Entries

[tog]66:魂の所有者

 カズマは、はっと正気に返った。
 開きかけた幾重もの心の扉が、ものすごい勢いで次々と閉まりゆく音を聞いた。
「眩暈か?」
 その腕を強く掴んで倒れかけた身体を支え、ギャランはカズマの顔を覗き込むと、心配そうにそう尋ねた。
 カズマは冷静にギャランをすぐ傍に見た。その輝き、なんとも愛しい男である。
 最後の扉を閉めるのは、自分だ。
 一度開いたからには閉まるはずであろうに、しかしそれはとりわけ、重く、硬かった。それを、それでもしっかりと、カズマは閉めた。
 ―――さて、どう、転がすかな。
 いや、もう既に手は打ってある、どう転がるかを、いや、筋書き通りに転がるさまを、ただ見るだけだ、
 カズマは、ずれたメガネを掛け直すと、全くいつもの様子を装ってギャランに短く礼を述べた。
「ったく、お前、働き過ぎなんじゃね?」
 その言葉に、カズマはふっと一度冷笑して。
 カズマは、腹を括った。
 ギャランは、カズマがしっかりと両足で立つのをもう一度確認してから手を離した。そして、後ろを見やり、声を掛けた。
 ギャランより一歩下がった所に、締まった体つきの壮年の男が立っている。
「ハリー、飯だ、お前もここで食事を摂れ、ここでは無礼講だ、おれの隣で良いぞ」
 そう言い付け、ふと、正面に周子の顔を見、
「お前……愉快な顔だなァ!」
と、目を丸くして笑った。
 しばらく腹を抱えて笑って。
 それから周子にハロックを指し示した。
「周子、ハロック、ハロック・スレルム。かの洞窟の番人、エロックの息子だ。奴がずいぶんと若い時分に子作りした所為でこいつはすでにどえらくおっさんだが、西方の守りの要、血盟砦の総司令官、軍部での最高位にある男だ。おれの腹心の部下、まあとにかく闘将ハリーと世に聞こえた、めちゃくちゃつえー、おっさんだ」
 ハロックは毅然たる落ち着いた態度で一歩前に進むと、周子に一礼した。肩を揺すって笑うギャランを他所に、その表情はちらとも動かぬ。何事にも動じぬのも職務の一つとでも心得ているのだろう。
「こんにちは、周子です、よろしく、ハロックさん」
 一見穏やかにそうすんなりと返した後、周子はなれなれしく肩に腕を回してきたギャランの腕を邪険に払うと、その脛をどかっ! と強烈に蹴った。
「ばかっ! 人がこぉおんな間抜け面さらしてるときによッくもまあ紹介なぞしてくれるわね!! すっげー腹立つ、こんのクソバカッ! 第一印象最悪じゃん!」
 ギャランに蹴りを入れ罵る時点で、国王である彼に従う臣下にとってはすでに十分に印象は最悪なはずだが。
「あいたたた、いんや、お前は夕べ既に会ってるぞ。おれががっついて、あーなんだ、喧嘩になってだな、引き合わせるヒマが無かっただけだ。全く昨夜はヤり損ねたな! ……のわっち! いてぇって!」
 再び周子に蹴られて、ギャランはハロックの背に逃げた。
 その両肩を後ろからばんばんと強く叩いて。
「腹の据わったいいヤツだ、腕っ節も強ぇえ。お前の力になってくれるはずだ、なんでも相談しろ」
 涙目になって脛を擦りながら、ギャランは再び周子の側に寄った。肩を抱き寄せる。蹴られても殴られても側に寄りたくてしょうがない、といった具合である。
 遠慮なく周子の顔に手を伸ばし、指先でひげをくるりとなぞる。
 似合うなァ、とまた笑って。
「周子、お前、飯は?」
