コハリトりみっと
長編恋愛FT「タトゥー・オブ・ギャラン」がメインの小説・雑記サイト。
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洞窟の魔物退治、といっても、それが領内三つの洞窟すべて、それも最後の洞窟となるとさすがに疲れを、いや、なにより面倒くささを感じてくる。
やれやれ、と周子は強く頭を振った。
「ブルーピクシーなんてまだ可愛いもんだったじゃないの―――って、」
放った強い火気が洞窟の闇をなぎ払う、その瞬間に炭化するいくつもの魔物の姿が見えた。そして、それを逃れて前に進み出る魔物も、見えた。
続けざまに呪文を放つ、仕留め損ねた魔物を見逃さぬ程度にはまだ十分冷静だったが、疲労は無いわけではない。
いつだったか、面倒くさいから、という理由で大量の魔物を封印の書にただ封じてきた父修三の気持ちが初めて分かった気がした。
そして、修三の前にいつもあった、盾の如き大きな背中の主を思い出し、
「前衛というものの存在を、初めて欲しいと思ったなこりゃ」
クル、と周子はその名を口にした。
無論、カズマはルシウスの屋敷で昏倒しているし、ここへ出向いているのは周子ひとりだ、他に頼りになる者はいない。
―――何、今更誰かに期待するだなんて、
唐突に沸いた感傷めいた気分に、なんだかひどい虚しさを覚えた。
頭を振ろうとし、その瞬間、はっとして再び洞窟の奥を見た。
何かの韻律が耳に届くなり、既に身体に知る痛みの予感が一瞬早く、ぶわっと鳥肌を立てて肌を襲った、
―――くる、
超高速でかき回された空気、それが真空の刃となって対象物に無数の傷を刻み付ける、その独特にして不穏な空気の唸りが耳に触れ、周子は思わず身を竦めた。
一瞬の後に、目の前が血飛沫で朱に染まった。
見た、のだが、
己の身に、いささかの痛みも無い。
周子は驚いて視線を上げた。
織りの上等な純白のジャケット、金銀の煌びやかな刺繍の施されたシャンデリアの如き華美なその衣装には見覚えがある。
それが、無数に切り刻まれて。
切り裂かれた無数の傷から鮮血が噴出すようにして滴るのを、見た、と思うなり、いきなり強く肩を掴まれ壁に背を打った。
すぐ目の前に金の肩章きらめく広い肩幅を見て。
「うん、きっとなにか幻術を」
「大丈夫か、なにボコられてやがる!」
ありえない人物の登場を幻術で片付けようとしたところへ、がつりと響いたその声に。
礼を言ったものか、いやそれよりもなぜこの場に現われたのかを突っ込んだものか、いやそれより血、血、とその温い血の感触に思わず周子は取り乱して。豪奢なジャケットの裾をきゅっ、と握るなり、おそらく最もどうでもよいことをつい真っ先に口走った。
「どうしよう、アシューに怒られる、それ、正装なんだよねそうだよね」
「……。はは!」
ギャランは一瞬呆気に取られたように、だが、すぐに真夏の晴天のようなすがすがしい笑みを浮かべ、顎をしゃくった。
「前にも言ったろ、お前の新しい男はつえぇって!」
そのしょげた面、まぁった死んだ人間のことを呼んでいたな? とギャランは片目を顰めた。
「クルクルクルクル、親父でなきゃその男か。ったく、お前のピンチを救うのはおれだって、いい加減分かりやがれ」
間近に迫ってきた魔物の胴体をなぎ払い、剣を両手に握ると腰を低く撓めた。
「トリ! 火だ、火を吐け、一気にカタをつけちまうぞ」
「……火? イヤじゃ、魔力を喰う、地道になぎ倒せ」
若造は若いのだからここで体力を使わんでどうする、とララクロノフが文句を言った。
「だあ! ごちゃごちゃとうるせえ、まじで使えねぇ奴!」
ララクロノフの応えに、苛立ちに身を捩るようにしてギャランが一喝、それでもギャランは身を躍らせると洞窟の奥のほうへと駆けて行った。見事な太刀筋でばっさばっさと斬り捨てる。
「剣術なんてただの暇潰しだと思っていたが、悪か無ぇな!」
ギャランは、いよっし! と上機嫌に叫ぶと、どうだ見たかカッコいいだろうとでも言わんばかりの輝く笑顔で勢い良く周子を振り返ったが、
「きゃっ」
周子の小さな悲鳴に、文字通りギャランは飛び上がった。
左腕を押さえるようにしてその場に蹲る周子の様子を、ひどいスローモーションでも見るかのように、ギャランは見た。
周子のもとに駆け寄る己の足が、これほどの鈍足に思えたのは初めてのことだった。
左腕を押さえた周子の指の間に、なにか、白い、長い紐のようなものが見えた。
「なんで大人しく噛まれてんだ! 払え」
白い蛇だった、それが周子の腕に噛み付いたのを、それもちょうどタトゥーの真上に噛み付いているのを見て、ギャランはカッ、と瞬間的に頭に血が上った。
「魔物に気を取られてて……ヘビ? ヘビなの、うわあナニコレ嫌だ、あたた」
「あたたじゃねぇだろが、こいつぁ毒ヘビだ」
ギャランは咄嗟に払い、除けざまに払った蛇の頭を剣先で叩き潰した。
暗くはあったが、噛み痕ははっきりと見て取れた。腕に空いた穴が血を吐く、その濡れた感触を指先に知る。周子の腕に刻んだ自分の名が他のものによって穢された、と思うなり腹が立った。仄かに発光するかのごとき白蛇、唐突にシュルツ・ゲッターフィールドを彷彿させた。
「解毒だ、何でもいい、何か呪文があンだろ!」
「―――ディオス」
え? とギャランはきょとんとして。
明るい光がはじけたかと思うと、なんとも心地よい、温かい癒しの気が流れ込み……治癒したのは己の体であると気付いたのは数秒後。
刻まれた無数の切り傷が瞬く間に塞がり、回復したのを知って。
「だー、ばか! 自分にだ! 自分に!」
「わ、分かってるわよ、バカ」
慌てたギャランに、死ぬなー、とゆさゆさと体を揺すられ、周子は鬱陶しそうに両眉を寄せた。唇を尖らせると、
「いくら毒ヘビでも即死はしないわよ、うるっさいなバカ」
至極冷静に己に解毒の呪文を唱えた。
「何、泣いてんの?」
うぐ、とギャランは目尻に力を入れた。
そのまま周子の視線から逃れるように一度洞窟の中を見回して、ひとまず不穏な気配の無いことを確認して。
ったく、なにがピンチだやばかったじゃあねぇか、とギャランはうめくようにしてやれやれと己の首筋を擦ったものの、
「命令だ、しばし座って休め、すっげぇ顔色悪いぞ」
そして、ギャランは己の腰の真っ二つ剣に向かって、これまでに無いほど厳しい声を掛けた。
「トリ、主人はおれだぞ、剣なら剣らしく、おれの言うことを聞け! もし今度おれの身体をのっとりやがったら、二度と許さんぞ、どうなるか分かってんだろうな!」
「お主程度の男がワシをどうにかできるものか、若造」
「馬鹿にしやがって。ったく、ピンチにも程があるだろ、トリ、なぜもっと早くに言わぬ」
「もう忘れたのか、お主もお主で大変じゃったろうが。あのごたごたの最中に飛び出してゆくわけにも行かぬじゃろうて」
