コハリトりみっと
長編恋愛FT「タトゥー・オブ・ギャラン」がメインの小説・雑記サイト。
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今すぐ、その顔が見たかった。
あの綺麗な青い瞳を間近で見つめて。さらさらとした眩い金髪に顔をうずめ、キスをして。この身にギャランの重みを感じて。ギャランに抱かれたかった。
―――イヤ、チョット待て、私
周子は脳裏に浮かんだ金髪との妄想を必死で振り払うと、目の前のカズマとの会話へと意識を強引に引き戻した。必死な自分の目線が思いの外鋭かったのかもしれない、カズマはなぜ睨む、とでもいいたげな腑に落ちぬ表情をして、その無粋さが、今の周子にはなんともありがたかった。
「だけどあんたがその総裁ってこと、父親のルドルフが知らずに済むことなの? 御父様は知っているの?」
「いえまったく」
カズマは即座に否定した。
「彼はごく普通の、ありふれた、取るに足らぬつまらぬ人間です。世界の表側で、まっとうなグランツ家宗主としてあってこそ相応しい。謀略に長け腹黒いが手は汚れていない、牙の教徒とは一切関わりの無い人間です」
「ええと、何かすっごく悪口に聞こえるけど……」
即座に否定するあたり、庇っているのだろうとは思うのだが。
「一人息子の所作すら見抜けぬ凡庸な男ですよ」
周子は目をぱちくりさせてカズマを見、ルドルフの名が出た所為かカズマは途端に辟易した表情になった。
「そうでした、彼はあなたとの結婚をそりゃあもうしつこく! しつこく! 違うと弁明すればするほどしつこく! 一体、こんなあなたのどこをそれほどまでに気に入ったというのでしょうか」
「あー、外見には自信あるけど」
「生意気な。女の容色なんてすぐに衰えますよ」
びしゃりと言い返されて、周子はひとしきり苦笑した。
「だからもてないんだってば、あんた」
「…………。もてないのではなく、応じないだけだ、事実を曲げるな。挙句、ルドルフの奴、埒があかぬと見るや、今度はこれまた別の縁談話を次から次へと……よくもまああんなに溜め込んでいたものだ。あれほどの数、一体どこからかき集めてくるのやら! ああもうホントになんと鬱陶しいことか」
こう言ってしまってから、違う、脱線した、今はもっと大事な話をしているんだった、とカズマは眉根を寄せた。
十分大事な話じゃない、と周子は話を継いでテーブルを拳でどんどんと叩いた。
「ルドルフに、ちゃんと言った? 私にはもう決めた人がいます、近々結婚しますから口を出さないでください、って。誤解してるなら別にそのままでもいいじゃん」
「それはまさかあなたが相手ですか? 冗談じゃない」
「ルドルフにこう付け足しなさいよ、下手に口出しをして破談にするおつもりですか、と。私は慎重に口説いているのですよ、と。きっと、ぐう、と唸ったきり口出ししてこなくなるわよ、だってあの人、本気でカズマ様に身を固めてもらいたいと思ってるもの」
「…………」
数拍、呆気に取られたような間が空いて、それからカズマは苦笑した。
「牙の教徒を討つなら討つで、今のこの時期、ルドルフには余計な口を挟まないでいて欲しいとあんたは思っている、それに結婚しさえすれば、あんたがずっと狙っているグランツ家の家督とやらも譲ってもらえるんでしょう?」
「ええ、確かにルドルフは、妻帯を条件と明言している」
「ほらあんたに継いでもらいたいんじゃん、だからそんなに縁談に熱心なんだよ。可愛いお嫁さんと孫の顔でも見たいんだよ」
「彼はそんな情で動く好々爺ではないですよ。後継ぎが私一人しかいないが為に焦っているのだ、グランツ家宗主たる資質でいえばこの世界中のどこを探したとて私ほどに相応しい人間は他にいないですから。宗主である以上、次代もその先も、より良質な血をこそ残すのが責務、即ち、私を認めて然るべきだ」
なにその強烈な自惚れっぷりは、と言うとカズマは本当のことだ、と断言して軽く笑った。
それからしばらくの間周子を見詰め、ふむ、と小さく唇を尖らせた。
「しかし、たしかに良策に思えてきた」
さすがはミアム最強の交渉術だな、その論法では確かにルドルフは押し黙る、いや、この私こそが騙されたかな、あるいはこの場面、いっそ騙されて然るべきかな、とカズマは首を捻る。
思慮深く喉の奥で唸った後、ひたりと真正面に周子の視線を捉えて、言った。
「あなた私と結婚しますか」
