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[tog_p2_33]「大人しい、奥方様」/タトパラ2

「トライフル刑事」〜狂気のロンド ガーナ署トリニティ〜/タトパラ2
第33話:「大人しい、奥方様」



 カズマは携帯のコール音を聞きながらコーヒーカップを取り上げ、苛立ちを紛らわせるかのようにその縁に唇をつけた。やがて、周子の明るい声が耳に触れて。
 今すぐ帰宅するよう言うと、周子は笑ったらしかった。
「は? なに言ってるんですか、早退けなんて出来るわけな……」
「ギャランに代われ」
 カズマは周子の反論を遮るとキッパリとそう命じた。周子の減らず口はなかなかにタフなものだと既に知っている。
「すぐに周子を帰宅させて欲しい」
 ギャランは電話の向こうで茶でも噴いたようだった。
「おいおい勘弁してくれよ、いくら恋女房だからって」
 今度はカズマのほうがコーヒーを噴き出しそうになった。
「恋……ッ!? 気味の悪い言葉を使うな」
 口許を拭いながら思わずそう言って。電話の向こうでギャランはムッとしたようだった。書類をパラパラとめくる音が聞こえてくる、手元で資料か何かを手繰っているのだろう。
「うるせって。かわいーかみさんに会いたくなるのも分かるけどよぉ、仕事中はお前にも口出しさせねぇ。おれと周子ちゃんはれっきとした公務中だ、公務執行妨害で逮……あてっ」
 盆か何かで頭を叩いたような、妙にいい音が響いて周子が再び代わった。周子の後ろで、仕事中だ、切りやがれ、とギャランが文句を言う声が聞こえた。確かに職務に熱心なギャランのことを思えばそれは当然な反応に思えた。減らず口な周子の反論と、ガーナ署きっての凄腕刑事たるギャランの情熱と、どちらから突き崩したほうが楽なのか、やはり前者だろう、とは思うものの、カズマとしてはどっちも非常に面倒なように思われた。きっと修三の名を出したほうが早いにちがいない、そう思ったとき、
「補佐官、どうしたんですか? いくら横暴な補佐官でもちょっと珍しいかも。なにか理由でも」
「そうだ、理由だ! 君は察しがいい、すぐに帰宅したまえ!」
 カズマはすかさず周子の言葉尻を捉えてそう言った。
「すぐに帰宅って……まさか私の家に泥棒でも?」
 ちがう、と瞬時にカズマは否定した。
「私の家にだ!」
 カズマは、帰る先が周子の家に、ではなく、カズマの自宅に帰宅するように、と言ったつもりだったのだが、どうやら周子は、泥棒が入ったその先が即ちカズマの自宅、だと思ったらしく。
「えっ? セキュリティ万全の補佐官のご自宅に泥棒がですか!? おまわりさんはもう呼びましたか? 鑑識は? 私のほうから生活安全課に連絡を取りましょうか、じゃちょっと階下までひとっ走り……」
「いいから! すぐに帰宅するんだ! 来い!」
 頓珍漢なことを言い出した周子を遮るように、カズマは携帯にそう怒鳴りつけ、通話を切ると、ぱちん! といい音を立てて携帯を閉じた。ふと、あたりの空気が冷えたような気がして顔を上げると、修三と目が合った。
「ずいぶんと偉そうに命令するのだな?」
 私の娘に、何様のつもりだ、そう言われてカズマはひく、と頬を引き攣らせた。

 玄関のチャイム音が鳴って、エンギワルーが玄関先へと向かう。
 あの電話から三十分。早かったな周子刑事、とカズマは自分の腕時計に目を落として、胃がキリキリと痛むようなこの対面の終了に内心大いにホッとしたのだが。戻ってきたのはエンギワルーただ一人で、おまけになにやら手に小さなダンボールを抱えている。がちゃがちゃん、とトラックの荷台を閉める音、やがてそれが発進する音が窓の向こうから聞こえきて、来たのは宅配便だったのだとカズマは知った。