「あ、いや? まだ……っていうか要らないというか。大体それどころじゃあなくって……ねぇ、ギャランあのさ、昨夜さ? えええと、えとえと……」
「ではおれと一緒に摂れ」
 周子が慌てて頭を横に振る。
「いや、だから私、それどころじゃ……」
「ゆうべからこっち、おれはずっと働きづめなんだ、少しぐらいおれに付き合え!」
 ずきり、と左腕の名が痛んで周子は顔を顰めた。
 びくびくとギャランを見上げて。
「め、命令した?」
「こんなもん命令でもなんでもないだろが! ただおれは飯に付き合えと……ああ、痛むのか? こんなもんでも反応しやがるのか?」
 ギャランがたちまち心配そうな表情をして。
 そして周子の腕の傷を指の腹でそっとやさしくなぞった。
「……痛いのよ、あなたに命令されると」
 じゃあもう命令しない、とギャランは目を細めると周子にキスをする。
 お前が嫌がることはおれはしない、おれはまじでお前にベタ惚れだからな、と臆面もなく囁く。
 ―――どうしてこの男はこんなに容易くキスをしてくるのだろう、
 拒む隙すらない、完璧なタイミングを計ってくる。
 たちまちのうちに何度もキスされて、その広い胸の中に抱きしめられる。抗う隙がない。
 それでもなんとか周子は、ギャランの胸板を押し戻し、突き放して。
「夕べはホントに、いなかったの?」
「ん? ホントに? ああ。うむ。昨夜はあれからハロックと馬を駆ってきた。夜の間道を見て回ってだな。軍事上いろいろと策を練る必要がある、その相談さ、今戻ってきたところだ」
「軍事上?」
 珍しい言葉を聞いた、と周子は思った。
 この男はつい先日まで、おれは国王ではない、と言い張って酒と女以外はすべて無視を決め込んでいたのではなかったか。カズマ以外の人間とは話をしないのではなかったか。ハロックという男を従えていること自体、以前とは全然違うんじゃないのか、と周子は思った。
 あまつさえ、この壮年の男を腹心の部下、とまで言って周子に紹介したのだ。
「な、なんかちょっとがらっと雰囲気変わったって感じ?」
「おうよ、惚れ直したか!」
 おれはいい男だろう、と自慢げに腰に手をあて胸を張るその姿はいつもと全く同じで。
「気のせいだった」
 周子はキッパリと首を横に振った。
「つれねぇなぁ。なんだよ、お前の方こそ、こんな珍妙なひげをいつの間に蓄えたんだ?」
 一瞬、周子が沈痛な表情になった。
「ああ、珍妙なヒゲだわよね、なんかあんたのことがすっごいむかついてきた」
「おいおい八つ当たりかよ」
「あんたの所為よ。あんたが夕べいないから。どうして私を放っておくのよ、おかげで、ヒゲ、ヒゲかかれちゃって、まったくもう」
 唐突な、なんだか急に半べそでもかきそうな周子の様子に、ギャランは軽く両眉を上げた。
「どうしたんだよ……まるで女にでも詰られてる気分だな」
「女よ! どうせ女で悪かったわね!」
 噛み付くように吼えた周子の様子が、なんだかひどく不安げで。
 不意に周子にすがりつかれたような、なんだか妙な気分だった。
 夕べ? 夕べはおれに抱かれたかったのかな、とギャランはふと思い。
 目の前にいる、うつむく周子がなんだかとたんに、まるで別人に思えて。
 すっ、とギャランは真顔になった。
 周子がぐっと女っぽさを増している気がして。
 はからずとも女の色香が匂い立つようで。己の知らぬ色をギャランはそこに認めた。
 キン、と強烈な直感に頭を打たれた。

