コハリトりみっと
長編恋愛FT「タトゥー・オブ・ギャラン」がメインの小説・雑記サイト。
初めての方へ | 絵板 | RSS![]()
Entries
「トライフル刑事」〜狂気のロンド ガーナ署トリニティ〜/タトパラ2
第25話:「親友と妻と幼馴染と」
「やあ、その、署内はなかなか居心地が悪いな?」
まるで私は犯罪者の扱いだな、とカズマは案内された会議室に入るなり冗談めかして苦笑した。
「周子刑事をあっさり仕留めたのだ、それくらいの妬みは覚悟しろ」
会議室ではなく取り調べ室の方が良かったか?と嘲笑を含んだ桜井の野太い声、その言葉に、そういえば署に出向くのは周子刑事を籍に入れて以降では初めてのことだったかと気付いて。道理で署内の人間の視線がキツい筈だとカズマは口の端を下げた。
「人の妬みを買うことなぞとうに慣れている、むしろ貴様がこの空気を仕切っているのではないのか、桜井准将。お山の大将気質は相変わらずだな」
「准将と階級で呼ぶのはやめてもらおう、私は今、国家警察に属している」
すかさずカズマの言葉に訂正を求めると、桜井は肩を竦めて苦笑して。
「妬みを買うのには慣れている、か。お前のほうこそ相変わらずとことん嫌味な男だな」
カズマはそれを無視すると、
「まさかSATまでが首を突っ込んでくるとは思いませんでしたが?」
不快感を露わにそう言って、先に入室しデスクについていた課長アシューを見た。
「我々は単体で動くことが許可されているはずですが?」
「私とて単体だよ?別段SATの隊長としてここにいるわけではない。個人的に仲間に加えてもらっただけだ」
口を挟んだ桜井を、課長と話をしているんだ貴様は割って入るな、とカズマはキッパリと遮って。そんなカズマの神経質な容赦の無さにアシューはいつもの渋面を少し緩め、微笑む。
「SATの介入は無いよ。むしろ桜井君を介してSATの精鋭部隊を自由にできるようになると言っていいかもしれない。まあいいではないか、カズマ特別補佐官。もともと君こそが自由に動かせる兵隊を欲しがっていたんだし」
「SATが欲しいだなんて一言も言ってませんが?大体、SATなんて、確かに以前使ったこともありましたが、五人がかりでギャラン一人にぶちのめされるような脆弱なヤツラですよ」
桜井が苦笑した。
「今度は私が頭だ、私の率いるSATの精鋭は過日の空港での一件含め、良い動きをするとの評が固いが」
だからお前は口を挟むな、邪魔だ、とキッと桜井を睨んだカズマ、アシューはその場をとりなすように穏やかに二人を制して。
「それにルシウスだっていいって言っていたのだ、カズマ特別補佐官」
「ルシウスが?」
カズマはたちまちいぶかしげな表情をした。アシューはその反応をさらりと受け流すと、いつもどおりの実直な渋面に戻り桜井を示して。
「彼の人間性、実力は勿論のこと、信頼に足る出自のしっかりした人間であることは折り紙つきだ」
「はん、そうか、ルシウスに警察庁長官筋から圧力を掛けたんだな?」
あの如才ないルシウスが折れるなんて、らしくもない、とぶすっと腕組みをして鼻を鳴らしたカズマの指摘を、桜井は軽く首を竦めて流して。
「まるでコッチが不当な手段を講じたみたいな言い方だな?」
「そのとおりじゃないか」
「相変わらず手厳しい。カズマ・フォン・グランツ、実際に会うのは久しぶりだが、昔から全然変わらないな」
昔のことを持ち出すのなら、そもそも幼等部への入学からして桜井は不正を講じたろう、とカズマがあからさまに蔑んだ表情を桜井に向けた。
「それは誤解だ、私だけ別途に試験を受けただけの話だ」
