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[tog]39:グランツ家父子

 周子は目の前につながれている小さめの馬を見定め、乱暴に蹴り上げると、馬は猛々しく首をしならせた。怒りのあまり灰色のたてがみを炎のように振り立て後ろ足を高く蹴り上げるそれにひらりとまたがると、カズマを追った。 追いつかないまでも、背後に猛々しい馬のひづめの音を認め、カズマが振り返る。「なぜついてくるんですっ!」 きっ、と振り返って、周子を睨む。「あなたが馬に乗れるとは思いませんでしたがっ!」「この...

[tog]38:王ではなく王に近い、男

 王宮から戻ってきたカズマは開け放しのドアの奥を覗いてギョッとする。 自分の寝室のベッドの上に、まだ周子がいる。 思わず、なぜ?とうめき声が喉の奥で鳴った。しかも見れば自分のシャツを勝手に着ているようである、ぱっと見、これではちょっとイイ仲の情婦のようではないか。 なにやら部屋の中がとてもよい香りがして。 それが普段自分が馴染んでいる香料の匂いだとわかっていても、まるでまったく別な色を含んでいる...

[tog]37:交錯

 ―――なんだかずいぶんといい匂いだな。 その花の香りに時折ふっと意識を掬い上げられるような。 眠りと覚醒とが何度も交錯しなんとも言いがたい心地よさがある。 頬に触れる滑らかなシーツの感触に、脳の奥を擽る匂いの記憶を手繰り寄せ……まどろむ。  世にある普通の父子のように、父さんは決して抱き寄せてはくれなかったけれど。 すぐそばへ寄れば、焚き染めた沈香の幽玄で気品高い、心に染みるようななんともいえぬ良い...

[tog]36:無言の圧力

 翌朝、カツカツカツ!と鋭く険のある靴音が私室へ近づいてくるのを耳に留めて、エンギワルーは軽く目を細めた。「おはようございます、若さ……」 ぱちん!と小気味良い音をたててエンギワルーの頬にカズマの平手が決まった。角度も良かったし、音も良かった。カンペキに美しい平手である。 その完璧さはまさにカズマの気位の高さを象徴しているかのようで。 カズマは言葉も思いつかないといった風にカオを怒りに真っ赤に染め...

[tog]35:まだまだ子供

 供された酒に一口つけるや、周子は飛び上がって喜んだ。手酌で酒をついでは、みるみるうちに周子は飲み干してしまう。「あはは、あーこれ!これ!」  そしてあっという間に上機嫌に。「……エンヴィ、この銘柄、よくぞ見つけたな」  杯を唇に当てたままカズマがちら、と目線だけで見上げた。 過日王と一緒に飲んだ酒である。出入りの業者がたまさかに入手した極上品だと、王に献上したい、と持ち込んできた酒だったが、さぞか...

[tog]34:男同士腹を割って

 玄関に一歩足を踏み入れるなり、いつものように出迎えたエンギワルーの姿に周子はギョッとして。 エンギワルーは、頭に包帯を巻き、ギプスで固めた利き腕を、肩から吊っている。 そうして表情一つ変えずに、周子のすぐ後ろに立つギャランから革ジャンを受け取ろうとし、慌てて周子がそれを阻止、ギャランからむんずと革ジャンを取り上げた。するとムッとしたように、一層仏頂面になってエンギワルーが、改めて周子の手からギ...

[tog]33:欠けているもの

「……おれはどえらく虚しいぞ」 「すこし、お黙りなさい」 泣きじゃくる周子を胸に抱きかかえ、カズマは軽く目を伏せる。「そそそそのオンナはなおれの……」「ですから、お黙りなさい、彼女に嫌われたくなければ」 う、とギャランは言葉に詰まる。カズマは自分の言葉がギャランを黙らせるこんな瞬間がたまらなく好きなのだが。 そんなわけで目の端に浮いたほんのりとした笑みを、どうにも、ギャランは別の意味に取ったらしかった...

[tog]32:ふとした仕草の向こうに

「……お呼びですか?」 涼やかなささやきが耳元に触れた、と同時にひたり、と冷たい小柄の怜悧な刃の感覚が首筋に落とされる。「なかなか、よい光景ですが。いささかやりすぎでしょうね」「……お、おーけー」 周子は軽く両手を上げてギブを表明しつつ、ギャランの上から体を退けた。「まっさかこうも見事に背後をとられるとはね、気配も無く。あんたが強いってホントなのね、きっと」と周子は呟いて。「いたっ!」「失礼」「……わざ...

[tog]31:国王にかける呪

「トラポ石で飛ぶと、人はどうなる?」「ロスト」 短く、周子は応えた。 たっぷり沈黙して、ガッツリ落ち込んだ表情をして、それからギャランは首を振った。「前王陛下は多分、そのトラポ石で飛んだのだろう、所詮素人目には区別つかんだろうからな」 うむ、とギャランは勝手に納得したのか、自分で自分の言葉に頷いて。「そもそも、死人のところへは、テレポ石でも行けぬだろう?」 「はは。もちろん」 周子は困ったように笑...