 振り返る。

「カズマ」
 カズマは正面から、振り返ったギャランの強い眼差しを受けた。
「お前、周子を抱いたな?」
「いいえ」
 キッパリと、カズマが否定した。
「並みの男なら即座に斬り捨てよう」
「何のことだか、さっぱりですね」
 それでも緩まぬギャランの厳しい眼差しに、カズマはもう一度はっきりと否定した。
「お前はそんなに軽率な真似をする男ではない。本気で惚れたか?」
「とんだ勘違いですね」
 カズマは真顔で冷たく返した。
 しばしの沈黙。
 ギャランは腰から真っ二つの剣を鞘ごと抜くと、がしゃん、と強く床に叩きつけた。
「抜きませぬか?」
「抜かれることをしたか?」
「いいえ」
 カズマは短く答えた。
 短すぎる答えだ。
 応えるには早すぎる。
 つまりは、存分に考えし尽くされた末の、仕組まれた会話だ。
 カズマとの会話の、こういう、何か策に嵌められたような状況、ギャランはこれまでにも何度も経験がある、そうと察するものが存分にあった。
 ギャランはたっぷりと長い間沈黙した。
 一度低く唸り、それからカズマを睨みつけた。
 そして毅然と言った。
「カズマ、お前の言い分は今後一切聞かぬことにする。後でいまさら欲しいと騒いでも絶対に許さんぞ、今ならまだ、真正面から殴ってやってもいい」
「要りません」
「同じ土俵にすらのらぬというのだな」
「なんの土俵かさっぱりですね」
 固く腕組みをしてメガネを光らせて。戸口に軽く寄りかかりそう答えるカズマの声はぞっとするほど冷たい。
 カズマは、この冷たく短い会話に、己のすべての熱を賭けた。
 こう仕向けて、この金髪の主の激情が向かう先を、カズマは誰よりもよく把握しているのだ。
 これで確実にロレンスを仕留めに掛かるだろう、と。
 ―――ロレンス。いま最も、あるいは、真っ先に倒したい男
 ギャランが表立って動けば自分は裏に回ることができる、とカズマは何処か自嘲げにほんのりと目を細めた。
 ―――既に目標がズレている、と笑うだろうか。
 だが、ロレンスを討ちたくてたまらぬ、これほど激しい執着を感じたことは他に無いといってもよい。
 そして、その理由を、昨夜はっきりと知った。
 いや、ズレてなどいない、とカズマは思い直して。
 修三亡き今、周子を所有しているのはロレンスだ。
 もしロレンスが牙の教徒の側だったら、確実に周子は寝返る、ロレンスの下へと。
 周子にとって、ロレンスとはそういう人物なのだ。
 こちらがどれほどの誠意を尽くそうと、周子は裏切る、周子にとっての世界はロレンスかそうでないか、それだけだ、どれほど言葉で確約してもいざとなれば全てを反故にしてロレンスの側につく。周子の欠陥明らかなその情動、味方を味方と見ぬ人間不信の極みともいえる異常な行動原理は歪んだ現実認識、ただただそこに尽きる。
 修三も厄介な育て方をした、己以外のものを見ぬようにと、その異様な執着は本人亡き今もなおまるで呪いの如く周子を束縛する、ロレンスという未明の存在に形を変え、周子のその一生を、己が執着から手放す気などきっと毛頭ないのだろう、おそらく未来永劫、ただただ己がものにする、それ以上もそれ以下もない、その異様さ。
 周子に余計なものはロレンスだ。
 まずは。
 ―――まずは?
 不意に脳裏をよぎったその不穏な問いに、カズマはたまらず目を伏せた。


 たっぷりと沈黙した後、よし、とギャランは拳を強く握った。
「おれはもう寝ることにする」
 きょっとん、としている周子をピタ、と見据えて。
「お前も来い」
 その言葉に驚いて周子はギャランを見上げた。
 不安げに自分の左腕を押さえて。
 唐突なその命令に反応したタトゥーが、熱くキリキリと痛むのを感じて。
「命令した?」
「した」
「たった今、しない、って! 言ったじゃん!」
「する」
 キッパリとギャランは言った。
「おれと寝ろ」
 容赦の一切無い声だった。
 たっぷり間があいて。周子はじりじりとギャランを前に後退さった。
「はん、やだもうなに言ってんのよ、だだだれがあんたなんかと!?」
「いいから今すぐおれと寝ろ!」
 お前の気持ちなんか知るものか、とにかくおれはお前のタトゥーの主だぞ、と大真面目な顔でそう言い放つと、周子の腕を引っつかみ、廊下を引きずって行く。
「イヤダってば!」
「ばっか、拒むな、死にてぇのかお前、ヤるぞ!」
 大騒ぎで抵抗する周子の叫び声が、だがギャランに力ずくで引きずられ確実に遠ざかりゆくのを聞いて。
 カズマはちょっと軽く肩を竦めた。重い足取りで自室へ引き上げる。