たちまち周子の注視を感じた。
「ギャラ……なにか、あったの?」
そう言ってこちらを見上げてくる周子だが、攻撃呪文やら治癒呪文やらで既に相当に魔力を使ってしまっているのだろうか、頬に触れればまるで貧血でもおこしたように冷たい。力なく座り込んでいる、と表現したほうがよほどしっくりくる、そんな素振りだ。この女を一人で戦わせて、おれは何をやっていたのかと思うと、己のぼんくらぶりに強烈に腹が立った。
「牙の教徒とかが、出たの?」
「いや? 心配すんな、別にたいしたことじゃあねぇ」
「たいしたことじゃぞ、お主とて剣を抜きかけたではないか」
「いちいちうるっせぇな!!」
ギャランは剣を腰から抜き、地面に強く打ちつけると、その靴底で剣を踏みにじった。
「黙ってろや、トリ」
「ど」
ギャランの険しい声に、思わず周子が吃音した。
「……どうしたのよ、ギャラン、ヘンなトリにずいぶんな仕打ち」
「減らず口を叩きやがる、やかましい。こいつはおれの逆鱗に触れた」
「逆鱗?」
元来気性のサッパリしたギャランが、逆鱗などと自分で言い出すのは珍しい、と周子は思って。
見れば、逆鱗という言葉でふいに火がついたのか、怒りの感情が、たった今唐突にして猛烈な勢いでその体を駆け巡ったらしい。金髪がざばりと逆立ち、肩が震えている。
「剣を抜こうとしたおれを止めた。おれは殺るときゃ殺る、モノには仕留めドキってもんがある、これを逸せば、後でえらく厄介なことになるってのをおれは知ってる、おれは自分の腕っ節には自信がある、身体をのっとられるのが最も嫌いだ、おれは今後一切この剣は使わん」
「でも剣としてはいい剣だって……手にした最初の時から、ギャランはすぐに気に入ったんじゃないの」
「おれの言うことを聞かぬ剣なぞ、どんなナマクラよりも性質が悪い」
ギャランはきっぱりと言うと、真っ二つの剣をガッ、と蹴り上げ、手にとり、洞窟の壁際の濡土に力一杯突き立てた。
「いざというときにお前を守れなかったら、どうする」
剣に唾棄し、いくぞ、とギャランは剣に背を向け洞窟の入り口へと歩き出した。その背中、周子が手を触れるのも声を掛けるのも憚られるほどに、怒りの気がじらじらと嫌な音を立てている。
一見静かだが、これほどに怒り狂っているギャランを見るのは初めてで。周子は呆然とその背中を見送って。
―――怒りも程度が過ぎると、あの方は黙ってぷい、といなくなってしまうんですよ
ああそうかこの男はこういう風に怒るのか、と、その昔カズマが言っていた言葉を改めて思い出した。
「どうした、立てないのか」
途中でふと振り返り、ギャランは踵を返すと、周子の手をとり、引き上げた。
身体に纏った怒りの気とはまるで違って、それはとても優しく男らしい仕草だった。
「おれが強いのはお前を守るためだ」
おれの言うことを忠実に聞けぬ剣なぞ、どれほどに優れた剣であろうと要らぬ、とギャランは再度きっぱりと断言した。
周子は抱き上げようとするギャランを軽く押し止め、
「ララクロノフ」
凶悪な声色でララクロノフの名を鋭く呼んだ。
「死にたいんなら、そう言いな」
突如、凄まじい殺気を帯びた、強絶な魔法を行使する時に生じる魔法風が、周子の足下からぶわりと巻き起こった。
青白い燐光が宙に浮かび、金属の擦れるような緊迫した空気の異音が上がる、爆発の衝撃波と炎で以って確実に相手を消し炭にしてしまう殺戮の攻撃系最上級レベルの呪文である。
「す、すまんかった!」
ララクロノフがぽんっ! と鳥の姿になって周子の足下に駆け寄ると、両の翼を目一杯に広げ地面にひれ伏した。
周子が容赦なくそのトリを、ぎゅむと踏みつけた。
「スペルを消費させぬ死に方を選ぶとは、殊勝なことね」
非情な声でそう言うと、さらに思いっきり踏みつける。
ぎゃあ! わあ! かんべんじゃ! ワシが悪かった! と許しを乞う悲鳴が上がる。
「ちょっと魔力をくれてやったらなに? 図に乗ったのか、こんのクソトリが!」
確かに羽根の折れる音がした、まさに凶行に及んだ周子だが、その攣り上がった黒眉は一層の厳しさを眉間に刻んでギャランを見た。
「剣の主であるあんたの意思を無視して、抜かせなかったと?」
「あ、いや……」
周子のごっそり不機嫌になった声に、ギャランはびくり、として。
「たとえ私があんたをそう扱ってもね、トリがあんたをバカにする道理はないわ。赦さない。ギャラン、こいつどうしてくれようか」
周子の顔を覗き込んでギャランは慌ててその手を引いた。
「お前、つ、つつ疲れてるんだろ? そそそそそんな呪文だだだ出すな」
「あんたが要らないってんなら、まさに用済み、だったらいっそ剣の形すら留めぬよう今この場で始末してくれるわ!」
たちまち膨大なエネルギーの収束する独特の気配が疾った、空気が軋む。
却って魔力が沸いたわよ、と真顔で凄む周子に。ギャランは己の怒りも何処へやら、ひどく冷や汗をたらした。
「あ、いや……その、勘弁してやってくれ」
洞窟を出ると、真っ先にギャランは周子の左腕を日の下で吟味しようとしたが。
「さわんな」
途端に邪険に払われた。
そこにあるのは、こちらから寄せる心遣いの一切を踏みにじるかのような強い拒絶。はっきりと不快を露わにした周子のきつい黒目をまともに向けられて、自分の存在はこの女にとってはさっきのトリと同じ程度でしかないというひどい落胆に胸が痛んだ。
それでも。
もう一度、手は伸びた。
周子の手を親身にとり、噛み痕に目を落とす、と……自ずと眉が寄った。
―――毒の心配はない、どころか、
「傷がないな?」
「タトゥーの呪のほうが強いもの……」
周子の機嫌はすこぶる悪い。
「案外、こう噛まれてタトゥーの文字が崩れはしないかと期待したのに」
たまたま噛み付いたヘビがタトゥーの箇所ならば、ひょっとしたらこの女は噛まれるがままに放置すると言い出すのかもしれない、そんなにタトゥーがイヤか、と、ギャランはうめく。そういえばこの女は、タトゥーを嫌って腕を落とすとか言っていたこともあるのだと思い出して。
タトゥーを刻んだ、知らぬとはいえ決して取り返しのつかぬことをしでかしたという、後悔と呼ぶにもまたどこか相応しくない、喩えようのない思いが、何か、疼くような、鋭い、ズキズキする痛み、切り傷や骨折に似たひどく直接的な痛みに思えた。
ああちっくしょ、と周子が毒づいた。
「タトゥーめ、どんだけ強い呪なんだ、忌々しいったら。あっ」
左腕の名に口づけ強く吸うと、周子は身を竦めるように硬直させた。
ビックリしたようなその丸い黒目に、思わずギャランも目を丸くする。
「ん? どうした、……感じるのか」
「ななな、なんてこと言うの!」
途端に真っ赤になって、抱き寄せた胸板を突き放そうとするその素振りが、まるで初心な小娘で。
ギャランは目の前の頬を紅潮させた女を見る。