「ずいぶん急なプロポーズ…………わあ! すんごい嫌そうな顔するね! っていうか何語? 何人? まるで母国語ではないみたいな言い回しだよソレ」
カズマはこの世で最も苦い苦虫を潰したような表情をした。
だが意外なことに、周子の茶化しには引かなかった、からかわれて尚余りある、それ相当の利点をすでに見出したのである。
「私は先程、信頼関係と申し上げたが、この際、婚姻関係を結んだほうが万事に都合が良いかもしれない。私は常にあなたの動向を把握することが出来るし、共に作戦行動をとっても周囲に怪しまれない。グランツ家を継げば、その権力と財力とで以ってギャラン様を王にと強く推すことが出来る、彼を王に据えるのに余計な外野はあなたが魔力で闇に葬ってくれればいい」
「チョット待て。あんたはかわゆい新妻に政敵の暗殺を要求する気か」
「かわゆい新妻? どさくさに紛れて奇ッ怪な形容をするな、全く油断も隙もない」
で、政敵の暗殺、はそっくりそのままスルーなのか! とその物騒さに苦笑した周子だが。身寄りのない女の後見になり後に妻として据えることはよくあることです、世間的にもおかしくはない、むしろ筋が通る、とカズマは一人でさっさと結論付けた。
「マァ、優美でそつのないグランツの貴公子、もうあんたのその変態っぷりもさんざん聞かされたことだし、当人が冷酷だと言うその本性を隠さなくて済む運命共同体ってのはあんたにとってはお買い得、と」
了解、と周子が軽くテーブルの上を打って。
「さすが若様、お買い物上手」
まいどあり、と、まるで結婚を承諾したとは思えぬ軽口でそう言うと、周子はやれやれとのけぞって大きくあくびをした。
「あのさ、お腹すいたんだけど?」
「ははは。私の財力でまずもっとも確実にかなえることが出来るのは、あなたのその口を喜ばせることでしょうかね。イチゴはお好きでしたね、なんとまあ、他愛の無い可愛らしさだ」
「喜ぶのは腹の虫」
「……全く。みもふたもない。その肚に飼っているのはとんだ野獣だな」
「そうそう、結婚するんだもの、この野獣を食わせるためにグランツ家は身代はたいて、すかんぴんになるといいわ!」
「ははは、実に恐ろしいな」
そう笑って、カズマはふと、真顔になった。
「この世間知らずが」
唐突な、その凄みある押し殺した声に、周子は思わずびくん、として。
それを見て取ったカズマは一層機嫌が良くなった。
「グランツ家の資産がどれほどあるか、あなたは分かってない。すかんぴんという言葉は、私には、此の世でもっとも遠いところにある言葉です」
「アー、はいはい、若様はお金にずいぶんと自信がおありのようで。……ったく変態だなこいつ。おなかすいたよ、おなか! もうどうでもいいから私になにか食べさせてよ」
やがてエンギワルーがサンドイッチと温かいコーヒーを運んできた。夜食です、と断りテーブルに置くエンギワルーを見、カズマはあっさりと微笑んだ。
「エンヴィ、私は彼女と結婚するかな?」
「……………………よろしいかと」
カズマは紫の瞳をしばたかせた。
「ず、ずいぶん長い間があったな?」
「……なんとも無邪気におっしゃるので。まるで子供のようでございますな」
エンギワルーの返答にカズマは数瞬沈黙し、それから一度鋭い目線を彼に向けた。
「ほう、なにやら険があるな?」
「はて」
エンギワルーはいつもの仏頂面でそれ以上の言及を避けた。
主の厳しい視線を外すと、彼はくるりと周子に首を向けた。
「惜しむらくは、そこに恋情がないことでしょうかね?」
ひた、と見据えられそう言われ、瞬間、周子は己の背筋が無闇に冷えたのを感じた。
―――見透かされた
あくまでも強気で軽く軽く流した、カズマとの結婚話。内に抱えた不安がそうさせる、その理由、それをこの男には悟られている、虚勢の継ぎ目に爪を立てられ、周子は途端に泣きたい気分になった。
―――だって、信頼関係って言ったじゃない、ギブしてテイクしてそれもありじゃない
理由を考えたくないこの下腹の痛みが怖かった。ギャランの下に縛り付けるこのタトゥーが、むしろ強烈な反発力で以ってギャラン以外の男のところへと駆り立てる。手近な目の前にいる男、正直誰でも良かった、だけど誰でも良くなかった、カズマは肚を割って話せば存外いい奴で、利用すべきでないのもわかっている、だが、今、このカズマにすがりつかなければ、ギャランの勢いに押し流されるようで、怖かった。
―――とにかく怖くてたまらないんだもの!