 エンギワルーはいつもの仏頂面をすこぶる神妙そうな面持ちに代えて、その小さなダンボール箱をカズマに差し出した。
「若……あの……周子殿から小包のようなのですが」
「森の生き物王国? なんだこれは」
「今ネットで流行りの、通販専門の昆虫センターですよ。周子殿が購入し補佐官あてに送付したようです」
「昆虫を?」
 まさかシーカーが中身じゃああるまいな、と一度そんな冗談にもならぬ冗談を呟いたものの、カズマはひとまずそれを受け取って。エンギワルーがカッターをカズマに差し出す。
 カズマがそれを開けようと梱包用のテープに刃先を入れたとき、修三がゆらりとソファから立ち上がった。
「しゅ、修三殿? どちらへ?」
 エンギワルーが尋ねたものの、ちらとも気を削がれる素振りすらなく。
 無言のまま玄関へと向かう修三の後ろから、エンギワルーはひとまずついてゆくのだが……目の前を行く修三の背中は、かつて軍人として鍛え上げた頑強な肉体を誇る自分とは全く異なる世界の住人であるかのように思えた。まるで筋肉などほとんどついていないかのような薄い体なのは一目瞭然なのだが、不思議なことにその修三の背中には一分の隙もなかった。
 ぞんざいに束ねた、腰のあたりまである真っ直ぐで艶やかな黒髪がとても印象的で、エンギワルーはまるで魅入られたようにその揺れる様をただじっと眺めた。
 修三は玄関の扉に手を掛けると、一度ゆっくりと振り返って後を追ってきたエンギワルーに端的に一言。
「一度家に戻る」
「いえ、まもなく周子殿がこちらへお戻りになられると思いますが」
「ではその頃また来る」
 自分の意志で去る、この行為が他人に引き止められることなど全くありえない、とでもいうかのようなその素振り、何処か超然としたその雰囲気に、エンギワルーは引き止める言葉すら思いつかぬまま、黙ってその背中を見送ってしまった。
 そもそも、国際的なテロリストとの容疑が掛かっている男である、修三を行かせてしまったと告げれば若はお怒りになるだろうか、と困惑しつつエンギワルーは居間へと戻ったのだが。
 戻ってみればこちらはこちらで、なんだか妙な殺気にも似た空気があたりに濃く立ち込めているようだった。
 カズマが苛立ちをこめた強い眼差しでエンギワルーを見上げてきた。
「エンヴィ、なんだこれは……」
「お、おお、これはなんとも立派な」
 エンギワルーはカズマの手の中のものを見て目を丸くした。
「オオクワガタですな」
 カズマの手にしている透明なプラスチックの飼育ケースには、飼育用マットと土、木片、そして黒光りする大きなクワガタが入っているようだった。かさかさとしきりに音がするところを見ると、宅配便で届いたとはいえ至って元気なようである。ダンボールには、その他にエサ皿、飼育用のゼリー、育て方を記した冊子、といった具合のものがセットになっていて、どうやら周子が注文し送りつけてきたのは初心者向けのクワガタの飼育スタータキットらしかった。
「八十ミリはありますな、立派なオオクワガタですぞ」
 だから、なぜ、こんなものが私宛に届くのだ、とすこぶる不機嫌そうに唸るカズマを前に、エンギワルーはその小さな飼育ケースに入れられたオオクワガタをしげしげと眺め、ひとしきり首を捻った。

「ハイハーイ、お待たせしました、ラブラブ新婚妻の周子ちゃんがお帰りですヨー……って……ははっ、自分で言っててミョ〜に鳥肌な気、分……ん?」