「それを不正受験だと言っているんだ」
「ロスにいたんだ、父の駐在の都合で日程が合わなかっただけだよ」
ああもう、全く、カズマ・フォン・グランツはそんな昔のことをいつまでもいつまでも忘れることなくしつこいなぁ、これじゃあ、今までずいぶんとやりにくかったでしょう?と桜井は改めて取り入るかのようにアシューに笑いかけた。
「実は幼馴染で」
「ちっとも馴染んじゃいないですよ、失敬な!」
事実を曲げるな、とカズマが真顔で否定した。カズマの素早い拒絶に桜井はまた笑う。
「昔はずいぶんとからかって遊んだんですが、そのうち、引きこもり始めまして。まあ、少々いろいろとやりすぎたかもしれませんが、何しろカズマはトンガリ小坊主だったもんで」
「貴様は昔から何かにつけ、長になりたがった、権力好きといおうかくだらん帝国作りだ、腰ぎんちゃくをぞろぞろと引き連れて。幼等部から高等部まで学内成績では常に首席の私が相当目障りだったようだがな?」
「勉強の成績だけ良くったってね?運動神経が鈍いから、テロにあっても無傷でいられないんだよ、お前なんて財閥の跡取の椅子に座ってぼうっとしているのがちょうどいいのさ。大体、お前が刑事だなんて、一番向いていないね。グランツ家跡取の座を蹴ってただの刑事として試験を受けるとは、私も噂を聞いた当時はずいぶんと驚いたよ?ルドルフはずいぶんと怒り狂っていたが、いや、泣いていたかな?一匹の金髪野犬を拾って以来人生を狂わせた、って」
ギャランのことを匂わせるなり、途端にカズマの瞳に剣呑な鋭さが宿ったのを察した桜井は、おっと、と呟いて、わざとらしくバツの悪そうな表情をした。車椅子の足をちら、と見て。
「おかげでグランツ家宗主の椅子ではなく車椅子なんてザマだ。ああしかし、ちょっと言い過ぎたな?足は勿体無いことをした、同情する」
「聡明な奴は言う前に口を閉じる。言ってから詫びるのは、真に腹黒い奴と相場は決まっている。同情とはこれまたパンチの効いた嫌味だな。統幕僚長の祖父御はルドルフが司令本部移設の際の資金提供を断ったのにずいぶんとご立腹だったそうだが……桜井、私は別に跡取の座を蹴ったわけではない、跡取は跡取だ、金が必要なら言葉遣いに気をつけるんだな?私がグランツ家を継げばこの指先ひとつでいくらでも資金を動かせるんだ」
「あのさ?政治的な話は、他所でやってくれる?ここ、一応、ごくごくフツーの公僕が勤務するところだから?」
「課長……」
カズマはつくづく嫌そうに、間に割って入ったアシューを真正面に見た。
「カズマ特別補佐官、ルシウスがいいって言ったんだ、言いたいことがあるなら、ルシウスに直談判してくれるかな?何せ私は管理職だし。さてと。挨拶はそのくらいにして」
「この一連の応酬のどこが挨拶ですか」
自分を管理職といってあっさり逃げるあなたが、一番厄介かもしれませんね、とカズマはたちまち毒気を抜かれて苦笑した。ルシウスが肚を割って話すという数少ない人間が、その優秀さを隠してこんな一介の警察署内の課長職に留まっているという点ですでに十分に怪しい。
カズマは小さくため息を吐くとちら、とメガネのブリッジを押し上げた。
「課長。ところで、ギャランは?」
数拍の間。
ガタガタッ!とアシューのデスクが大きな音を立てて揺れたかと思うと、その足元から派手な金髪が飛び出した。
「じゃーん!なんっつって、いよう!カズマ!」
晴れ晴れとした明るい表情である。
頭部に手厚く包帯が巻かれているものの、顔色は良く、陽気に手を上げて挨拶するあたりを見ると、まさしく元気そのものである。