だが意外なことに、周子が反論するよりも先に、カズマがすばやく口を開いた。
「結婚生活とは必ずしも恋情や愛がないと上手く行かぬというものではない。恋だの愛だのといった淡い夢を追うよりも、手堅く利害関係で結ばれるべきだ。そうだろう、周子?」
「……イエス」
周子はその論理屋な性格に内心感謝した。
エンギワルーは文句を言いたげに唇を尖らせかけたが、すぐに反論を肚に仕舞い込んだか、いつもの仏頂面を装って一礼すると黙ってカズマの前を退がった。
「私がグランツ家の家督を継ぐことは最大のメリットだ、だが、周子、あなたのメリットはどうでしょう? 私は自分の誠意として、対等であることを要求する。私が家督を継ぐ相当の利益をあなたに示さねば気が済まない」
この男の潔癖な言葉と態度が、この瞬間ほど似合うと思ったことは無かった。本音というものは本来そういうものかもしれない、実体によく似合うものだ。
周子が頷くのを見て、カズマはエンギワルーの淹れたコーヒーを一口すすった。そして機嫌良さげに目を細める。
「聞きましょう、楽しそうだな」
「ほんと楽しそうだね」
「こういう空中戦的会話は大好きです」
「撃墜してやるわ」
「面白い」
出来るのならな、と迫力のある紫の目で正面に見据えられ、周子は本当に喰えない男だ、とやはりまた苦笑した。
「タトゥーを、解きたいの」
「ほう?」
カズマは軽く首を捻った。
「私に言わせれば、タトゥーがそのままでも不都合ないが。幸い、王はあなたを気に入っている、国王に対して殴る蹴るの無礼を働いたところで笑って許される、むしろ大切に扱われていると言ってよいでしょう。この私に後見を申し付けたのだ、並みの暮らしより余程良い生活が保障されこそすれ、特段あなたに不都合はないはずだ」
「大有りよ!」
「どこが。一体どのような?」
「う、うぐぐ……」
―――ほんとに気付いてないんだこの男!
周子はとにかく! と強引に話を押し進めた。
「あんた、あのバカの望みだとか夢だとか、聞いたこと無い? それと交換よ」
「夢?……聞いたことは無いですね? 意思の大変お強い方ですから、ひょっとすると何かお考えがあるのかもしれませんが……目下最大の望みといえばあなたと相愛になることじゃないんですかね?」
「だーっ、やめて! 気色悪いこと言うな!」
周子が強く黒髪を揺すって悶えた。
「私に会う前のことで、よ。私を強引に呼び寄せた、召喚事故のその動機自体よ。あの馬鹿は望みなんかないって言い張ってるけど、事実私がここにいるんだし、ないはずがない、私がここにいるのが確かな証拠。そもそもタトゥーさえなけりゃ私はさっさとマチガイデシターって、おさらばしてるところなんだからさ」
動機ねぇ、とカズマは全く思い当たる節はないといった表情で。
「案外、牙の教徒を潰して欲しい、とかじゃないです?」
「さりげなく自分の要求を突きつけるな」
周子は即座に却下した。
「とにかく、私には不都合アリアリなのよ。もしもこのままギャランの勢いにのまれてタトゥーに乗っ取られて、あのバカを好きにでもなったら、それこそ一生を棒に振るんだわ。隷属のタトゥーは相手をなにやらすっごく好きな気にさせる、今だってそんな不安で胸が押しつぶされそうだわ、まるで自分が自分でなくなっていくようで」
これが恋だなんて冗談でも言わないでよ、と、周子はその肩を不安そうに震わせた。
「大体、あんただって」
「私?」
「好きだ惚れたと公言する女を妻に据えてあの馬鹿が怒らないとは思えない」
「ああ確かにそれはそれで面倒な話だな」
「グランツ家を継ぎたけりゃさっさとタトゥーを解きなさいよ、まずは私のタトゥーを解くのが先よ」
「確かに解いておいたほうが無難だな。しかしあなたの論術はまこと強いな」
感心したのか、カズマは、にこっと虚飾のない明るい笑みを浮かべた。
「タトゥーを解いたら、逃げるんじゃないのか、あなた」
「う」
―――鋭い。
タトゥーさえ解ければ言うことを聞く義務もないのだから。結婚、家督相続、ギャランを王に、牙の教徒撲滅、タトゥー解呪、これらの口約束の中でさりげなく巧妙に順序をすりかえたことを指摘され、周子は苦笑した。
「まあいい。そうまんまと美味しいところだけ摘んで逃げられるとは思うな、私はそう甘くはないですよ。しかし、聞けば恋だのなんだの、まるで恋に恋する思春期の娘の台詞としか聞こえないですね」
「うるさい。とにかくあんたは、ギャランの望みを聞き出して」
周子はカズマの言葉を遮りぴしゃりと命じた。
了解、と呟いて、カズマは少し残念そうな顔をした。