 周子の手を強く引いてベッドに押し倒すと、そのまま口付け服を脱がせにかかる。
「ちょちょちょちょ、ちょっと! やめてよ!」
 周子はその手を払ったが。
「はあうるさい、つべこべ言うな、身体をおれに預けろ、それでいい」
「あああのさ、さっきのあれはどういうことかな」
「はあ?」
 ギャランがあきれたように周子の目を覗き込む。
「本気でお前、自分の体のことがわっかんねぇのか?」
「寝た、って、私とカズマ様が? だってカズマ様は全然何も。さっきだって冗談みたいなこと言って笑ってただけで。悪戯ったってこのみょうちきりんなヒゲでもう十分、いや、だって、いくらなんでもカズマ様はそんなことしないし? まして私を相手に? いや、やっぱありえないよ、あの男はすっごい女嫌い、ギャラン、おっかしいよ、おかしいのはあんただよ」
 ギャランはまじまじと周子を見て。
 とことんあきれたように唸った。
「驚いたな、じゃあ一体全体どうヤったんだ?」
「えっ!?」
 ああ、いや、とギャランはすぐに頭を振った。
「じゃあそれならそれでいい、お前が何も無かったというなら別にそれでいいじゃねぇか」
「やだよ! なによそんないい加減な!」
「なにがいい加減なんだよ?」
 ああうるせぇなと呟くとギャランはとうとう周子を裸に剥き、自分も次々と衣を脱ぎ捨て肌を重ねてくる。
「一体何がいい加減だって? お前は大人しくおれに抱かれりゃあそれでいい」
「私はこんなの嫌! あんたは私の気持ちなんてどうでもいいのッ!?」
「ああ、どうでもいいね!」
 キッパリとギャランは言った。
 周子の目が丸くなる。
 周子の唇に、首筋に鎖骨にキスを落としてギャランは、
「あいつと寝たかどうかのホントのトコロが分かればお前はどうにかなるのか?」
「えっ……?」
「じゃああいつが好きだとあいつのところへ行くのか?」
 絶対に行かせない、と言うかと思えば、それならそれでまだ分かるんだがな、と続けたので、周子は尚いっそう驚いてギャランを間近でまじまじと見つめた。
「あ、あんたはそんなのもっとずっとずーっと嫉妬深いかと思ってた」
「ああ。だがお前のその顔、別にあいつが好きとか、そういうわけではないんだろ?」
「別に好きとか嫌いとかそもそもそんなんじゃ……そんな関係自体あり得ない」
「じゃあどうだっていいだろうが。そんな下らんことでうだうだ言ってないで、さっさとおれに身体を開け」
 ぐっと身体の重さを乗せてくる。
 ギャランのような直情的な男は、こういうときはそれこそ怒り狂うのではないかと思ったのだが、周子のほうがむしろ戸惑うほど、ギャランはすこぶる冷静に見えた。
 この男はことごとく予想を裏切る、人のことを好きだと言いながら、だがつまりは私の意志を尊重するわけではなくただこんなふうに女の身体が欲しいだけなのだと思うと、周子はどうにも泣きたい気分になった。
「ギャランなんか大嫌いよ、こんな真似して一体何様のつもり、セックスがしたいんならもっと他に沢山いるでしょうよ! もういい加減放して。私を自由にして」
 バカ抜かせ、とギャランは浅く笑った。
「おれにはそんな下らんことを抜かしてる暇が無ぇ。どうしたらお前のハートをゲットできるか、おれは日夜寝ても覚めてもそればかりだ」
 お前の心が欲しいんだ、と不意に真剣な眼差しで真っ直ぐに見詰められ。
 その声色の真摯さにハッとなったその瞬間、その隙を突くようにギャランの指が両腿の間に滑り込んでくる。
「ちょっ……!」
 周子は身体を固くした。