 携帯の向こうで怒鳴りつけてきたカズマの様子にただならぬものを察して、文句を言うギャランを押し切ってとりあえず早退した周子は、つとめて明るくカズマの自宅に顔を出したのだが。
 玄関先に出迎えたエンギワルーに、し、と口元に人差し指を当てられて。
 居間へ通されて、周子は肩を竦めた。
「うっわ、むっちゃくっちゃ怒ってる……」
「あたりまえだ、周子刑事」
 見事なまでにこめかみに青筋を浮かせてカズマは一度メガネを押し上げた。
「私は君の同居を許可しはしたが、このようなものの繁殖は赦していない」
「いや、繁殖はしてませんって、一匹だけですもん、一匹で繁殖だなんてそんなご無体なこと仰らなくてもあっはっは無理、むりですって……」
「口ごたえするな!」
 ばん、とテーブルを打ってカズマは周子の言葉を遮った。その迫力にうぐ、と周子は身体を竦め、口の端を下げた。
「大体なんでオオクワガタなんだ!」
「オクワガタサマですよ」
「は?」
「これは、オクワガタサマ、です」
「は?」
「補佐官お望みの、大人しい、奥方様ですよ。オオクワガタ……オクワガタ……オクガタ、なんちゃって! ははっ!」
 補佐官なんかクワガタと暮らしていればいいんですよ、と周子は妙に威圧感のある真顔で告げた。
「……エンヴィ、この女を外につまみ出せ」
「人を呼びつけといてつまみ出すんですか!」
 周子がたちまち黒髪を逆立てた。
「補佐官がなにやらすごい勢いで帰って来いって仰るから、とうとう最後の有休をつぎ込んだんですよ、ひどい、だったら課長に掛け合ってくださいよ! 返せ有休!」
 猛烈な勢いでカズマの胸倉を掴みかけた周子の腕を、ついいつもの条件反射的な反応で捻り上げてしまったものの。
「いやしかし若……」
 さすがにエンギワルーはためらった。そっとその腕を放して。
「ですがまさか周子殿が本気でこのような嫌がらせをするとは」
 周子殿、それはあんまりですぞ、とエンギワルーは肩を落とした。この二人、案外上手く行くかもしれないと思っていた矢先の事だから尚更である。
「だってこないだ、本気でムカツキマシタもん、ったく、ナンですか生息区域だとか立ち入り禁止線だとか、んもう補佐官は失礼です、私は一緒に暮らすなんて絶対にイヤですからね。絶対この人他人とは一緒に暮らせないんだ、結婚なんか無理無理無理、せいぜいがクワガタの背中でも撫でさすってればいいんですヨ、ふわーぁ、ようっくお似合いです、補佐官にお似合いの奥方様ですよ」
 周子は矢継ぎ早にそうまくし立てると、腕組みをしてカズマを見下ろした。
「で? 私をわざわざ早退させてまで呼びつけたワケはまさかそんなくだらない喧嘩を始めるためだとかじゃないでしょうね、ばっかみたい」
「…………君は本当に……とんだ女だな」
 なんだか言い返す気力も失せた、とカズマは呟いて一度メガネを外すと両方の眉頭のあたりをぐりぐりと押した。
「これに惚れたというギャランの気が知れない」
 あいつはこの外見に騙されてるだけなんじゃないのか、とカズマはむしろ心配そうに呟いた。
「口も性格も悪いじゃないか」
「よっくもまあ、当人の前でそんな真顔で悪口言えますね」
 アヒルのように口を尖らせた周子のキツイ黒目に睨まれて。
 カズマはやれやれ、とクワガタの飼育ケースをテーブルの上に置いて、持って帰れと短く命じた。
「まったく。君を上手く御せる人間がいたらお目に掛かりたいよ」
「あれっ? お客さんみたいですけれど?」
 玄関のドアが勝手に開いて、誰かが入ってくる。その気配に周子は立ち上がりかけたが、エンギワルーがそれを軽く制止した。カズマにもエンギワルーにもその主が誰であろうかはすぐに察しがついたからだ。