「そのタトゥー、私の名をこそ刻めばよかったのに。あなたはまこといろいろな使い途がある。ぜひ私が直接支配して、日頃決して言うことを聞かぬその向こう気の強さを、こう、ぎゅっと、ねじ伏せてみたいものだ」
カズマはレモンでも絞るかのように、手でスクイーズする仕草をしてみせた。
しばらくの間その楽しそうな冷笑を見つめ、周子はつくづくあきれたように手をひらひらと振った。
「まったくもう。そういうのを、惚れた、お前をおれの思い通りにしたい、って言うんじゃないの? なんなのその言い回し」
「私の場合はあいにく文字通りの言葉ですが」
だからあんたはトウヘンボクって陰口叩かれんのよ、と周子はテーブルの上に乗ったサンドイッチを一つ、つまんだ。
あ、うまい、とたちまちに機嫌を良くして、部屋の隅に控えるエンギワルーを見た。相変わらずの仏頂面だが、なかなかどうしてすぐれた料理人だ。
「まあ、とにかく。私にはロレンスがいるし。たとえタトゥーがあろうがあのバカを恋人にするわけにはいかないのよ。解いてロレンスを探し出して、もっとずっと真っ当な愛のある生活をするんだから。私にはそんな人生が用意されてる筈なんだから」
「ちょっと待て。今更ロレンスか、矛盾はないか」
カズマが眉を寄せた。
「タトゥーを解いたらロレンスの下に行くつもりですか」
「もち。婚約者だよ? 父さんが私の為に決めたんなら、恋に落ちるとしたらそりゃもちろんロレンスとでしょ」
強情なその言い草、カズマは唐突にギャランの苛立ちが分かる気がした。
出会った当初からずっと、その胸にはロレンスの影があり、周子はその影ばかりを探している、そう思うと、何か得体の知れないちりちりしたものが胸に生じた。
「ですが、あなたは、この私と結婚するとその口で言っているのですよ? いまさらいいなづけなどと言い出すつもりですか」
「やだな、ルドルフを押さえりゃいいんでしょ。家督が継げて万時上手く転がるまではあんたを夫にしといてあげる、いっぺん継いじゃえば離婚しようが妾百人作ろうが、宗主が何したって誰も文句言えないんでしょ、任しときな。身ひとつで上手く叩き出されてあげる。私はロレンスと愛のある生活を送るんだもんね、もうとっくにそう決めてるんだ、誰がなんと言ってもそうなんだもんね」
強い断定の口調でそう繰り返し、でもロレンスが本当の本当に見つからなかったらどうしようかなぁ、と周子は唸る。
サンドイッチをまた頬張って。うん、と周子は無邪気にうなずいた。
「そン時はここの従者として働かせてもらおうかなァ? 正直、他に行くあてもないし。三食、まじ美味しいし。エンギワルーの料理の腕はねぇホントいいよ……あっ、いいんだよ、賄いで! きっと賄い料理も期待できるから。それだけで十分ここで働く動機になるんだけど。どうどう? 腕っ節には自信があるよ、あー、ほらほらさっき、政敵の暗殺って言ってた! ぴったしじゃん!」
「……ええと。従者の人事決裁はエンギワルーに一任していますので、ここへの就職については彼に交渉を」
そう言ってカズマは笑った。
「あなた、面白いな! そのまま妻の座に居座る気は無いのか?」
「え? いいの?」
「いいの、って、ははははは!」
途端にカズマは馬鹿笑いをした。らしからぬその笑い声に周子は目を丸くしたが、カズマはどうしたことか、しばらくの間笑い転げていた。
「早々に離縁していては、やはりカズマ・フォン・グランツは唐変木だと後ろ指を指されましょう。伴侶はあなたで我慢しますよ」
「あー、じゃ、ロレンスがやっぱし見つからなかったら、そン時は適当によろしく」
「ええ。……ロレンスが見つからなければ、ええ」
カズマは不意に語尾のトーンを不穏な色に落としたが、周子は次にどのサンドイッチを食べようか選ぶのに気を取られてしまったようだった。選ぶと、またぱくりと無邪気に頬張って。
「でもなァ、だったら本気でグランツ家の身代を食いつぶすよ?」
「だから、やって御覧なさい、これだけの資産をどう荒らすのか、むしろ楽しみだ」
カズマは楽しそうに笑った。
「いままで財産目当てでさんざん女に言い寄られましたが、私をすかんぴんにすると言い切った方は初めてです。これほどの資産、使ったところでさほど減るものでもなし、こちらの顔色を伺うような女しか見たことがないんだ、はははは、あなたはまこと将来が楽しみだな。いい度胸をしている」
「へぇ? ほんとにいいんだ、グランツ家潰しても。遠慮なくいくよ?」
「ええどうぞ? ちなみに、家屋への保険は万全に掛かってますから、物理的に破壊したところで私の資産は殖える一方ですよ。保険金が、出ますからね?」
