜きに考えても、王宮の臣下みたいに、ただギャランのことを好きだと言う人間にはまるで冷たいけど、例えば私みたいに彼をロクデナシだと言う人間にはやけに絡んでくる気がするのよね。きっとギャランは自分が本当はロクデナシだと思っているんだわ」
 周子は、息を吐いた。そして、にやっと笑って。
「それでね、私、あなたも、ギャランに拒絶されているとは思えないんだけど……ひょっとして同じ理由?」
「おもしろい」
 カズマは一言、そう呟いて冷たい微笑を浮かべた。
「その魔除け、とやらが関係あるの?あんた、その他大勢さんとは違うわね?」
 ギャランのことを決して好きなわけじゃないでしょう、と周子はさらに鋭く踏み込んだ。
「その洞察の鋭さ、いつかきっと後悔しますよ」
 先程までの柔和さはすっかり影を潜め、瞳ばかりが炯々と輝いている。まるで別人のようにぞっとするほど冷たく剣呑な表情だった。

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