「お前は当面安静だろう、院内に姿が無いと今朝方医師共が慌てて連絡を寄越したぞ。用が済んだらお前を連れて帰る、むしろ今のお前を見てメインの用向きはそちらのような気がしてきた、相当打ち所が悪かったんじゃないのか?こんなバカな真似をよくもまあそんな楽しそうに」
「お前が署に来るって聞いたから、驚かせようと思ってわざわざ隠れてたんだが、あーこりゃなんか完全にスベったって感じでだな?いきなし熊田と口喧嘩始めるしィ、で、出るタイミングが無くなっちゃって……ほら、周子ちゃんも出た出た」
「あたたたたた……せ、狭すぎです、ギャラン刑事」
周子の黒髪がよたよたと同じデスクの下から這い出てきた。
「ど、どうも。えーっとこんにちはです、カズマ特別補佐官。こ、こんなところからこにゃにゃちわー……とかって」
寒いですギャラン刑事、スベりすぎです、と周子はギャランのシャツの裾を引いて赤面した。
「何をやってるんだ、バカか、お前達は」
思わずカズマは眉を顰めて。
「ええーっと、お茶。お茶、入れてきますね」
周子はそんなカズマの視線から逃れるように、そそくさと退室する。
カズマはあきれた顔をしてギャランを見上げて。
「大体、物理的に大の大人が二人も入って隠れられるスペースではないだろう」
「だからこそもっとずっと驚いてくれるかと思ったのに」
「くだらない」
カズマは馬鹿馬鹿しい、と吐いて捨てるなり顔を背けたが、背けたその先に桜井の羨望の眼差しを見てギョッとする。
「いやあ、いいなぁ羨ましい、ギャラン刑事。そんな狭いところで周子刑事と二人っきり、一体どんな体勢でそこに収まっていたんだ?」
「そらお前の羨むようなイーイ体勢だが、てめぇのガタイのデカさじゃ、手足をバラさなきゃ到底入らねェだろうな?いっそおれが手足をもいでやろうか?そういやゆうべカニ喰ったんだった。カズマ、昨日の夕食はべらぼうに美味いカニが出たぞ?まじでいいのか一応病院だろ?病院食でカニって、普通聞かんぞ?ホテルか旅館だぞ?」
「やったのは頭だけで内臓は元気だからな?喰いたいものを喰えばいい、医師からもそう報告を受けている、気兼ねするな、オーナーの私が許可してるんだ」
慌てて桜井が割って入る。
「待てよおい、人をカニと一緒にするな。おまけに二人して私をあっさり無視しやがって。ギャラン、ガーナ署に来るたびにいつも思うんだが、本当に周子刑事はお前になついているな。実際、仲のいい相棒刑事だと私も認めざるを得ない、だがいつまでもそんな安穏なことを言っていられると思うなよ、私とて決して諦めたわけではな……」
「おう、おれも茶、汲んでくる」
ギャランはそんな桜井の言葉なぞまるで耳に入らぬかのようにさばさばと身を翻して。
「待てギャラン、お前は医師に安静にしてろと言われているはずだ、頭……」
カズマは慌ててギャランを諌めようとしたのだが、当のギャランは既に退室した周子の後を追ってさっさと出て行ってしまった。
「まあ、ほら、いつもの事だから」
アシューが再びとりなすようにカズマをなだめる。
「今では大変に仲のいい相棒刑事だよ。片時も離れないって感じ?君が例の事件でリタイヤしてから相棒なんて絶対要らない、とずっと言い張っていたのに。かなり荒んだ感じで心配していたのだが、このごろはぐっと落ち着いてね。周子刑事とはウマが合うのか、いつも一緒だよ、正直、我々としても助かっているんだ」
「むしろ日頃の二人の様子を、夫であるお前に見せるのは少々憚られるんじゃないかと思うくらいにね?」
まるで恋人同士のように仲がいい、とそんな棘を含んだ、からかうような桜井のその言葉にカズマはすこぶる機嫌を損ねて。