また保険金ー? ほんっとカネの好きな男だなァ、奥さんが壊したんじゃ保険金詐欺って言われるに違いないよー、と眉根を寄せて口を尖らせる周子。
カズマはますます上機嫌に、うっとりと目を細めた。
テーブルに片ひじをつくと、あごをのせ、周子を上目遣いで見つめ、微笑む。
「なぁに、大丈夫です、あなたの手綱くらい、キッチリさばいてみせますよ」
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あの綺麗な青い瞳を間近で見つめて。さらさらとした眩い金髪に顔をうずめ、キスをして。この身にギャランの重みを感じて。ギャランに抱かれたかった。
―――イヤ、チョット待て、私
周子は脳裏に浮かんだ金髪との妄想を必死で振り払うと、目の前のカズマとの会話へと意識を強引に引き戻した。必死な自分の目線が思いの外鋭かったのかもしれない、カズマはなぜ睨む、とでもいいたげな腑に落ちぬ表情をして、その無粋さが、今の周子にはなんともありがたかった。
「だけどあんたがその総裁ってこと、父親のルドルフが知らずに済むことなの? 御父様は知っているの?」
「いえまったく」
カズマは即座に否定した。
「彼はごく普通の、ありふれた、取るに足らぬつまらぬ人間です。世界の表側で、まっとうなグランツ家宗主としてあってこそ相応しい。謀略に長け腹黒いが手は汚れていない、牙の教徒とは一切関わりの無い人間です」
「ええと、何かすっごく悪口に聞こえるけど……」
即座に否定するあたり、庇っているのだろうとは思うのだが。
「一人息子の所作すら見抜けぬ凡庸な男ですよ」
周子は目をぱちくりさせてカズマを見、ルドルフの名が出た所為かカズマは途端に辟易した表情になった。
「そうでした、彼はあなたとの結婚をそりゃあもうしつこく! しつこく! 違うと弁明すればするほどしつこく! 一体、こんなあなたのどこをそれほどまでに気に入ったというのでしょうか」
「あー、外見には自信あるけど」
「生意気な。女の容色なんてすぐに衰えますよ」
びしゃりと言い返されて、周子はひとしきり苦笑した。
「だからもてないんだってば、あんた」
「…………。もてないのではなく、応じないだけだ、事実を曲げるな。挙句、ルドルフの奴、埒があかぬと見るや、今度はこれまた別の縁談話を次から次へと……よくもまああんなに溜め込んでいたものだ。あれほどの数、一体どこからかき集めてくるのやら! ああもうホントになんと鬱陶しいことか」
こう言ってしまってから、違う、脱線した、今はもっと大事な話をしているんだった、とカズマは眉根を寄せた。
十分大事な話じゃない、と周子は話を継いでテーブルを拳でどんどんと叩いた。
「ルドルフに、ちゃんと言った? 私にはもう決めた人がいます、近々結婚しますから口を出さないでください、って。誤解してるなら別にそのままでもいいじゃん」
「それはまさかあなたが相手ですか? 冗談じゃない」
「ルドルフにこう付け足しなさいよ、下手に口出しをして破談にするおつもりですか、と。私は慎重に口説いているのですよ、と。きっと、ぐう、と唸ったきり口出ししてこなくなるわよ、だってあの人、本気でカズマ様に身を固めてもらいたいと思ってるもの」
「…………」
数拍、呆気に取られたような間が空いて、それからカズマは苦笑した。
「牙の教徒を討つなら討つで、今のこの時期、ルドルフには余計な口を挟まないでいて欲しいとあんたは思っている、それに結婚しさえすれば、あんたがずっと狙っているグランツ家の家督とやらも譲ってもらえるんでしょう?」
「ええ、確かにルドルフは、妻帯を条件と明言している」
「ほらあんたに継いでもらいたいんじゃん、だからそんなに縁談に熱心なんだよ。可愛いお嫁さんと孫の顔でも見たいんだよ」
「彼はそんな情で動く好々爺ではないですよ。後継ぎが私一人しかいないが為に焦っているのだ、グランツ家宗主たる資質でいえばこの世界中のどこを探したとて私ほどに相応しい人間は他にいないですから。宗主である以上、次代もその先も、より良質な血をこそ残すのが責務、即ち、私を認めて然るべきだ」
なにその強烈な自惚れっぷりは、と言うとカズマは本当のことだ、と断言して軽く笑った。
それからしばらくの間周子を見詰め、ふむ、と小さく唇を尖らせた。
「しかし、たしかに良策に思えてきた」
さすがはミアム最強の交渉術だな、その論法では確かにルドルフは押し黙る、いや、この私こそが騙されたかな、あるいはこの場面、いっそ騙されて然るべきかな、とカズマは首を捻る。