己の体の下で、この白い肌が上気し桜色に染まるのをもう何度見たか知れぬ、と思った。
そうだ、既に数を忘れるほどには抱いた筈だ。
―――この女は強い。
先ほどのララクロノフへの猛悪にして冷酷な態度を思い浮かべ。
あれほどに強い女が、こんなにおれに邪険な女が、ああも容易くおれの腹の下で熱い吐息を漏らすのは、やはり、好いた惚れたではない、タトゥーの効力以外に他ならぬだろう、と改めて思って。
「ギャラン、どうかしたの?」
「ああ? なにが?」
聞き返したギャランの声に、周子はさらに首を傾げた。
「なんか、すごい、しょげー……って。珍しく落ち込んでいるみたいだから……あんたらしくもない」
ギャランは苦笑する。
「お前、解きたいか? タトゥーの呪」
「もちろん」
真顔で即答されてギャランはさらにしょげた。
えっ? なに? どうしたの? と周子は、まるで首の骨でも折れたかの如く深く項垂れたギャランの肩を慌てて揺するが。
「……解いてどうする?」
「ど、どうするって、そりゃ勿論、ロ……」
ギャランは最も聞きたく無かった名をあっさりと口にされて、顔をしかめた。
「ろ、ね。……その口でその名を呼ぶな」
顔をもたげギャランは周子の頤に手を掛けると、その唇を重ねた。
やわらかな唇の感触、微かに掛かる甘い呼吸に、胸が痺れる。
―――こんなに簡単なのに、
どうして周子が自分のものではないのか、納得がいかない。
「ねぇ、ギャラン、」
大人しく唇を赦したあと、そっとこちらを覗き込んでくる黒目はタトゥーの効力の所為だろう、不安定に揺れている。
「五百年も時が経つと、さすがに人の姿形は変わるかしら?」
「ばっか。五百年も経てば生きちゃイネェって」
さっと脳裏を掠めた白髪の男のイメージを打ち消して、ギャランは、なに馬鹿なこと言うんだ、と素早く却下した。
「ルシウスはロレンスじゃないのよ……」
自分がロレンスであると言ったルシウスは目にもまぶしい銀髪であるし、何より、人を食ったその態度と雰囲気、明らかに担がれているのが分かる、だが、当人が堂々とロレンスだと言う以上、それをどうやって否定すればよいのか、周子には分からなくなってしまった。
―――いっそ、誰を見てもロレンスじゃないって、私、言いそうで
「……そう、それが、たとえ、あんたでも、ね……。ああロレンスなら、ひと目見ただけで直ぐに分かると思ってた……たとえ姿形が変わっていたって、すぐに分かるって……なのに」
「ルシウス?」
ギャランは素っ頓狂な悲鳴を上げて周囲を見回した。
「ひょっ、ひょっとしてここはアラカンサスモートか!? なんだお前こんな遠いところまで出張って何やってたんだ? まさか本気で魔物退治してやがんじゃないだろうな」
ガクガクと激しく周子を揺すった。
「は、あーいや……自分がロレンスだと名乗るなり、いらっしゃい、って言うからさ、ついていったら、どでかいテーブルに食事の用意がズラリで、ガチョウや豚みたいに次から次へと突っ込まれ食べさせられたと思ったら今度は寝なさい、って。で、寝て起きたら、魔力も回復しただろう、さあ、魔物退治に行ってきてください、ですって……お屋敷を追い出された」
「相変わらず身勝手な仕切り具合だな」
ギャランがうむむと唸る。
「領内の魔物が片付けば、安心して領地を留守にできるから、って言われたら断れるはずも無い。カズマ様が既にさんざんお願いしてるはずだし」
「留守? お願い?」
ルシウスに何か頼みごとをしやがったのか、と金色の眉が不安そうに下がった。
「あいつに頼むと代償はでかいぞ? 悪魔並に魂とか要求されるに違いないぞ?」
大真面目なその表情に周子は笑って。
「ふふ。カズマ様と同じこと言ってる。代償ならきっとカズマが持つ肚でしょう、だって、あんたの政権を磐石なものにするために、って、カズマ様はルシウスの伺候を説得しにわざわざ来たんだもん」
途端にギャランが飛び上がった。
「あああああのルシウスが出てくるものか! おおおれはルシウスは苦手だぞ、あああんな容赦ない変態野郎……ばばばば磐石どころかおれの魂が瓦解する!崩壊する!砂になる!」
かつて一体何があったのか、極端な怯えっぷりだった。
真っ青になってそう叫んだが、ふと、真面目な表情になって。
「あ、いや、待てよ……、今までの事すべて水に流しても、だがしかしルシウスにこちら側につくならこれほど頼りになることは無いな」
「こちら側? たより?」
「ああ、いや、セリアの宰相がこれまた厄介な男でな、アシューが泣かされそうだ」
そう言って、ギャランはしまった、と、下唇を噛んだ。
セリア宰相のことを口にしたのを咄嗟に悔いたのだ。
先を促すように見詰めてくる周子の視線をそらすと、お前には関係ない、と言い切って。
サーデュラスの名を出せば、周子が今度はこちらに出張ってきてしまう。なにしろ召喚の書を持ち出したとされる男だ、それが父親の所有していた書なれば、当然周子は取り返そうとするだろう。サーデュラスとセリア宰相に会うのも、もはや時間の問題かもしれないが。
だがどうにも、今は王宮から遠ざけておいたほうが、無難である……できれば一生。
―――黙っていたほうがいい。
「セリアの宰相って前にも聞いたことある、どんな人?」
ぐっ、とギャランが答えに詰まる。そして、苦し紛れに、
「ギャランはちんもくのじゅもんをおぼえた」
そう言うなり、ばきっと頭を殴られて、仕方なく白髪の盲人だとだけ、白状した。
「……」
しばらく黙って、周子はそう、と小さく呟いた。
じゃあ、違うか、と呟く周子の意図がわかるだけに、
「お前の思ってる奴の容貌とは程遠いぞ」
―――嘘は言ってねぇ、
ギャランは無闇に胸が痛んだ。
「それはそうと、カズマはどうした。お前は一人なのか?」
「あ、いや、その……」
今度は周子が答えに詰まる番になった。
よもや、魔物に襲われて倒れました、とは言えまい。
ギャランが自分をカズマに預けているのは、カズマがそれ相応に強いからだ、彼の剣の腕を信頼しているからだ、実際ギャランは以前カズマに直接そう問われて否定しなかった。
ふるふると黒髪を揺すって、
「しゅ、しゅうこちゃんもちんもくのじゅもんをおぼえた、り、なんだり、で?」
「……おいおい、急に可愛い振りしたって……やべぇ、くる」
おれには効果てきめんだがな、とギャランは苦笑したが、
「理由は関係ない、だがお前を一人で危険な目に合わせるのは許すわけにはゆかぬ、カズマは一体何してやがる」
「ああ、いや、だからさー、まあそのだからねこれにはいろいろと」
「ほう。カズマをかばうか?」
途端に低くなったその声色に。
「え?」
周子はびっくりして振り仰いだ。
と、その先にギャランの青い瞳がたちまち揺れて、切羽詰った色を湛えるのを周子は見た。
―――な、なんか不味いこと言ったっけ私?