「周囲に妙な誤解をされぬよう、妻に申し伝えておきます」
「君はそんな些少なことには拘泥しないと思うんだが」
「ええ。さようです。ご心配なく」
大目に見て欲しい、と暗に要求するアシューにカズマはあっさりと折れた。そもそも籍を入れただけで、周囲には適当に言ってはあるものの実際は従来どおり別居のままだし、周子に直接会ったのも実は久しぶりである。拘泥など些かもしようが無いほどに自分と周子との間は遠い、と自分で認識しているからこそ、カズマとしてはいっそ気が楽なのであり、不愉快なのは妙に近しいギャランと周子の間柄ではなく、桜井の口調それ自体である、とカズマは思った。
「さて、わざわざ出向いてもらった用を済ませようか?」
畳み掛けるようなアシューの事なかれ主義的微笑に、カズマはやれやれといったふうにうなずいて。
「ええ。面白いものがあると連絡をいただいてわざわざ出向いたんです、今はまだ持ち出し許可が出ていない資料だと聞きましたから」
アシューはうなずく。
「多分、今後も持ち出し許可は出ないだろうね」
そう言ってアシューはビニールに入った証拠品をカズマの前のテーブルに静かに置いた。
「こないだのチャーター機炎上時の、起爆装置だ」
カズマの紫の瞳が興味深げにグラスの奥で光った。
「起爆装置なのに起爆しなかった?」
「正確には、三つの起爆装置のうちのひとつ。ひとつは、皆を機体へと呼び寄せるための小規模な仕掛け。もうひとつによる派手な爆発は、カズマ特別補佐官もモニタリングしていたとおり。そして、これは……この起爆装置は、最も炎上する必要のない箇所についていた、いや、メインの爆発があっても恐らく燃え残るであろう個所にわざわざついていた、といえばすぐに察するだろうな?」
「犯人側からの何らかのメッセージということですね?」
(第26話へつづく)
(目次へ戻る)
第25話:「親友と妻と幼馴染と」
「やあ、その、署内はなかなか居心地が悪いな?」
まるで私は犯罪者の扱いだな、とカズマは案内された会議室に入るなり冗談めかして苦笑した。
「周子刑事をあっさり仕留めたのだ、それくらいの妬みは覚悟しろ」
会議室ではなく取り調べ室の方が良かったか?と嘲笑を含んだ桜井の野太い声、その言葉に、そういえば署に出向くのは周子刑事を籍に入れて以降では初めてのことだったかと気付いて。道理で署内の人間の視線がキツい筈だとカズマは口の端を下げた。
「人の妬みを買うことなぞとうに慣れている、むしろ貴様がこの空気を仕切っているのではないのか、桜井准将。お山の大将気質は相変わらずだな」
「准将と階級で呼ぶのはやめてもらおう、私は今、国家警察に属している」
すかさずカズマの言葉に訂正を求めると、桜井は肩を竦めて苦笑して。
「妬みを買うのには慣れている、か。お前のほうこそ相変わらずとことん嫌味な男だな」
カズマはそれを無視すると、
「まさかSATまでが首を突っ込んでくるとは思いませんでしたが?」
不快感を露わにそう言って、先に入室しデスクについていた課長アシューを見た。
「我々は単体で動くことが許可されているはずですが?」
「私とて単体だよ?別段SATの隊長としてここにいるわけではない。個人的に仲間に加えてもらっただけだ」
口を挟んだ桜井を、課長と話をしているんだ貴様は割って入るな、とカズマはキッパリと遮って。そんなカズマの神経質な容赦の無さにアシューはいつもの渋面を少し緩め、微笑む。
「SATの介入は無いよ。むしろ桜井君を介してSATの精鋭部隊を自由にできるようになると言っていいかもしれない。まあいいではないか、カズマ特別補佐官。もともと君こそが自由に動かせる兵隊を欲しがっていたんだし」