思慮深く喉の奥で唸った後、ひたりと真正面に周子の視線を捉えて、言った。
「あなた私と結婚しますか」
「ずいぶん急なプロポーズ…………わあ! すんごい嫌そうな顔するね! っていうか何語? 何人? まるで母国語ではないみたいな言い回しだよソレ」
カズマはこの世で最も苦い苦虫を潰したような表情をした。
だが意外なことに、周子の茶化しには引かなかった、からかわれて尚余りある、それ相当の利点をすでに見出したのである。
「私は先程、信頼関係と申し上げたが、この際、婚姻関係を結んだほうが万事に都合が良いかもしれない。私は常にあなたの動向を把握することが出来るし、共に作戦行動をとっても周囲に怪しまれない。グランツ家を継げば、その権力と財力とで以ってギャラン様を王にと強く推すことが出来る、彼を王に据えるのに余計な外野はあなたが魔力で闇に葬ってくれればいい」
「チョット待て。あんたはかわゆい新妻に政敵の暗殺を要求する気か」
「かわゆい新妻? どさくさに紛れて奇ッ怪な形容をするな、全く油断も隙もない」
で、政敵の暗殺、はそっくりそのままスルーなのか! とその物騒さに苦笑した周子だが。身寄りのない女の後見になり後に妻として据えることはよくあることです、世間的にもおかしくはない、むしろ筋が通る、とカズマは一人でさっさと結論付けた。
「マァ、優美でそつのないグランツの貴公子、もうあんたのその変態っぷりもさんざん聞かされたことだし、当人が冷酷だと言うその本性を隠さなくて済む運命共同体ってのはあんたにとってはお買い得、と」
了解、と周子が軽くテーブルの上を打って。
「さすが若様、お買い物上手」
まいどあり、と、まるで結婚を承諾したとは思えぬ軽口でそう言うと、周子はやれやれとのけぞって大きくあくびをした。
「あのさ、お腹すいたんだけど?」
「ははは。私の財力でまずもっとも確実にかなえることが出来るのは、あなたのその口を喜ばせることでしょうかね。イチゴはお好きでしたね、なんとまあ、他愛の無い可愛らしさだ」
「喜ぶのは腹の虫」
「……全く。みもふたもない。その肚に飼っているのはとんだ野獣だな」
「そうそう、結婚するんだもの、この野獣を食わせるためにグランツ家は身代はたいて、すかんぴんになるといいわ!」
「ははは、実に恐ろしいな」
そう笑って、カズマはふと、真顔になった。
「この世間知らずが」
唐突な、その凄みある押し殺した声に、周子は思わずびくん、として。
それを見て取ったカズマは一層機嫌が良くなった。
「グランツ家の資産がどれほどあるか、あなたは分かってない。すかんぴんという言葉は、私には、此の世でもっとも遠いところにある言葉です」
「アー、はいはい、若様はお金にずいぶんと自信がおありのようで。……ったく変態だなこいつ。おなかすいたよ、おなか! もうどうでもいいから私になにか食べさせてよ」
やがてエンギワルーがサンドイッチと温かいコーヒーを運んできた。夜食です、と断りテーブルに置くエンギワルーを見、カズマはあっさりと微笑んだ。
「エンヴィ、私は彼女と結婚するかな?」
「……………………よろしいかと」
カズマは紫の瞳をしばたかせた。
「ず、ずいぶん長い間があったな?」
「……なんとも無邪気におっしゃるので。まるで子供のようでございますな」
エンギワルーの返答にカズマは数瞬沈黙し、それから一度鋭い目線を彼に向けた。
「ほう、なにやら険があるな?」
「はて」
エンギワルーはいつもの仏頂面でそれ以上の言及を避けた。
主の厳しい視線を外すと、彼はくるりと周子に首を向けた。
「惜しむらくは、そこに恋情がないことでしょうかね?」
ひた、と見据えられそう言われ、瞬間、周子は己の背筋が無闇に冷えたのを感じた。
―――見透かされた
あくまでも強気で軽く軽く流した、カズマとの結婚話。内に抱えた不安がそうさせる、その理由、それをこの男には悟られている、虚勢の継ぎ目に爪を立てられ、周子は途端に泣きたい気分になった。
―――だって、信頼関係って言ったじゃない、ギブしてテイクしてそれもありじゃない
理由を考えたくないこの下腹の痛みが怖かった。ギャランの下に縛り付けるこのタトゥーが、むしろ強烈な反発力で以ってギャラン以外の男のところへと駆り立てる。手近な目の前にいる男、正直誰でも良かった、だけど誰でも良くなかった、カズマは肚を割って話せば存外いい奴で、利用すべきでないのもわかっている、だが、今、このカズマにすがりつかなければ、ギャランの勢いに押し流されるようで、怖かった。
―――とにかく怖くてたまらないんだもの!