ひどく傷ついたようなその眼差しに、思わず周子は動揺して。
「そ、そそそんなわけでもないんだけどさ? ちょっといろいろあってなんかーあー……とにかく別にカズマ様が悪いんじゃなくって、も、もう用も済んだし、か、帰るよっ?」
ギャランにしてみれば、そんな周子の様子はどうにもカズマをかばっているように見え……そう思った瞬間、喉の渇きにも似た強烈な渇望感、実に男っぽい征服欲が肚の底から湧きあがるかのようで、ギャランは周子を前に、どうしてもその情動には抗えそうな気がしなかった。
―――ああ、ちっくしょ、
―――この女の中の何パーセントがおれのことを考えているんだっていうんだ、
「ああ、もう、タトゥーでも何でもいい、とにかくお前、おれのことだけ考えろ、苛々する!」
ギャランは強く周子をどつくと、その場に押し倒した。
「わっ! ちょっ、ギャラン!」
周子が手足をジタジタさせて暴れたが。
力任せに組み敷き、ミニスカートをたくし上げるようにして強引に両膝を腰で押し割った。虚を衝き体格差にものをいわせればそれはひどく簡単だった。
「ちょっ、ちょっとまずいよ! まずいですってば!」
「騒ぐな、どうせこんな森の中誰も来ぬ、とにかく今、お前が欲しい」
「やだって!」
真っ赤になって拳で背中を叩き、止めるよう懇願する周子、まるで肚の底が焼けるようなこの激しい劣情は到底そんなものではおさまりそうもなかった。
むしろ、その必死さにこそ、いっそう煽られて。
どれほど拒もうと、タトゥーに任せて抱けば、確実にその間だけはこの女はおれのものだ、そんな気休めな所有でもなんでも、ギャランはすがりつきたい気分だった。
腕の中で喘ぐ周子が、怖い。
―――タトゥーがなくなれば、この女はどうするだろう。
「ギャラン、洞窟から物音が、する。まだ魔物が残ってる、んじゃないかな……っ、あっ、ちょっ、だめだって、だめっ」
「……トリ、てめぇが行って来い」
「ぬお! 嫌ジャ!」
ララクロノフが即座に抗議の声を上げたが、ギャランは下草の間から手近な石を掴んでララクロノフ目掛けびゅっ、と鋭く投げた。その隙に腹の下から逃げ出そうとした周子の喉下を力づくで押さえる、周子が湿気たくぐもった悲鳴を上げたが、
「これはおれのもんだ」
獲物をガッチリと牙に咥え込んだ肉食獣の獰猛さでギャランはララクロノフに命じた。
「先ほど命乞いをしてやったのは誰だ、おれの命を聞けぬのなら即殺すぞ」
服従以外は許さぬ、と、ひと唸りして。
「おれは愛を交わすのに忙しい、とっとと行って片付けてきやがれ」
およそ愛からは程遠いギャランの殺気、呑まれたララクロノフはビクリと身を竦め震え上がると、自ら洞窟の奥へと飛んでいった。
「ワシが残党を片す倒す方が早かったのう、しつこくしつこく抱きおって、若造め! タチバナのこんなあられもない姿、見とうなかったわ! まったく、これではただの女じゃ」
こんな外で、こんな乱暴に、先代のタチバナが生きておったらそれはそれは怒り狂うじゃろうて、とララクロノフは近くの木枝から、周子の裸体を眼下にぶつぶつと難詰した。
「はー、情けない、なさけないのう!」
どうやら、己の主が他の者に蹂躙されるのを見るのは、ひどく沽券にかかわるらしい。
まして、ついさきほど、平身低頭地面に腹を擦り付け、踏みつけられながらも必至で詫びを乞うた矢先のことだけあって、そのプライドの傷はとりわけ深いようだった。
ようやく身を起こしたギャランに、
「気が済んだのならば、王宮へ戻ろうぞ! 向こうは向こうでお主をご指名じゃ!」
「指名?」
ララクロノフの言葉に、ちら、と眉を上げたギャラン。聞き返したのは周子。
気だるげに身を起こすと、あたりに散った衣類をかき集め、肢体を通す。
ギャランはそんな周子の様子をじっと見詰めて。
とろんとしたその黒目が次第に正気を取り戻しゆくのが、ありがたいようなありがたくないような、どちらともいえぬなんともやるせない気分だった。
―――どうすればこの女を正気のままに手の内にとどめることができるのか、
ギャランにはさっぱり見当もつかぬ。
自嘲気味に笑って。
「……あのうすら白い奴が待っていると?」
ララクロノフは急降下、下草の中に飛び込むと身体を擦り付け、返り血を削ぎ落とした。つややかな黒い羽根を広げ、翼の具合を吟味する。そして、満足そうに、ふん、と大きく鼻を鳴らした。
「安心せい、次は止めぬ」
血臭を存分に染み込ませ、その獣の本能に火がついたか、今やララクロノフは異様な殺気に満ちている、鋭い爪の先に引っかかった残肉片を嘴で外すと、
「ぬう不味い。そうじゃ……ワシゃもっとずっと美味い肉を知っておる、おうよワシは心底、魂に思い出した、身の振り方を決めたぞ決めた、決めた」
キシキシと哄笑した。
「ギャラン?」
周子は一瞬、なにか不吉な予感と共にララクロノフのその哄笑を訝しんだが、すぐにギャランの反応を読むほうに気をとられた。タトゥーのもたらす恋情の余韻の所為だ。
「ギャラン、何かあったの? 厄介ごとなら私も一緒に行くわ」
「いや」
心配そうに見上げてくる周子をギャランは凝視して。
手を伸ばす。
乱れた黒髪を指で梳き、髪に絡んだ千切れた細い下草を落とす。
黒い瞳には蕩ける黒蜜のような甘い耀きが残っている。
―――駄目だ、タトゥーでもなんでも今更これを手離せる気がしない。
「心配するな」
むしろお前はゆっくりとこの土地に居ろ、当分王宮には近づくな、と言いつけて、ギャランは周子を抱きしめ、唇を寄せた。
「……ん」
背中に回った周子の手が、一度きゅっと己の背を抱くのを知って。
―――なんだこの手は、なぜおれを抱く
その手の意図がわからない。
―――何度も邪険に突き放されてきた、この手が本心からおれを抱くことがあるのだろうか、こんな風に?