「SATが欲しいだなんて一言も言ってませんが?大体、SATなんて、確かに以前使ったこともありましたが、五人がかりでギャラン一人にぶちのめされるような脆弱なヤツラですよ」
桜井が苦笑した。
「今度は私が頭だ、私の率いるSATの精鋭は過日の空港での一件含め、良い動きをするとの評が固いが」
だからお前は口を挟むな、邪魔だ、とキッと桜井を睨んだカズマ、アシューはその場をとりなすように穏やかに二人を制して。
「それにルシウスだっていいって言っていたのだ、カズマ特別補佐官」
「ルシウスが?」
カズマはたちまちいぶかしげな表情をした。アシューはその反応をさらりと受け流すと、いつもどおりの実直な渋面に戻り桜井を示して。
「彼の人間性、実力は勿論のこと、信頼に足る出自のしっかりした人間であることは折り紙つきだ」
「はん、そうか、ルシウスに警察庁長官筋から圧力を掛けたんだな?」
あの如才ないルシウスが折れるなんて、らしくもない、とぶすっと腕組みをして鼻を鳴らしたカズマの指摘を、桜井は軽く首を竦めて流して。
「まるでコッチが不当な手段を講じたみたいな言い方だな?」
「そのとおりじゃないか」
「相変わらず手厳しい。カズマ・フォン・グランツ、実際に会うのは久しぶりだが、昔から全然変わらないな」
昔のことを持ち出すのなら、そもそも幼等部への入学からして桜井は不正を講じたろう、とカズマがあからさまに蔑んだ表情を桜井に向けた。
「それは誤解だ、私だけ別途に試験を受けただけの話だ」
「それを不正受験だと言っているんだ」
「ロスにいたんだ、父の駐在の都合で日程が合わなかっただけだよ」
ああもう、全く、カズマ・フォン・グランツはそんな昔のことをいつまでもいつまでも忘れることなくしつこいなぁ、これじゃあ、今までずいぶんとやりにくかったでしょう?と桜井は改めて取り入るかのようにアシューに笑いかけた。
「実は幼馴染で」
「ちっとも馴染んじゃいないですよ、失敬な!」
事実を曲げるな、とカズマが真顔で否定した。カズマの素早い拒絶に桜井はまた笑う。
「昔はずいぶんとからかって遊んだんですが、そのうち、引きこもり始めまして。まあ、少々いろいろとやりすぎたかもしれませんが、何しろカズマはトンガリ小坊主だったもんで」
「貴様は昔から何かにつけ、長になりたがった、権力好きといおうかくだらん帝国作りだ、腰ぎんちゃくをぞろぞろと引き連れて。幼等部から高等部まで学内成績では常に首席の私が相当目障りだったようだがな?」
「勉強の成績だけ良くったってね?運動神経が鈍いから、テロにあっても無傷でいられないんだよ、お前なんて財閥の跡取の椅子に座ってぼうっとしているのがちょうどいいのさ。大体、お前が刑事だなんて、一番向いていないね。グランツ家跡取の座を蹴ってただの刑事として試験を受けるとは、私も噂を聞いた当時はずいぶんと驚いたよ?ルドルフはずいぶんと怒り狂っていたが、いや、泣いていたかな?一匹の金髪野犬を拾って以来人生を狂わせた、って」
ギャランのことを匂わせるなり、途端にカズマの瞳に剣呑な鋭さが宿ったのを察した桜井は、おっと、と呟いて、わざとらしくバツの悪そうな表情をした。車椅子の足をちら、と見て。
「おかげでグランツ家宗主の椅子ではなく車椅子なんてザマだ。ああしかし、ちょっと言い過ぎたな?足は勿体無いことをした、同情する」