だが意外なことに、周子が反論するよりも先に、カズマがすばやく口を開いた。
「結婚生活とは必ずしも恋情や愛がないと上手く行かぬというものではない。恋だの愛だのといった淡い夢を追うよりも、手堅く利害関係で結ばれるべきだ。そうだろう、周子?」
「……イエス」
周子はその論理屋な性格に内心感謝した。
エンギワルーは文句を言いたげに唇を尖らせかけたが、すぐに反論を肚に仕舞い込んだか、いつもの仏頂面を装って一礼すると黙ってカズマの前を退がった。
「私がグランツ家の家督を継ぐことは最大のメリットだ、だが、周子、あなたのメリットはどうでしょう? 私は自分の誠意として、対等であることを要求する。私が家督を継ぐ相当の利益をあなたに示さねば気が済まない」
この男の潔癖な言葉と態度が、この瞬間ほど似合うと思ったことは無かった。本音というものは本来そういうものかもしれない、実体によく似合うものだ。
周子が頷くのを見て、カズマはエンギワルーの淹れたコーヒーを一口すすった。そして機嫌良さげに目を細める。
「聞きましょう、楽しそうだな」
「ほんと楽しそうだね」
「こういう空中戦的会話は大好きです」
「撃墜してやるわ」
「面白い」
出来るのならな、と迫力のある紫の目で正面に見据えられ、周子は本当に喰えない男だ、とやはりまた苦笑した。
「タトゥーを、解きたいの」
「ほう?」
カズマは軽く首を捻った。
「私に言わせれば、タトゥーがそのままでも不都合ないが。幸い、王はあなたを気に入っている、国王に対して殴る蹴るの無礼を働いたところで笑って許される、むしろ大切に扱われていると言ってよいでしょう。この私に後見を申し付けたのだ、並みの暮らしより余程良い生活が保障されこそすれ、特段あなたに不都合はないはずだ」
「大有りよ!」
「どこが。一体どのような?」
「う、うぐぐ……」
―――ほんとに気付いてないんだこの男!
周子はとにかく! と強引に話を押し進めた。
「あんた、あのバカの望みだとか夢だとか、聞いたこと無い? それと交換よ」
「夢?……聞いたことは無いですね? 意思の大変お強い方ですから、ひょっとすると何かお考えがあるのかもしれませんが……目下最大の望みといえばあなたと相愛になることじゃないんですかね?」
「だーっ、やめて! 気色悪いこと言うな!」
周子が強く黒髪を揺すって悶えた。
「私に会う前のことで、よ。私を強引に呼び寄せた、召喚事故のその動機自体よ。あの馬鹿は望みなんかないって言い張ってるけど、事実私がここにいるんだし、ないはずがない、私がここにいるのが確かな証拠。そもそもタトゥーさえなけりゃ私はさっさとマチガイデシターって、おさらばしてるところなんだからさ」
動機ねぇ、とカズマは全く思い当たる節はないといった表情で。
「案外、牙の教徒を潰して欲しい、とかじゃないです?」
「さりげなく自分の要求を突きつけるな」
周子は即座に却下した。
「とにかく、私には不都合アリアリなのよ。もしもこのままギャランの勢いにのまれてタトゥーに乗っ取られて、あのバカを好きにでもなったら、それこそ一生を棒に振るんだわ。隷属のタトゥーは相手をなにやらすっごく好きな気にさせる、今だってそんな不安で胸が押しつぶされそうだわ、まるで自分が自分でなくなっていくようで」
これが恋だなんて冗談でも言わないでよ、と、周子はその肩を不安そうに震わせた。
「大体、あんただって」
「私?」
「好きだ惚れたと公言する女を妻に据えてあの馬鹿が怒らないとは思えない」
「ああ確かにそれはそれで面倒な話だな」
「グランツ家を継ぎたけりゃさっさとタトゥーを解きなさいよ、まずは私のタトゥーを解くのが先よ」
「確かに解いておいたほうが無難だな。しかしあなたの論術はまこと強いな」
感心したのか、カズマは、にこっと虚飾のない明るい笑みを浮かべた。
「タトゥーを解いたら、逃げるんじゃないのか、あなた」
「う」
―――鋭い。
タトゥーさえ解ければ言うことを聞く義務もないのだから。結婚、家督相続、ギャランを王に、牙の教徒撲滅、タトゥー解呪、これらの口約束の中でさりげなく巧妙に順序をすりかえたことを指摘され、周子は苦笑した。
「まあいい。そうまんまと美味しいところだけ摘んで逃げられるとは思うな、私はそう甘くはないですよ。しかし、聞けば恋だのなんだの、まるで恋に恋する思春期の娘の台詞としか聞こえないですね」
「うるさい。とにかくあんたは、ギャランの望みを聞き出して」
周子はカズマの言葉を遮りぴしゃりと命じた。
了解、と呟いて、カズマは少し残念そうな顔をした。
「そのタトゥー、私の名をこそ刻めばよかったのに。あなたはまこといろいろな使い途がある。ぜひ私が直接支配して、日頃決して言うことを聞かぬその向こう気の強さを、こう、ぎゅっと、ねじ伏せてみたいものだ」
カズマはレモンでも絞るかのように、手でスクイーズする仕草をしてみせた。
しばらくの間その楽しそうな冷笑を見つめ、周子はつくづくあきれたように手をひらひらと振った。
