Entries

[tog_p4_01]「懸垂」/タトパラ4

 パラレル、カズマ×周子、息抜きな小話、ささやかな日常の切り出し。
 設定というか状況的には、タトゥーが解け、カズマは家督を継いだ、カズマは今まで同様自邸に周子を置いているが、特段進展も何も無くて、といったところ。カズマがひとり、着々と劣情を募らせつつある今日この頃。
 グランツ家宗主となった多忙なカズマをよそに、周子はハロックのところに入り浸り。周子とハロックは誰がどう見てもただの友達。
 本編とは関係ないので、別物として割り切って楽しめる方のみどうぞ。




「若?」
「ああ、今帰った」
 カズマはこめかみから滴る汗を利き手の甲で軽く拭うと馬を下り、ひとり従えた若い従者に馬の手綱を任せつかつかと大股で玄関に入ってきた。しとどに汗をかいている。
「ご予定が早まりましたか?」
「いや?」
 上着をエンギワルーに押し付け、軽く周囲を見回す。
「さして遠くも無い。今宵の会議は終わった、自邸で休んでも構わんだろう? 明朝早くにまた向こうへ戻る」
 確かに神経質なカズマは他所の寝床を快しとしない、だが、出張先からわざわざこうして戻るなど、まして、深夜に馬を駆って帰宅するなど今までに無かったことだった。
「………………」
 彷徨った視線が目的の人物を探し出せずに己にじとっと向けられたのを肌に感じて。エンギワルーはもの言いたげな主の視線をさらりとかわすと、押し付けられた上着を丁重に腕に抱え直し、いつもと全く同じ調子で従者然とした一礼をした。
「ではお休みの支度を整えさせます」
 カズマはそのエンギワルーの態度にたちどころに機嫌を悪くしたらしかった。
「……あれは?」
 こう率直に聞いてくるのは珍しいことだった。
「はて。既にお休みなのでは?」
 この屋敷は広い、いくら侍従長の私とて新入りの従者ならばまだともかく、御客人の行動まで逐一監視するわけには参りませんよ、とエンギワルーはさばさばと応えた。
 そして、答えの分かりきった問いを主に向ける。
「周子殿の顔を見に、わざわざお戻りで?」
 カズマはまさか、とでも言わんばかりに軽く首を竦めて見せた。
 これはエンギワルー流の防衛ラインに他ならぬ。
「御用がございますれば、お呼び立て致しますが?」
 そう問えば返すカズマの態度は分かりきっているのだ。
 案の定すぐにカズマは首を横に振った、用などない、と憮然と口の端を下げて。
「では、お休みなされませ。さぞお疲れのことでございましょう」
「…………ああそうだな、そうするか」
 カズマが折れ、玄関から邸内へと足を進める。その主の背中を見送ってから浅く一礼し、エンギワルーは踵を返すと元来た廊下を引き返そうとした。
 ふいに背中に声が掛かった。
「エンヴィ、私を誤魔化せると思うなよ」
 その言葉に、周子の不在がばれたのを察し、エンギワルーはむやみに背筋が冷えるのを感じた。

「……若、本当にもうお休みにならないと、明日の公務に差し障ります」
「いや、いいんだ」
 寝室でカズマが延々と腕立て伏せをやっているのを見かね、エンギワルーはとうとう声を掛けた。
 就寝時には必ず冷たい水を枕元に置く、そのいつもの習慣どおり水差しを手づから運んだものの、主の就寝前に自分が姿を現すのはこのタイミングが最後だ、黙って見て見ぬ振りを決め込もうともしたが、だがここで終わりにさせないとおそらく朝までこれを続けるに違いないのだ。
「このごろ私は身体を鍛える時間が取れなかったからな、丁度いい」
 丁度良い訳が無い。
 先程からずっと、ぴっちりしたタンクトップ一枚の上半身が床すれすれまで近づいては離れるのを何度も繰り返している、それが毎回きっちりと測ってでもいるかのように正確な床面からの距離、同じ角度同じスピード。既にすっかり色が変わるほどに汗をかいているというのに微塵も狂う気配が無い。
「ただでさえ過労のつのる現状でこのようなことをなさっては、倒れます」
「ハロックを」
 はっ、とカズマが湿気った息を吐いた。
「討つとなれば私は負けるわけには行かない」
 その真摯な、むしろ思いつめた色にエンギワルーは深い吐息をついた。今宵周子が何処にいるのかまでこうもぴたりとあててしまうとは、執着にも程がある。そして、既に論理が飛躍している。
「討つことなんて無いですから。そもそも彼と剣を交えるなどあり得ない」
 いや、とひどく潔癖な声でエンギワルーの声を遮り、カズマはようやく身体を起こした。汗の入った片目を顰め、タオルに手を伸ばす。
「グランツ家宗主の座についたからとはいえ、日々の鍛錬を怠るわけには行かぬ」
「ハロック・スレルムが彼女にとってそういった対象ではないのは分かりきっているではないですか、私よりも年上ですよ? 年でいえば父親みたいなものでしょうに」
「それが問題だ、彼女は父親というものに少々特殊な拘泥がある、父性を喚起させるものはだめだ」
 だめってそんな感情的な、とエンギワルーはほとほと困り果てる。
「父さんみたいで素敵、と言われたことさえある、よりによってこの私がだ」
「それこそ彼女にとっては最高の誉め言葉ではないですか」
 滴る汗をタオルで拭きながら、メガネを外した紫の素の瞳でカズマはエンギワルーを睨んだ。
「お前は本気で言っているのか」
 陰湿な剃刀の刃にも似たその殺気にエンギワルーはすかさず、いえ、と短く否定した。
 まいったな、と内心思いながら、エンギワルーは周子の父親、修三の姿を、以前に見たことのある肖像画のそれをそっと思い浮かべた。
「修三なれば、尚一層、かの闘将ハロックとは程遠いでしょう? ハロック殿は血と煙草の匂いの染み付いた、いわば武将の最たるもののような男臭い男ですよ? アニキと呼んで慕いこそすれ……どう考えてもあり得ないですよ。そもそも彼女の父親の、あの年齢不肖の美麗な容姿を思えば、それこそ……もっとぐっと若い……むしろ若よりも年が若いようにさえ思えますよ? ハロック殿なぞ箸にも棒にもかからな……」
「ああそうだな、私は彼女と年が離れている、実際よりもはるかに年上な気さえする、どうせ私は見た目、あの美麗な父親よりも老けているんだろう」
 ―――ありえない。
 つまりはどう応えても詰られる、という構図を呑んで、エンギワルーはやれやれ、と己のスキンヘッドをひと撫でした。
「お前は今夜はずいぶんとうるさいな、私とて疲れたら休む、構うな」
 そう言ってカズマはメガネを掛けなおすと、手ごろな梁に飛びつき、今度は懸垂を始めた。



[tog_p4_01]「懸垂」/タトパラ4
Created: 2006-03-18
「タトゥー・オブ・ギャラン」 目次 > [tog_p4_01]「懸垂」/タトパラ4

Appendix

最近のエントリ

過去の記事タイトル一覧 はこちらから

ブログ内検索

QRコード

QRコード

小説「タトゥー・オブ・ギャラン」も読めるよ!
http://klimit.blog7.fc2.com/

最近のブクマ byコハ

    Read more...on koharitoのブックマーク