「聡明な奴は言う前に口を閉じる。言ってから詫びるのは、真に腹黒い奴と相場は決まっている。同情とはこれまたパンチの効いた嫌味だな。統幕僚長の祖父御はルドルフが司令本部移設の際の資金提供を断ったのにずいぶんとご立腹だったそうだが……桜井、私は別に跡取の座を蹴ったわけではない、跡取は跡取だ、金が必要なら言葉遣いに気をつけるんだな?私がグランツ家を継げばこの指先ひとつでいくらでも資金を動かせるんだ」
「あのさ?政治的な話は、他所でやってくれる?ここ、一応、ごくごくフツーの公僕が勤務するところだから?」
「課長……」
カズマはつくづく嫌そうに、間に割って入ったアシューを真正面に見た。
「カズマ特別補佐官、ルシウスがいいって言ったんだ、言いたいことがあるなら、ルシウスに直談判してくれるかな?何せ私は管理職だし。さてと。挨拶はそのくらいにして」
「この一連の応酬のどこが挨拶ですか」
自分を管理職といってあっさり逃げるあなたが、一番厄介かもしれませんね、とカズマはたちまち毒気を抜かれて苦笑した。ルシウスが肚を割って話すという数少ない人間が、その優秀さを隠してこんな一介の警察署内の課長職に留まっているという点ですでに十分に怪しい。
カズマは小さくため息を吐くとちら、とメガネのブリッジを押し上げた。
「課長。ところで、ギャランは?」
数拍の間。
ガタガタッ!とアシューのデスクが大きな音を立てて揺れたかと思うと、その足元から派手な金髪が飛び出した。
「じゃーん!なんっつって、いよう!カズマ!」
晴れ晴れとした明るい表情である。
頭部に手厚く包帯が巻かれているものの、顔色は良く、陽気に手を上げて挨拶するあたりを見ると、まさしく元気そのものである。
「お前は当面安静だろう、院内に姿が無いと今朝方医師共が慌てて連絡を寄越したぞ。用が済んだらお前を連れて帰る、むしろ今のお前を見てメインの用向きはそちらのような気がしてきた、相当打ち所が悪かったんじゃないのか?こんなバカな真似をよくもまあそんな楽しそうに」
「お前が署に来るって聞いたから、驚かせようと思ってわざわざ隠れてたんだが、あーこりゃなんか完全にスベったって感じでだな?いきなし熊田と口喧嘩始めるしィ、で、出るタイミングが無くなっちゃって……ほら、周子ちゃんも出た出た」
「あたたたたた……せ、狭すぎです、ギャラン刑事」
周子の黒髪がよたよたと同じデスクの下から這い出てきた。
「ど、どうも。えーっとこんにちはです、カズマ特別補佐官。こ、こんなところからこにゃにゃちわー……とかって」
寒いですギャラン刑事、スベりすぎです、と周子はギャランのシャツの裾を引いて赤面した。
「何をやってるんだ、バカか、お前達は」
思わずカズマは眉を顰めて。
「ええーっと、お茶。お茶、入れてきますね」
周子はそんなカズマの視線から逃れるように、そそくさと退室する。
カズマはあきれた顔をしてギャランを見上げて。
「大体、物理的に大の大人が二人も入って隠れられるスペースではないだろう」
「だからこそもっとずっと驚いてくれるかと思ったのに」
「くだらない」
カズマは馬鹿馬鹿しい、と吐いて捨てるなり顔を背けたが、背けたその先に桜井の羨望の眼差しを見てギョッとする。
「いやあ、いいなぁ羨ましい、ギャラン刑事。そんな狭いところで周子刑事と二人っきり、一体どんな体勢でそこに収まっていたんだ?」
「そらお前の羨むようなイーイ体勢だが、てめぇのガタイのデカさじゃ、手足をバラさなきゃ到底入らねェだろうな?いっそおれが手足をもいでやろうか?そういやゆうべカニ喰ったんだった。カズマ、昨日の夕食はべらぼうに美味いカニが出たぞ?まじでいいのか一応病院だろ?病院食でカニって、普通聞かんぞ?ホテルか旅館だぞ?」