「まったくもう。そういうのを、惚れた、お前をおれの思い通りにしたい、って言うんじゃないの? なんなのその言い回し」
「私の場合はあいにく文字通りの言葉ですが」
だからあんたはトウヘンボクって陰口叩かれんのよ、と周子はテーブルの上に乗ったサンドイッチを一つ、つまんだ。
あ、うまい、とたちまちに機嫌を良くして、部屋の隅に控えるエンギワルーを見た。相変わらずの仏頂面だが、なかなかどうしてすぐれた料理人だ。
「まあ、とにかく。私にはロレンスがいるし。たとえタトゥーがあろうがあのバカを恋人にするわけにはいかないのよ。解いてロレンスを探し出して、もっとずっと真っ当な愛のある生活をするんだから。私にはそんな人生が用意されてる筈なんだから」
「ちょっと待て。今更ロレンスか、矛盾はないか」
カズマが眉を寄せた。
「タトゥーを解いたらロレンスの下に行くつもりですか」
「もち。婚約者だよ? 父さんが私の為に決めたんなら、恋に落ちるとしたらそりゃもちろんロレンスとでしょ」
強情なその言い草、カズマは唐突にギャランの苛立ちが分かる気がした。
出会った当初からずっと、その胸にはロレンスの影があり、周子はその影ばかりを探している、そう思うと、何か得体の知れないちりちりしたものが胸に生じた。
「ですが、あなたは、この私と結婚するとその口で言っているのですよ? いまさらいいなづけなどと言い出すつもりですか」
「やだな、ルドルフを押さえりゃいいんでしょ。家督が継げて万時上手く転がるまではあんたを夫にしといてあげる、いっぺん継いじゃえば離婚しようが妾百人作ろうが、宗主が何したって誰も文句言えないんでしょ、任しときな。身ひとつで上手く叩き出されてあげる。私はロレンスと愛のある生活を送るんだもんね、もうとっくにそう決めてるんだ、誰がなんと言ってもそうなんだもんね」
強い断定の口調でそう繰り返し、でもロレンスが本当の本当に見つからなかったらどうしようかなぁ、と周子は唸る。
サンドイッチをまた頬張って。うん、と周子は無邪気にうなずいた。
「そン時はここの従者として働かせてもらおうかなァ? 正直、他に行くあてもないし。三食、まじ美味しいし。エンギワルーの料理の腕はねぇホントいいよ……あっ、いいんだよ、賄いで! きっと賄い料理も期待できるから。それだけで十分ここで働く動機になるんだけど。どうどう? 腕っ節には自信があるよ、あー、ほらほらさっき、政敵の暗殺って言ってた! ぴったしじゃん!」
「……ええと。従者の人事決裁はエンギワルーに一任していますので、ここへの就職については彼に交渉を」
そう言ってカズマは笑った。
「あなた、面白いな! そのまま妻の座に居座る気は無いのか?」
「え? いいの?」
「いいの、って、ははははは!」
途端にカズマは馬鹿笑いをした。らしからぬその笑い声に周子は目を丸くしたが、カズマはどうしたことか、しばらくの間笑い転げていた。
「早々に離縁していては、やはりカズマ・フォン・グランツは唐変木だと後ろ指を指されましょう。伴侶はあなたで我慢しますよ」
「あー、じゃ、ロレンスがやっぱし見つからなかったら、そン時は適当によろしく」
「ええ。……ロレンスが見つからなければ、ええ」
カズマは不意に語尾のトーンを不穏な色に落としたが、周子は次にどのサンドイッチを食べようか選ぶのに気を取られてしまったようだった。選ぶと、またぱくりと無邪気に頬張って。
「でもなァ、だったら本気でグランツ家の身代を食いつぶすよ?」
「だから、やって御覧なさい、これだけの資産をどう荒らすのか、むしろ楽しみだ」
カズマは楽しそうに笑った。
「いままで財産目当てでさんざん女に言い寄られましたが、私をすかんぴんにすると言い切った方は初めてです。これほどの資産、使ったところでさほど減るものでもなし、こちらの顔色を伺うような女しか見たことがないんだ、はははは、あなたはまこと将来が楽しみだな。いい度胸をしている」
「へぇ? ほんとにいいんだ、グランツ家潰しても。遠慮なくいくよ?」
「ええどうぞ? ちなみに、家屋への保険は万全に掛かってますから、物理的に破壊したところで私の資産は殖える一方ですよ。保険金が、出ますからね?」
また保険金ー? ほんっとカネの好きな男だなァ、奥さんが壊したんじゃ保険金詐欺って言われるに違いないよー、と眉根を寄せて口を尖らせる周子。
カズマはますます上機嫌に、うっとりと目を細めた。
テーブルに片ひじをつくと、あごをのせ、周子を上目遣いで見つめ、微笑む。
「なぁに、大丈夫です、あなたの手綱くらい、キッチリさばいてみせますよ」
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- 2006-06-22 04:10
- カテゴリ : 「タトゥー・オブ・ギャラン」/長編/連載中
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