 やってることと言ってることのつじつまが合わないよ、と震える声で文句を言ったのだが。
 ギャランは笑うばかりで全然悪びれる様子もなく。
 あまつさえ、可愛いもんだなァと囁いてキスしてくる。
「お前は死んだ親父にぞっこんだし、ロレンスだって追っている、どうせおれなんざ最後の最後だ、ひょっとするとそのうちカズマの方を好きだとか言い出しかねん。そんなお前の気持ちの、何をどう丁重に扱えというのだ」
 身体が震える。周子はギャランの胸を叩いた。
「すす好きでもない男に抱かれるなんて私はイヤ! やめてってば!」
「おれを好きにさせてやる、心配するな」
 大真面目なカオで、ギャランはそんなことを言う。
 お前がおれに惚れるんならおれはなんだってする、とキスしてくる。
「はは、なんだよそんなまん丸な目をして」
 ほら、体の力を抜けよ、とギャランは笑った。
「要はお前の気持ち次第だろ」
 そう言って優しく唇を吸ってくる。
「お前がおれに惚れればすべては丸くおさまるだろ?」
 ギャランのそれは、あまりに枝葉を取り払った簡潔な論理だった。
「まだお前はおれにもカズマにも惚れちゃいない、だったらどっちと寝たって大差ないだろ」
「じゃあなに? あんたは私に二股を掛けろと!?」
「ははは。いーい股だな! ……あたっあたたた、殴るな」
「ふっざけんな! 笑ってる場合じゃないよ!」
 周子が拳で金髪を強く叩いて。
「そうよ! 昨日も思ったんだけど! あんたは何、そんなにやたらと女遊びばっかしてるというの! 誰とでも寝るだなんてあんた道徳とかってもんは習ってないの!?」
「道徳だって?おれに抱かれないと困るって女がいるんだ、おれは間違ってない。お前はいったい誰に対する道徳のことを言っているのだ、いいか、人間の世界で論じられる道徳なんて、おれから見ると笑止だぞ、寝ても良い、寝てはいけない、この二つを分ける基準は何だ? 愛がないと寝ないのか? 愛がないと不純で不道徳か?」
「あああああたりまえじゃないの、少なくとも私は好きな人と……」
「ダッカラそれがおれだって!」
 ギャランはそう主張して一歩も譲らない。
「おれはどっちが先でもかまわん、おれはお前を抱く、好きだからだ、馬鹿、蹴るな! 蹴られたっておれはお前を抱くぞ! だーっ! 蹴るなって! とにかく、お前はこのおれのハートにぞっこん惚れろ、ダーっ、蹴るな! ははは! その勝気なトコロがおれはなんとも好きだがな!」
 ビックリするほど矢つぎ早にギャランがまくし立てる。
 抗う両手をがっしりと押さえつけられて。
 真っ直ぐな青い瞳で見詰められて。
 何度もキスされて。
「こんな細い身体、男がその気になればいくらだって組み敷ける。ヤるのは簡単だ! だがな、おれが欲しいのはお前の心だ、タトゥー抜きでおれを好きだと言ってみろ」
「おおおおおおかしいよ!」
「ああほんとにつべこべうるさいヤツだな、黙って入れさせろ」
 ギャランがゆっくりと、だが力強く身体を沈めてくる。
 うっ、と周子はひとつうめくと、痛みを逃がすように小さく息を吐いた。
 力抜けって、とギャランは目を細めて囁く。
「―――っ」
「ははん、いい表情だな、怒ってんのか? カズマはありゃー、本気だぞ、もしまた今度迫られることがあれば、そのときもしお前がそんなに悪い気がしないのであれば、寝てやれ」
「ええっ! ギャランあんた妬かないの?」
「妬かない」
 そう言ってギャランはきつく周子の左肩を噛んだ。それは何より痛かった。