嬉しいのか悔しいのか、とにかく泣きたい気持ちになってギャランは、乱れた己の気持ちを誤魔化すように何度もキスをした。
「何かあればすぐにおれを呼べ、お前に何かあってはおれは死んでも死に切れん」
―――忌々しいタトゥーめ、
ギャランはララクロノフの背に跨ると、勢い良く宙に舞った。
[tog]86:気休めな所有でもなんでも
Created: 2008-02-07
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やれやれ、と周子は強く頭を振った。
「ブルーピクシーなんてまだ可愛いもんだったじゃないの―――って、」
放った強い火気が洞窟の闇をなぎ払う、その瞬間に炭化するいくつもの魔物の姿が見えた。そして、それを逃れて前に進み出る魔物も、見えた。
続けざまに呪文を放つ、仕留め損ねた魔物を見逃さぬ程度にはまだ十分冷静だったが、疲労は無いわけではない。
いつだったか、面倒くさいから、という理由で大量の魔物を封印の書にただ封じてきた父修三の気持ちが初めて分かった気がした。
そして、修三の前にいつもあった、盾の如き大きな背中の主を思い出し、
「前衛というものの存在を、初めて欲しいと思ったなこりゃ」
クル、と周子はその名を口にした。
無論、カズマはルシウスの屋敷で昏倒しているし、ここへ出向いているのは周子ひとりだ、他に頼りになる者はいない。
―――何、今更誰かに期待するだなんて、
唐突に沸いた感傷めいた気分に、なんだかひどい虚しさを覚えた。
頭を振ろうとし、その瞬間、はっとして再び洞窟の奥を見た。
何かの韻律が耳に届くなり、既に身体に知る痛みの予感が一瞬早く、ぶわっと鳥肌を立てて肌を襲った、
―――くる、
超高速でかき回された空気、それが真空の刃となって対象物に無数の傷を刻み付ける、その独特にして不穏な空気の唸りが耳に触れ、周子は思わず身を竦めた。
一瞬の後に、目の前が血飛沫で朱に染まった。
見た、のだが、
己の身に、いささかの痛みも無い。
周子は驚いて視線を上げた。
織りの上等な純白のジャケット、金銀の煌びやかな刺繍の施されたシャンデリアの如き華美なその衣装には見覚えがある。
それが、無数に切り刻まれて。
切り裂かれた無数の傷から鮮血が噴出すようにして滴るのを、見た、と思うなり、いきなり強く肩を掴まれ壁に背を打った。
すぐ目の前に金の肩章きらめく広い肩幅を見て。
「うん、きっとなにか幻術を」
「大丈夫か、なにボコられてやがる!」
ありえない人物の登場を幻術で片付けようとしたところへ、がつりと響いたその声に。
礼を言ったものか、いやそれよりもなぜこの場に現われたのかを突っ込んだものか、いやそれより血、血、とその温い血の感触に思わず周子は取り乱して。豪奢なジャケットの裾をきゅっ、と握るなり、おそらく最もどうでもよいことをつい真っ先に口走った。
「どうしよう、アシューに怒られる、それ、正装なんだよねそうだよね」
「……。はは!」
ギャランは一瞬呆気に取られたように、だが、すぐに真夏の晴天のようなすがすがしい笑みを浮かべ、顎をしゃくった。
「前にも言ったろ、お前の新しい男はつえぇって!」
そのしょげた面、まぁった死んだ人間のことを呼んでいたな? とギャランは片目を顰めた。
「クルクルクルクル、親父でなきゃその男か。ったく、お前のピンチを救うのはおれだって、いい加減分かりやがれ」
間近に迫ってきた魔物の胴体をなぎ払い、剣を両手に握ると腰を低く撓めた。
「トリ! 火だ、火を吐け、一気にカタをつけちまうぞ」
「……火? イヤじゃ、魔力を喰う、地道になぎ倒せ」
若造は若いのだからここで体力を使わんでどうする、とララクロノフが文句を言った。
「だあ! ごちゃごちゃとうるせえ、まじで使えねぇ奴!」
ララクロノフの応えに、苛立ちに身を捩るようにしてギャランが一喝、それでもギャランは身を躍らせると洞窟の奥のほうへと駆けて行った。見事な太刀筋でばっさばっさと斬り捨てる。
「剣術なんてただの暇潰しだと思っていたが、悪か無ぇな!」
ギャランは、いよっし! と上機嫌に叫ぶと、どうだ見たかカッコいいだろうとでも言わんばかりの輝く笑顔で勢い良く周子を振り返ったが、
「きゃっ」
周子の小さな悲鳴に、文字通りギャランは飛び上がった。
左腕を押さえるようにしてその場に蹲る周子の様子を、ひどいスローモーションでも見るかのように、ギャランは見た。
周子のもとに駆け寄る己の足が、これほどの鈍足に思えたのは初めてのことだった。
左腕を押さえた周子の指の間に、なにか、白い、長い紐のようなものが見えた。
「なんで大人しく噛まれてんだ! 払え」
白い蛇だった、それが周子の腕に噛み付いたのを、それもちょうどタトゥーの真上に噛み付いているのを見て、ギャランはカッ、と瞬間的に頭に血が上った。
「魔物に気を取られてて……ヘビ? ヘビなの、うわあナニコレ嫌だ、あたた」
「あたたじゃねぇだろが、こいつぁ毒ヘビだ」
ギャランは咄嗟に払い、除けざまに払った蛇の頭を剣先で叩き潰した。
暗くはあったが、噛み痕ははっきりと見て取れた。腕に空いた穴が血を吐く、その濡れた感触を指先に知る。周子の腕に刻んだ自分の名が他のものによって穢された、と思うなり腹が立った。仄かに発光するかのごとき白蛇、唐突にシュルツ・ゲッターフィールドを彷彿させた。
「解毒だ、何でもいい、何か呪文があンだろ!」
「―――ディオス」
え? とギャランはきょとんとして。
明るい光がはじけたかと思うと、なんとも心地よい、温かい癒しの気が流れ込み……治癒したのは己の体であると気付いたのは数秒後。
刻まれた無数の切り傷が瞬く間に塞がり、回復したのを知って。
「だー、ばか! 自分にだ! 自分に!」
「わ、分かってるわよ、バカ」
慌てたギャランに、死ぬなー、とゆさゆさと体を揺すられ、周子は鬱陶しそうに両眉を寄せた。唇を尖らせると、
「いくら毒ヘビでも即死はしないわよ、うるっさいなバカ」
至極冷静に己に解毒の呪文を唱えた。
「何、泣いてんの?」
うぐ、とギャランは目尻に力を入れた。
そのまま周子の視線から逃れるように一度洞窟の中を見回して、ひとまず不穏な気配の無いことを確認して。
ったく、なにがピンチだやばかったじゃあねぇか、とギャランはうめくようにしてやれやれと己の首筋を擦ったものの、
「命令だ、しばし座って休め、すっげぇ顔色悪いぞ」
そして、ギャランは己の腰の真っ二つ剣に向かって、これまでに無いほど厳しい声を掛けた。
「トリ、主人はおれだぞ、剣なら剣らしく、おれの言うことを聞け! もし今度おれの身体をのっとりやがったら、二度と許さんぞ、どうなるか分かってんだろうな!」
「お主程度の男がワシをどうにかできるものか、若造」
「馬鹿にしやがって。ったく、ピンチにも程があるだろ、トリ、なぜもっと早くに言わぬ」
