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[tog]72:サトリ

 うっそうと草木が茂った細い山道を抜け、ルシウス・フォン・ソルティスの屋敷に着いてみれば、領主ルシウス自らがわざわざ玄関先で出迎えている。

「よくぞこられた、カズマ殿」
「…………………………」

 細身でひょろりとした長身、さらさらとした銀に輝く長くまっすぐな髪と、面長の柔和な顔立ちで、実際の年より軽く十は若く見える優男のルシウスが、にっこりと満面の笑みを浮かべ、軽く両手を広げて見せる。
 好意を存分に示したその様子。
 予想以上の上機嫌で出迎えられ、むしろ歓迎された側であるカズマのほうが不安そうに眉を顰めた。
 ルシウスの人となりについては、カズマは既に十二分に知り尽くしている、この目の前の長身の男は、こんな風に上機嫌に他人を迎え入れる性質ではないのだ、全く。

 普段は、その灰色の瞳はちらとも笑っていない。
 カズマの知っているルシウスは、頭は良いが、良すぎて先を読みすぎる。人の心の浅さを存分に知っていると断言し、灰色のその瞳には明るさの欠片も無い、そんな男だ。
 人の心を読む魔物の名が由来である、サトリという異名を献ぜられた男である。
 まさにそんな能力でも有しているかのように、ルシウスはきっちりと相手の言動の裏の意を押さえてくる。政敵に回せばこれほど恐ろしい男はいない、と、かつて宮中では一目もニ目も置かれていた男である。
 整った美形の顔立ちだが、この世には面白いことなど何も無い、とでも言いたげな、不機嫌そうな顔をしているのに。

 ―――今日のこれは、何だ?

 長い銀髪をさらりと掻き上げ、ルシウスはにっこりと笑った。
 灰色の色素の薄い虹彩が、きらきらと耀いて見える。
「遠路はるばるお疲れでしょう。ゆるりとなさい」
 会いたかったですよ、カズマ、とルシウスは小さな鈴でも転がしたかのような声で言う。
 ちがう、とカズマは内心うめいた。
 ルシウスの、この興味津々に耀く猫のような瞳は、目の前のカズマを見ているのではない。確かに見てはいるが、カズマを透いて、どこか、もっと別のものを見ている。
 とても、楽しそうに。
 まるで、仕留めるべき鼠に狙いを定めたような、爛々とした輝きである。

 ―――気味が悪い。

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