 断りもなしにカズマの邸宅に勝手に入ってくるなど、そんな無作法な真似をする人間と言えば、ギャランを除けば、もはや他に一人しか思い当たらない。
 確かに最初に訪れたときにはチャイムを鳴らした、だが、一度通された以後は自由にスルー出来るとでも思っているのだろう、カズマはその勝手知ったる無遠慮ぶりにいっそう機嫌を悪くした。
 あれから小一時間ほどが経っている、一度周子の自宅に寄って再び戻ってくるにはまさに丁度といった頃合だった。
 ―――しかし、周子刑事はどんな反応を示すかな
 父親を探すために刑事になった女である、実際探していたその父親がひょっこりと目の前に姿を現せば一体どれほどに驚くだろう、とカズマは思った。周子が心底驚く様を見れば少しは自分も気が晴れるかも知れない、と思った。
「!父さん!」
 カズマの予想通り、周子は非常に驚いたのだろう、居間へ入ってきたその男を見るなり、文字通り飛び上がって、一言鋭くそう叫んだのだが。
 次の瞬間、カズマは我が目を疑わんばかりの光景を見た。
 修三のすらりとした長身が、強い衝撃に大きく揺れた。周子が勢い良く修三の胸の中に飛び込んだのである。まるで再会を果たした恋人であるかのように。
「父さん! 父さん! 父さん! どこ行ってたのよ!」
 探してたのよ、と周子は父親の胸にすがりつくと身体を押し付けるようにしてきつく抱きついた。
 修三の両手から、手にしていたらしいなにか木片のようなものが落ちた。それから、修三の腕が周子の背中に回って、周子を抱きしめると、驚いたように竦んで丸くなっていたその黒い瞳が静かに伏せられた。
 どう見ても、その様子は恋人同士の熱い抱擁にしか見えなかった。
 カズマは改めて修三のその年齢不詳な美麗な顔立ちを見、写真よりもはるかに美麗なその男が長い睫毛を伏せ周子のうなじのあたりに頬を寄せるその様子は、どう理知的に考えても、到底親子には見えない気がした。そこになにか言い知れぬ不穏なものを感じて。
 しばらくして修三がぽつりと呟いた。
「位牌が……」
「イハイ?」
 周子が足下に目線を落とす。そして、ああっ、壊れてる! と短く悲鳴を上げ、床に膝を付くや、散らばっている木片を取り集めた。よく見れば、それは位牌がバラバラに破壊されたものだった。
 私が割った、と聞いて、周子はえ? と修三を見上げた。
「私が死んだとでも思ったか?」
 どこか気分を害したようなその眼差しに慌てて周子が首を振る。
「ううん! 違うの、町内会のおばちゃん達が勝手にお葬式を、それで……」
「……そうか」
 ならばよい、と言って改めて微笑んだ修三のその表情のなんと甘いことか。周子が小さくうなずいて再び修三に抱きついた。
 カズマは己が屋敷の主でありながらなんとも居心地が悪いような、ずいぶんと妙な不安めいた気分になった。
「周子刑事、とにかく座りたまえ」
 カズマの言葉に修三は無言でソファに座ったのだが、どういうわけか周子は修三のその膝の上に座って。周子はとうさーん、と甘えた声を上げて修三の膝の上でその首に手を回してぎゅーっと抱きついた。
「うわーん、ほんとに父さんだ、父さんの匂いがするーいい匂いー」
 もう離れない、とかなんとか呟いて、まるで子供のように甘えている、子供のように、と言えるのは、見ているこちら側が彼ら二人が親子だと知っているからで……その前提がなければ……これは何処からどう見ても……ラブラブな恋人か何かにしか見えず……。
 ―――なんだこの関係は……本当に実の親子なのか?