 この肩の痕が、おそらくこうしてついたのだろうと、周子はようやく初めて気がついた。
 肩から口を外したギャランに口付けられて、血の味を知る。
「たかが寝た寝ないで所有を主張してどうする、お前が、おれに惚れなきゃダメだ。お前はもっと男を知らなきゃダメだ、お前はもっといろんな男を知って、おれが一番だと分かれ、おれがキッチリその身体に教えてやる」
 妬けてたまんねぇよ、とギャランがうめく。
「おれはおれのプライドにかけてお前にぞっこんだと言っているんだ、そんなものに見返りを求めるわけ無かろうが」
 ああもうごちゃごちゃ言うな、セックスに集中できんだろ! とギャランは言う。
「絶対に、お前はおれに惚れる」
 心配すんな、と囁くと青い目を気持ち良さげに細めてキスしてくる。
「この世の男の中でおれが一番だって、分かれ。今、多少順番は違っても、あー、そりゃー、気のせいだ」
「! 気のせいッ!?」
「お前はおれに惚れて当然だ」
 なんてったっておれの命を賭けるんだからな、とギャランは言った。
 強張った周子の身体を宥めるように何度もキスをして。一度腰を揺らしてギャランは、はあ、と満足そうに深いため息を吐いた。
「入れるといーい気持ちだな、なぁオイ」
「ななななんてこというのよ!」
「ああうるさい、もう黙ってろ、いい加減苛々してきた、あ、ああいや、声上げろよ。お前のいーい声がおれは聞きたい」
「ちょっちょちょちょちょと!」
「あー、すっげぇいい気持ちだな、オイ。周子、すきー。ははは」
 その身体を深く周子に傾けて、すきだ、と甘い声で囁いてくる。
 何度も何度も好きだと囁き、ちゅっ、と可愛い音を立ててキスしてくる。
 くすくす笑いながら甘い甘いバカな言葉を吹きかける。
「ほおら。あーん、て言ってみろ、イイ、って鳴いてみろ」
「……っ! バッカじゃないの! いたっ! ……殺す!」
 強く突かれて周子は短く悲鳴を上げ、ギャランを睨みつけたが。
「ほら、いーい具合になってきたな。全くコッチは初心な、可愛いもんだな」
 やがて熱い吐息を震えるように吐いた周子にギャランは手応えを感じ。
 そんな周子にギャランはもうすっかり上機嫌になって。
「なぁ、ちったあイイ、ってのが分かってきたろうが」
「こここれは何かの間違いだ」
 真っ赤になって首を横に振って強く否定する周子、その様子が本当に愛しくてたまらなくて。
 そうだ、おれだって、酔って眠っているところを無理に抱いた。
 それで、ただそれだけでその所有を主張している。
 決して合意があったわけじゃない。
 だが。
 ―――愛しい、もうとにかくどうしようもなくこの女が愛しい、いまさら手離せるわけが無い
 周子の魂を引っこ抜いて、ぶちのめして、どっぷりとおれの色に染めたい、おれの腹を掻っ捌いてその血で染め上げたい、とギャランは思う。



[tog]66:魂の所有者
Created: 2006-07-22 Modified: 2007-12-17
« Back [tog]65 | 「タトゥー・オブ・ギャラン」 目次 | Next [tog]67 »

Appendix

最近のエントリ

過去の記事タイトル一覧 はこちらから

ブログ内検索

QRコード

QRコード

小説「タトゥー・オブ・ギャラン」も読めるよ!
http://klimit.blog7.fc2.com/

最近のブクマ byコハ

    Read more...on koharitoのブックマーク