「もう忘れたのか、お主もお主で大変じゃったろうが。あのごたごたの最中に飛び出してゆくわけにも行かぬじゃろうて」
たちまち周子の注視を感じた。
「ギャラ……なにか、あったの?」
そう言ってこちらを見上げてくる周子だが、攻撃呪文やら治癒呪文やらで既に相当に魔力を使ってしまっているのだろうか、頬に触れればまるで貧血でもおこしたように冷たい。力なく座り込んでいる、と表現したほうがよほどしっくりくる、そんな素振りだ。この女を一人で戦わせて、おれは何をやっていたのかと思うと、己のぼんくらぶりに強烈に腹が立った。
「牙の教徒とかが、出たの?」
「いや? 心配すんな、別にたいしたことじゃあねぇ」
「たいしたことじゃぞ、お主とて剣を抜きかけたではないか」
「いちいちうるっせぇな!!」
ギャランは剣を腰から抜き、地面に強く打ちつけると、その靴底で剣を踏みにじった。
「黙ってろや、トリ」
「ど」
ギャランの険しい声に、思わず周子が吃音した。
「……どうしたのよ、ギャラン、ヘンなトリにずいぶんな仕打ち」
「減らず口を叩きやがる、やかましい。こいつはおれの逆鱗に触れた」
「逆鱗?」
元来気性のサッパリしたギャランが、逆鱗などと自分で言い出すのは珍しい、と周子は思って。
見れば、逆鱗という言葉でふいに火がついたのか、怒りの感情が、たった今唐突にして猛烈な勢いでその体を駆け巡ったらしい。金髪がざばりと逆立ち、肩が震えている。
「剣を抜こうとしたおれを止めた。おれは殺るときゃ殺る、モノには仕留めドキってもんがある、これを逸せば、後でえらく厄介なことになるってのをおれは知ってる、おれは自分の腕っ節には自信がある、身体をのっとられるのが最も嫌いだ、おれは今後一切この剣は使わん」
「でも剣としてはいい剣だって……手にした最初の時から、ギャランはすぐに気に入ったんじゃないの」
「おれの言うことを聞かぬ剣なぞ、どんなナマクラよりも性質が悪い」
ギャランはきっぱりと言うと、真っ二つの剣をガッ、と蹴り上げ、手にとり、洞窟の壁際の濡土に力一杯突き立てた。
「いざというときにお前を守れなかったら、どうする」
剣に唾棄し、いくぞ、とギャランは剣に背を向け洞窟の入り口へと歩き出した。その背中、周子が手を触れるのも声を掛けるのも憚られるほどに、怒りの気がじらじらと嫌な音を立てている。
一見静かだが、これほどに怒り狂っているギャランを見るのは初めてで。周子は呆然とその背中を見送って。
―――怒りも程度が過ぎると、あの方は黙ってぷい、といなくなってしまうんですよ
ああそうかこの男はこういう風に怒るのか、と、その昔カズマが言っていた言葉を改めて思い出した。
「どうした、立てないのか」
途中でふと振り返り、ギャランは踵を返すと、周子の手をとり、引き上げた。
身体に纏った怒りの気とはまるで違って、それはとても優しく男らしい仕草だった。
「おれが強いのはお前を守るためだ」
おれの言うことを忠実に聞けぬ剣なぞ、どれほどに優れた剣であろうと要らぬ、とギャランは再度きっぱりと断言した。
周子は抱き上げようとするギャランを軽く押し止め、
「ララクロノフ」
凶悪な声色でララクロノフの名を鋭く呼んだ。
「死にたいんなら、そう言いな」
突如、凄まじい殺気を帯びた、強絶な魔法を行使する時に生じる魔法風が、周子の足下からぶわりと巻き起こった。
青白い燐光が宙に浮かび、金属の擦れるような緊迫した空気の異音が上がる、爆発の衝撃波と炎で以って確実に相手を消し炭にしてしまう殺戮の攻撃系最上級レベルの呪文である。
「す、すまんかった!」
ララクロノフがぽんっ! と鳥の姿になって周子の足下に駆け寄ると、両の翼を目一杯に広げ地面にひれ伏した。
周子が容赦なくそのトリを、ぎゅむと踏みつけた。
「スペルを消費させぬ死に方を選ぶとは、殊勝なことね」
非情な声でそう言うと、さらに思いっきり踏みつける。
ぎゃあ! わあ! かんべんじゃ! ワシが悪かった! と許しを乞う悲鳴が上がる。
「ちょっと魔力をくれてやったらなに? 図に乗ったのか、こんのクソトリが!」
確かに羽根の折れる音がした、まさに凶行に及んだ周子だが、その攣り上がった黒眉は一層の厳しさを眉間に刻んでギャランを見た。
「剣の主であるあんたの意思を無視して、抜かせなかったと?」
「あ、いや……」
周子のごっそり不機嫌になった声に、ギャランはびくり、として。
「たとえ私があんたをそう扱ってもね、トリがあんたをバカにする道理はないわ。赦さない。ギャラン、こいつどうしてくれようか」
周子の顔を覗き込んでギャランは慌ててその手を引いた。
「お前、つ、つつ疲れてるんだろ? そそそそそんな呪文だだだ出すな」
「あんたが要らないってんなら、まさに用済み、だったらいっそ剣の形すら留めぬよう今この場で始末してくれるわ!」
たちまち膨大なエネルギーの収束する独特の気配が疾った、空気が軋む。
却って魔力が沸いたわよ、と真顔で凄む周子に。ギャランは己の怒りも何処へやら、ひどく冷や汗をたらした。
「あ、いや……その、勘弁してやってくれ」
洞窟を出ると、真っ先にギャランは周子の左腕を日の下で吟味しようとしたが。
「さわんな」
途端に邪険に払われた。
そこにあるのは、こちらから寄せる心遣いの一切を踏みにじるかのような強い拒絶。はっきりと不快を露わにした周子のきつい黒目をまともに向けられて、自分の存在はこの女にとってはさっきのトリと同じ程度でしかないというひどい落胆に胸が痛んだ。
それでも。
もう一度、手は伸びた。
周子の手を親身にとり、噛み痕に目を落とす、と……自ずと眉が寄った。
―――毒の心配はない、どころか、
「傷がないな?」
「タトゥーの呪のほうが強いもの……」
周子の機嫌はすこぶる悪い。
「案外、こう噛まれてタトゥーの文字が崩れはしないかと期待したのに」
たまたま噛み付いたヘビがタトゥーの箇所ならば、ひょっとしたらこの女は噛まれるがままに放置すると言い出すのかもしれない、そんなにタトゥーがイヤか、と、ギャランはうめく。そういえばこの女は、タトゥーを嫌って腕を落とすとか言っていたこともあるのだと思い出して。
タトゥーを刻んだ、知らぬとはいえ決して取り返しのつかぬことをしでかしたという、後悔と呼ぶにもまたどこか相応しくない、喩えようのない思いが、何か、疼くような、鋭い、ズキズキする痛み、切り傷や骨折に似たひどく直接的な痛みに思えた。
ああちっくしょ、と周子が毒づいた。
「タトゥーめ、どんだけ強い呪なんだ、忌々しいったら。あっ」
左腕の名に口づけ強く吸うと、周子は身を竦めるように硬直させた。
ビックリしたようなその丸い黒目に、思わずギャランも目を丸くする。
「ん? どうした、……感じるのか」
「ななな、なんてこと言うの!」
途端に真っ赤になって、抱き寄せた胸板を突き放そうとするその素振りが、まるで初心な小娘で。