 カズマはなにやらよくは分からぬ目の前の光景に眩暈のようなものを感じた。
 しばらく言葉をかけあぐねていたが、やがてカズマはメガネを利き手の中指で一度押し上げると、きっぱりと、努めて冷静な声を出した。
「しかし周子刑事、君の父親には国際的テロリストの容疑があり、我々はその身柄を拘束する義務がある、もしも君が、違うと主張するならば、少なくとも違うということが客観的事実で以って証明されなくてはならな……」
「補佐官ですか!」
 いきなり勢い良く叫ばれて。話の腰を折られたカズマはきょとんと周子を見上げた。
「なにがだ?」
「補佐官が父さんを探してくれたんですね? ありがとうございます、グランツ家のなんだか知らない闇の力で以ってですね?」
「待て。闇、は余計だ、というより、その表現は非常に不適切だ……え?」
 唐突に周子に抱きしめられて。
「ありがとうございます! 前言撤回します、補佐官がこんなにいい人だっただなんて!妻の父親だからですね! 偽装だって口ではけっこう冷たいこと言いながら、でも籍を入れた以上は実は本気で親戚づきあいを検討してくださっていたんですね? 補佐官が父さんのことを探してくれているだなんて思わなかった」
「探していたのはテロリストの容疑が掛かっているからだ、そもそも探しているのは私個人ではなく国家警察だろうが。いきなり何を言い出す……くはっ」
 いっそう周子が擦りついた。
「国家警察まで動かして探してくださっていただなんて! なんて親切な。私が悪かったです、私、補佐官に信頼と尊敬の念を抱きます、ってか、好きです! ああ、なんていい人なんだ! こんなにいい人だったなんて。誤解してましたッ、補佐官〜! 初めてあなたのことを理解できそうな気がします! カンシャカンゲキアメアラレ!」
 カズマは目を丸くした。
 つい先ほどまで、わざわざオオクワガタを送りつけて、嫌がらせをして寄越した女である。人のことを詰って結婚なぞ出来ぬ男だと断言した女である。それが、まるで手のひらを返したかのような言葉と熱い態度、自分が車椅子に座っている以上、そうそうは他人が迂闊に近寄ることを許さぬバリアのようなものがある筈なのに、それを全く無視して周子が強く抱きしめてきたから尚更驚いた。
「まま待て周子刑事、君の父親は自力で……」
 車椅子が後ろにひっくり返りそうなほどの勢いで周子にぎゅむぎゅむと抱きしめられ、ほお擦りされてカズマは大慌てに慌てた。
 動揺しながらもテーブルの上に手を伸ばすと、かたん、とクワガタの飼育ケースが床に落ちた音がした、それでもなんとかテーブルの上からカズマは修三の持ち込んだ新聞を取り上げて。
 周子に抱きつかれたまま、新聞を周子のその鼻先にぐいぐいと突きつけた。二人のツーショット写真がでかでかと出ている記事を示して。
「君と私とが結婚したとの記事が新聞に……それを見て……」
 間近に見る周子の黒目がキラッキラと輝いている。ストレートな親愛の情を示した、まるで宝石のような、その異様までの美しいきらめきにカズマはつい数瞬の間見惚れた。
「補佐官と結婚してよかったです、新聞に出たおかげで父さんが見つかりましたっ! 新聞広告よかずっとずっと効果的じゃないですか! さすが天下のグランツ家の跡取さんですね、ほんとにほんとにこれは補佐官のおかげです、結婚バンザイ、私、いい奥さんになりますからッ、この御恩は一生忘れませ……」
「違うだろ! 落ち着けッ、周子刑事!」
 ばりばりっとカズマは無理矢理周子をはがすと、思わず自分のメガネを取り落とすほどに激しく動揺しながら言った。
「君の好きな男はギャランだろが!」
「はッ、やだーもー! 父さんの前でななななに言って……ハズカシー!」
 すぱーん、と実にいい音を立てて、周子はカズマの緑髪を勢い良く叩いたのだが。
「え?」
 真っ赤になって顔を背けたその先、ちょうど居間の入り口にギャランが立っていて。課長からのお遣いなのだろう、その手には捜査資料一式のやりとりにいつも使用しているゼロハリバートンのアタッシュケースを下げていた。
「……いま、なんつった?」
 居間に一歩入りかけていたギャランは青い瞳をまん丸に見開いて、周子とカズマとを見詰めた。


(第34話へつづく)
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