Entries

「10リッターの女」/短編

「レギュラー、10リッター、現金で!」
 グレーの地味なセダンだが設えはいい。すう、と滑るように給油口を寄せると、彼女は窓を開け、控えめだが快活な声でそうキッパリと言う。
 前に出していたシートを後ろに引くと、わずかに身を倒して給油口のレバーを引く。そして、ふっ、と息を抜く。交通量の多い国道からうちのスタンドに車を滑り込ませて初めて小さく息を吐く、そのどこか一瞬気の抜けた表情が好きだ。
 今日もミニスカートだ。シートの上でちらと捩られる決して細すぎない柔らかそうな太ももの、その白さがいい。
 吸殻はないかと聞くと、ドアを開け大人しく吸殻入れを差し出してくる。いつも彼女を華やかに彩っている艶やかなその口紅のついたものは一つもない。銘柄的にみても男のものだ。車のグレードは高い。こんな車を共有しているのならば結婚しているのかもしれない。
 彼女の言葉は決まっている。レギュラー、10リッター、現金で。ガソリンスタンドで吐く言葉ならこれで十分に事足りる。10リッター、彼女はいつも10リッターだけしか入れない。
 そして、彼女の訪れる頻度は10リッター消費する分には空きすぎている。
 つまりは、どこか、なじみのガソリンスタンドがあるってわけだ、彼女はそこで満タンに給油して、そしてうっかり足りなくなると俺のトコロへ立ち寄るって寸法だ。ガソリンがちょっと残り少ないからというそんなそっけない理由、スーパーに買い物に行くだとかちょいと用事を済ますため、そしていつものスタンドに行くまでの、その場しのぎの給油さ。
 ―――満タンにしてやりてぇ。
 思い切りぶち込みたいという気持ちを抑えるのももう限界だ。
 とうとう俺はアプローチを仕掛けた。
「オイル見ましょうか?」
 え?と彼女はちょっと意外そうに目を見開く。
「いいです」
 彼女の答えは短かった。
 だが、俺も引き下がれなかった。
「エレメント剤、入れときます?」
「いや、大丈夫です」
 いつものスタンドに行って見てもらえばいいから、というわけか、そうだな、そういうわけだよな。
 俺は異様な嫉妬心が肚の底を焼くのを感じた。

「ありがとうございましたァーッ」
 俺は明るい声を張り上げ、彼女のセダンを国道へ誘導するといつものようにオーバーアクションで一礼した。
 ―――次、みてろよ。

(短編小説目次へ戻る)
 
 
[あとがき]
 妄想ガソリンスタンド。旧ブログから移行してきた唯一の品(あ、タトゥーは別)。毎回このぐらいのボリュームでナニゲに続くといいななんて思ってます。俺の猛追が始まる。

2件のコメント

読んでるうちに、アレ? コレって読んだ事あるぞ! もしかしてデジャブ??? それともボケ老人??? (笑)
と思ったのですが、旧ブログから移行されたのですね、ちょっとホッ♪としました。(汗)
  • 2005-10-28
  • 投稿者 : 月見酒@仕事しろよ!
  • URL
  • 編集
仕事しろよと怒られたかと思いました(あ、そ、そう?)。
 こんにちは、月見酒さん。ボケ老人には早い早い!大丈夫ですよ、以前のものですよ。というより、月見酒さん、小説系をちらとでもお読みくださっているとはオドロキで(たまたまかな)。

 旧ブログ、第一サーバーだったのに(なぜかそこだけが惜しい)、とうとう退去しちゃいましたよー!絶対に手入れしないという確信があったもので(さすがにそんなヒマねぇです)
 ではでは。

コメントの投稿

新規

投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

0件のトラックバック

トラックバックURL
http://klimit.blog7.fc2.com/tb.php/272-026023bd
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

Appendix

最近のエントリ

過去の記事タイトル一覧 はこちらから

ブログ内検索

QRコード

QRコード

小説「タトゥー・オブ・ギャラン」も読めるよ!
http://klimit.blog7.fc2.com/

最近のブクマ byコハ

    Read more...on koharitoのブックマーク