ギャランは目の前の頬を紅潮させた女を見る。
己の体の下で、この白い肌が上気し桜色に染まるのをもう何度見たか知れぬ、と思った。
そうだ、既に数を忘れるほどには抱いた筈だ。
―――この女は強い。
先ほどのララクロノフへの猛悪にして冷酷な態度を思い浮かべ。
あれほどに強い女が、こんなにおれに邪険な女が、ああも容易くおれの腹の下で熱い吐息を漏らすのは、やはり、好いた惚れたではない、タトゥーの効力以外に他ならぬだろう、と改めて思って。
「ギャラン、どうかしたの?」
「ああ? なにが?」
聞き返したギャランの声に、周子はさらに首を傾げた。
「なんか、すごい、しょげー……って。珍しく落ち込んでいるみたいだから……あんたらしくもない」
ギャランは苦笑する。
「お前、解きたいか? タトゥーの呪」
「もちろん」
真顔で即答されてギャランはさらにしょげた。
えっ? なに? どうしたの? と周子は、まるで首の骨でも折れたかの如く深く項垂れたギャランの肩を慌てて揺するが。
「……解いてどうする?」
「ど、どうするって、そりゃ勿論、ロ……」
ギャランは最も聞きたく無かった名をあっさりと口にされて、顔をしかめた。
「ろ、ね。……その口でその名を呼ぶな」
顔をもたげギャランは周子の頤に手を掛けると、その唇を重ねた。
やわらかな唇の感触、微かに掛かる甘い呼吸に、胸が痺れる。
―――こんなに簡単なのに、
どうして周子が自分のものではないのか、納得がいかない。
「ねぇ、ギャラン、」
大人しく唇を赦したあと、そっとこちらを覗き込んでくる黒目はタトゥーの効力の所為だろう、不安定に揺れている。
「五百年も時が経つと、さすがに人の姿形は変わるかしら?」
「ばっか。五百年も経てば生きちゃイネェって」
さっと脳裏を掠めた白髪の男のイメージを打ち消して、ギャランは、なに馬鹿なこと言うんだ、と素早く却下した。
「ルシウスはロレンスじゃないのよ……」
自分がロレンスであると言ったルシウスは目にもまぶしい銀髪であるし、何より、人を食ったその態度と雰囲気、明らかに担がれているのが分かる、だが、当人が堂々とロレンスだと言う以上、それをどうやって否定すればよいのか、周子には分からなくなってしまった。
―――いっそ、誰を見てもロレンスじゃないって、私、言いそうで
「……そう、それが、たとえ、あんたでも、ね……。ああロレンスなら、ひと目見ただけで直ぐに分かると思ってた……たとえ姿形が変わっていたって、すぐに分かるって……なのに」
「ルシウス?」
ギャランは素っ頓狂な悲鳴を上げて周囲を見回した。
「ひょっ、ひょっとしてここはアラカンサスモートか!? なんだお前こんな遠いところまで出張って何やってたんだ? まさか本気で魔物退治してやがんじゃないだろうな」
ガクガクと激しく周子を揺すった。
「は、あーいや……自分がロレンスだと名乗るなり、いらっしゃい、って言うからさ、ついていったら、どでかいテーブルに食事の用意がズラリで、ガチョウや豚みたいに次から次へと突っ込まれ食べさせられたと思ったら今度は寝なさい、って。で、寝て起きたら、魔力も回復しただろう、さあ、魔物退治に行ってきてください、ですって……お屋敷を追い出された」
「相変わらず身勝手な仕切り具合だな」
ギャランがうむむと唸る。
「領内の魔物が片付けば、安心して領地を留守にできるから、って言われたら断れるはずも無い。カズマ様が既にさんざんお願いしてるはずだし」
「留守? お願い?」
ルシウスに何か頼みごとをしやがったのか、と金色の眉が不安そうに下がった。
「あいつに頼むと代償はでかいぞ? 悪魔並に魂とか要求されるに違いないぞ?」
大真面目なその表情に周子は笑って。
「ふふ。カズマ様と同じこと言ってる。代償ならきっとカズマが持つ肚でしょう、だって、あんたの政権を磐石なものにするために、って、カズマ様はルシウスの伺候を説得しにわざわざ来たんだもん」
途端にギャランが飛び上がった。
「あああああのルシウスが出てくるものか! おおおれはルシウスは苦手だぞ、あああんな容赦ない変態野郎……ばばばば磐石どころかおれの魂が瓦解する!崩壊する!砂になる!」
かつて一体何があったのか、極端な怯えっぷりだった。
真っ青になってそう叫んだが、ふと、真面目な表情になって。
「あ、いや、待てよ……、今までの事すべて水に流しても、だがしかしルシウスにこちら側につくならこれほど頼りになることは無いな」
「こちら側? たより?」
「ああ、いや、セリアの宰相がこれまた厄介な男でな、アシューが泣かされそうだ」
そう言って、ギャランはしまった、と、下唇を噛んだ。
セリア宰相のことを口にしたのを咄嗟に悔いたのだ。
先を促すように見詰めてくる周子の視線をそらすと、お前には関係ない、と言い切って。
サーデュラスの名を出せば、周子が今度はこちらに出張ってきてしまう。なにしろ召喚の書を持ち出したとされる男だ、それが父親の所有していた書なれば、当然周子は取り返そうとするだろう。サーデュラスとセリア宰相に会うのも、もはや時間の問題かもしれないが。
だがどうにも、今は王宮から遠ざけておいたほうが、無難である……できれば一生。
―――黙っていたほうがいい。
「セリアの宰相って前にも聞いたことある、どんな人?」
ぐっ、とギャランが答えに詰まる。そして、苦し紛れに、
「ギャランはちんもくのじゅもんをおぼえた」
そう言うなり、ばきっと頭を殴られて、仕方なく白髪の盲人だとだけ、白状した。
「……」
しばらく黙って、周子はそう、と小さく呟いた。
じゃあ、違うか、と呟く周子の意図がわかるだけに、
「お前の思ってる奴の容貌とは程遠いぞ」
―――嘘は言ってねぇ、
ギャランは無闇に胸が痛んだ。
「それはそうと、カズマはどうした。お前は一人なのか?」
「あ、いや、その……」
今度は周子が答えに詰まる番になった。
よもや、魔物に襲われて倒れました、とは言えまい。
ギャランが自分をカズマに預けているのは、カズマがそれ相応に強いからだ、彼の剣の腕を信頼しているからだ、実際ギャランは以前カズマに直接そう問われて否定しなかった。
ふるふると黒髪を揺すって、
「しゅ、しゅうこちゃんもちんもくのじゅもんをおぼえた、り、なんだり、で?」
「……おいおい、急に可愛い振りしたって……やべぇ、くる」
おれには効果てきめんだがな、とギャランは苦笑したが、
「理由は関係ない、だがお前を一人で危険な目に合わせるのは許すわけにはゆかぬ、カズマは一体何してやがる」
「ああ、いや、だからさー、まあそのだからねこれにはいろいろと」
「ほう。カズマをかばうか?」
途端に低くなったその声色に。
「え?」
周子はびっくりして振り仰いだ。
と、その先にギャランの青い瞳がたちまち揺れて、切羽詰った色を湛えるのを周子は見た。
―――な、なんか不味いこと言ったっけ私?