「やったのは頭だけで内臓は元気だからな?喰いたいものを喰えばいい、医師からもそう報告を受けている、気兼ねするな、オーナーの私が許可してるんだ」
慌てて桜井が割って入る。
「待てよおい、人をカニと一緒にするな。おまけに二人して私をあっさり無視しやがって。ギャラン、ガーナ署に来るたびにいつも思うんだが、本当に周子刑事はお前になついているな。実際、仲のいい相棒刑事だと私も認めざるを得ない、だがいつまでもそんな安穏なことを言っていられると思うなよ、私とて決して諦めたわけではな……」
「おう、おれも茶、汲んでくる」
ギャランはそんな桜井の言葉なぞまるで耳に入らぬかのようにさばさばと身を翻して。
「待てギャラン、お前は医師に安静にしてろと言われているはずだ、頭……」
カズマは慌ててギャランを諌めようとしたのだが、当のギャランは既に退室した周子の後を追ってさっさと出て行ってしまった。
「まあ、ほら、いつもの事だから」
アシューが再びとりなすようにカズマをなだめる。
「今では大変に仲のいい相棒刑事だよ。片時も離れないって感じ?君が例の事件でリタイヤしてから相棒なんて絶対要らない、とずっと言い張っていたのに。かなり荒んだ感じで心配していたのだが、このごろはぐっと落ち着いてね。周子刑事とはウマが合うのか、いつも一緒だよ、正直、我々としても助かっているんだ」
「むしろ日頃の二人の様子を、夫であるお前に見せるのは少々憚られるんじゃないかと思うくらいにね?」
まるで恋人同士のように仲がいい、とそんな棘を含んだ、からかうような桜井のその言葉にカズマはすこぶる機嫌を損ねて。
「周囲に妙な誤解をされぬよう、妻に申し伝えておきます」
「君はそんな些少なことには拘泥しないと思うんだが」
「ええ。さようです。ご心配なく」
大目に見て欲しい、と暗に要求するアシューにカズマはあっさりと折れた。そもそも籍を入れただけで、周囲には適当に言ってはあるものの実際は従来どおり別居のままだし、周子に直接会ったのも実は久しぶりである。拘泥など些かもしようが無いほどに自分と周子との間は遠い、と自分で認識しているからこそ、カズマとしてはいっそ気が楽なのであり、不愉快なのは妙に近しいギャランと周子の間柄ではなく、桜井の口調それ自体である、とカズマは思った。
「さて、わざわざ出向いてもらった用を済ませようか?」
畳み掛けるようなアシューの事なかれ主義的微笑に、カズマはやれやれといったふうにうなずいて。
「ええ。面白いものがあると連絡をいただいてわざわざ出向いたんです、今はまだ持ち出し許可が出ていない資料だと聞きましたから」
アシューはうなずく。
「多分、今後も持ち出し許可は出ないだろうね」
そう言ってアシューはビニールに入った証拠品をカズマの前のテーブルに静かに置いた。
「こないだのチャーター機炎上時の、起爆装置だ」
カズマの紫の瞳が興味深げにグラスの奥で光った。
「起爆装置なのに起爆しなかった?」
「正確には、三つの起爆装置のうちのひとつ。ひとつは、皆を機体へと呼び寄せるための小規模な仕掛け。もうひとつによる派手な爆発は、カズマ特別補佐官もモニタリングしていたとおり。そして、これは……この起爆装置は、最も炎上する必要のない箇所についていた、いや、メインの爆発があっても恐らく燃え残るであろう個所にわざわざついていた、といえばすぐに察するだろうな?」
「犯人側からの何らかのメッセージということですね?」
(第26話へつづく)
(目次へ戻る)
- 2005-11-30 16:51
- カテゴリ : タトパラ2/長編/連載中
- コメント : -
- トラックバック : -
-

-