ひどく傷ついたようなその眼差しに、思わず周子は動揺して。
「そ、そそそんなわけでもないんだけどさ? ちょっといろいろあってなんかーあー……とにかく別にカズマ様が悪いんじゃなくって、も、もう用も済んだし、か、帰るよっ?」
ギャランにしてみれば、そんな周子の様子はどうにもカズマをかばっているように見え……そう思った瞬間、喉の渇きにも似た強烈な渇望感、実に男っぽい征服欲が肚の底から湧きあがるかのようで、ギャランは周子を前に、どうしてもその情動には抗えそうな気がしなかった。
―――ああ、ちっくしょ、
―――この女の中の何パーセントがおれのことを考えているんだっていうんだ、
「ああ、もう、タトゥーでも何でもいい、とにかくお前、おれのことだけ考えろ、苛々する!」
ギャランは強く周子をどつくと、その場に押し倒した。
「わっ! ちょっ、ギャラン!」
周子が手足をジタジタさせて暴れたが。
力任せに組み敷き、ミニスカートをたくし上げるようにして強引に両膝を腰で押し割った。虚を衝き体格差にものをいわせればそれはひどく簡単だった。
「ちょっ、ちょっとまずいよ! まずいですってば!」
「騒ぐな、どうせこんな森の中誰も来ぬ、とにかく今、お前が欲しい」
「やだって!」
真っ赤になって拳で背中を叩き、止めるよう懇願する周子、まるで肚の底が焼けるようなこの激しい劣情は到底そんなものではおさまりそうもなかった。
むしろ、その必死さにこそ、いっそう煽られて。
どれほど拒もうと、タトゥーに任せて抱けば、確実にその間だけはこの女はおれのものだ、そんな気休めな所有でもなんでも、ギャランはすがりつきたい気分だった。
腕の中で喘ぐ周子が、怖い。
―――タトゥーがなくなれば、この女はどうするだろう。
「ギャラン、洞窟から物音が、する。まだ魔物が残ってる、んじゃないかな……っ、あっ、ちょっ、だめだって、だめっ」
「……トリ、てめぇが行って来い」
「ぬお! 嫌ジャ!」
ララクロノフが即座に抗議の声を上げたが、ギャランは下草の間から手近な石を掴んでララクロノフ目掛けびゅっ、と鋭く投げた。その隙に腹の下から逃げ出そうとした周子の喉下を力づくで押さえる、周子が湿気たくぐもった悲鳴を上げたが、
「これはおれのもんだ」
獲物をガッチリと牙に咥え込んだ肉食獣の獰猛さでギャランはララクロノフに命じた。
「先ほど命乞いをしてやったのは誰だ、おれの命を聞けぬのなら即殺すぞ」
服従以外は許さぬ、と、ひと唸りして。
「おれは愛を交わすのに忙しい、とっとと行って片付けてきやがれ」
およそ愛からは程遠いギャランの殺気、呑まれたララクロノフはビクリと身を竦め震え上がると、自ら洞窟の奥へと飛んでいった。
「ワシが残党を片す倒す方が早かったのう、しつこくしつこく抱きおって、若造め! タチバナのこんなあられもない姿、見とうなかったわ! まったく、これではただの女じゃ」
こんな外で、こんな乱暴に、先代のタチバナが生きておったらそれはそれは怒り狂うじゃろうて、とララクロノフは近くの木枝から、周子の裸体を眼下にぶつぶつと難詰した。
「はー、情けない、なさけないのう!」
どうやら、己の主が他の者に蹂躙されるのを見るのは、ひどく沽券にかかわるらしい。
まして、ついさきほど、平身低頭地面に腹を擦り付け、踏みつけられながらも必至で詫びを乞うた矢先のことだけあって、そのプライドの傷はとりわけ深いようだった。
ようやく身を起こしたギャランに、
「気が済んだのならば、王宮へ戻ろうぞ! 向こうは向こうでお主をご指名じゃ!」
「指名?」
ララクロノフの言葉に、ちら、と眉を上げたギャラン。聞き返したのは周子。
気だるげに身を起こすと、あたりに散った衣類をかき集め、肢体を通す。
ギャランはそんな周子の様子をじっと見詰めて。
とろんとしたその黒目が次第に正気を取り戻しゆくのが、ありがたいようなありがたくないような、どちらともいえぬなんともやるせない気分だった。
―――どうすればこの女を正気のままに手の内にとどめることができるのか、
ギャランにはさっぱり見当もつかぬ。
自嘲気味に笑って。
「……あのうすら白い奴が待っていると?」
ララクロノフは急降下、下草の中に飛び込むと身体を擦り付け、返り血を削ぎ落とした。つややかな黒い羽根を広げ、翼の具合を吟味する。そして、満足そうに、ふん、と大きく鼻を鳴らした。
「安心せい、次は止めぬ」
血臭を存分に染み込ませ、その獣の本能に火がついたか、今やララクロノフは異様な殺気に満ちている、鋭い爪の先に引っかかった残肉片を嘴で外すと、
「ぬう不味い。そうじゃ……ワシゃもっとずっと美味い肉を知っておる、おうよワシは心底、魂に思い出した、身の振り方を決めたぞ決めた、決めた」
キシキシと哄笑した。
「ギャラン?」
周子は一瞬、なにか不吉な予感と共にララクロノフのその哄笑を訝しんだが、すぐにギャランの反応を読むほうに気をとられた。タトゥーのもたらす恋情の余韻の所為だ。
「ギャラン、何かあったの? 厄介ごとなら私も一緒に行くわ」
「いや」
心配そうに見上げてくる周子をギャランは凝視して。
手を伸ばす。
乱れた黒髪を指で梳き、髪に絡んだ千切れた細い下草を落とす。
黒い瞳には蕩ける黒蜜のような甘い耀きが残っている。
―――駄目だ、タトゥーでもなんでも今更これを手離せる気がしない。
「心配するな」
むしろお前はゆっくりとこの土地に居ろ、当分王宮には近づくな、と言いつけて、ギャランは周子を抱きしめ、唇を寄せた。
「……ん」
背中に回った周子の手が、一度きゅっと己の背を抱くのを知って。
―――なんだこの手は、なぜおれを抱く
その手の意図がわからない。
―――何度も邪険に突き放されてきた、この手が本心からおれを抱くことがあるのだろうか、こんな風に?
嬉しいのか悔しいのか、とにかく泣きたい気持ちになってギャランは、乱れた己の気持ちを誤魔化すように何度もキスをした。
「何かあればすぐにおれを呼べ、お前に何かあってはおれは死んでも死に切れん」
―――忌々しいタトゥーめ、
ギャランはララクロノフの背に跨ると、勢い良く宙に舞った。
[tog]86:気休めな所有でもなんでも
Created: 2008-02-07
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- 2008-02-07 11:11
- カテゴリ : 「タトゥー・オブ・ギャラン」/長編/連載中
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