[tog]30:泣き落とし

 グランツ家から出ろ、というアシューの言葉に、吝かではございません、王とは出来るだけ距離を置こうと実際考えております、と応えた周子の冷静な言葉をギャランは何度も何度も反芻する。 反芻すればするほど、焦燥感が胸を焼く。「なあ、おれから離れるなんて言うなよな?」 壁一面に設えられた小引出しを端から順に、その中身を一つずつ吟味している周子の背中にギャランが声をかける。 周子からの返答は、ない。 ギャラン...

[tog]29:宰相アシュー

 周子を伴いひょっこりと王宮の執務室に姿を現した国王。 さてどちらがどう伴われたのか、その実際はエンギワルーのみぞ知る。 アシューは椅子から腰を浮かせ呆然と国王の姿を見つめた。まるで不意に目の前に神でも降臨したかのように。「……お、お待ち申し上げておりました」「待たせちゃいねぇ」 キッパリ、ギャランは首を振る。「丁度ようございました、実は……」「!おめぇが決めろ!」 おもむろに決裁を仰ごうとしたアシ...

[tog]28:魂の一番美味しいところ

「もっとも、おれは……お前にだったら憑り殺されてもウェルカムだ。絞殺、バラバラ、焼死体、何でもおっけーだ」「キスを迫りながら言う言葉じゃあないわね?」「だったら黙れよ」 黙るのはあんただろう、と思いつつ、周子は青い目がスッ、と伏せられるのを間近に見た。素直に応じる。 何度かキスをして、ギャランは首をひねった。「イイ。なんでこんな気分になるのかな。えれぇー、いい気分だ、こんなの初めてだな?」「仕方な...

[tog]27:ユアバディズ・コーリン・ミー

 低く、掠れた、喘ぐようなうめき声を耳にして、ギャランはふと足を止めた。 女の喘ぐ声である。 その声の漏れ出づるドア、ギャランはその部屋の主を知っている。だが、まるで情事の最中のようなその声の色、そんなものとはとんとかけ離れた、いや、ありえない、あっては困る、その女の部屋のはずである。驚いたというより、不穏さを感じ、正体不明な焦燥感に襲われた。珍しく肌がざわりと粟立った。 息を凝らす。 ドアの向...

[tog]26:残照

 鳩尾を殴られたという物理的な理由が他にあるにせよ、ギャランに頭を下げられて、アシューはひとしきり恐縮したのだが、すぐさま冷静にかつ的確に宮中に指示を飛ばすや、急遽あさっての挙式を取り決め、ギャランの元にかけてきて「今日はもう早退します!」と言い切り、去っていった。ギャランの気が変わらぬうちに、とでもいいたげな勢いだった。 冷静沈着で有能なガーナの宰相、常に渋面ながらハンサムな色男、その当年三十...

[tog]25:剣と国王

 かの伝説の聖剣も、抜いたという噂だけでは噂に過ぎない。 それを腰に下げ、その主として周囲にアピールしなければ、剣の効果も半減する。 剣の効果……単に敵を、仇なすものを倒す武器、刀剣としてではなく、王たる証としての、剣の効果。 それは絶大だった。「いや、よくやりましたな!見事である!」「王を追って落籍なさったときは、グランツの貴公子も血迷うたかと思ったが。まさかギャラン王にあの伝説の聖剣を持たせるこ...

[tog]24:不思議な静寂

 洞窟から出てくると、どう、と拍手が沸き起こった。 いつのまにか多くの兵士が洞窟の入り口前に詰めていて、ギャランが出てくるのを今か今かと待ち構えていたようだった。「何?この軍人さんの山は」 周子は黒山の人だかりといったその数の多さに驚いてギャランを見上げたが、ギャランはといえば、いかにも不快そうに眉を顰め……また例の、他人を寄せ付けぬ冷たい表情へと変わりゆくところだった。「周子殿、よくぞご無事で」...

[tog]23:真っ二つの剣

 軋む左腕。間違いなく左腕も折られる、とその痛みに顔を顰めたとき、馬のひづめの音が聞こえた。激しく蹴り立てるその音は荒々しく、一直線にこちらの洞窟へと向かってくる。あやまたず真っ二つの洞窟の入り口で馬が鋭く一度嘶いたかと思うと、タッ、と地を打つ音がする、馬から飛び降りる人の気配。「ちっ、邪魔が入った」 男はその音にすばやく反応し、周子を手放すと洞窟の奥へと身を翻した。 男が走っていったその向こう...

[tog]22:ノッキンノン・ヘブンズドア

 石を寄越せ、という声が遠くで聞こえる。何度も何度も。 石を寄越せと、どこにあるのだと、どこにやったのだと。 石なら父さんの肚の中に。 いや、違う、今は私が持っている。 石が欲しいんなら、さっさと取っていってくれ、と思う。 もう使い途がない筈だ。 ドランクドラゴンは死んだって聞いている。「……石ってどれよ?」「……………」 呟きに、何かの声が応える。 聞き覚えのない声だ。「……好きなようにしてよ。あんたが...

[tog]21:洞窟の番人

「ええ、この道まっすぐ先ね?大丈夫、ダーいじょうぶだって」 供をすると言ってきかぬカズマを残し、一人馬車から降り立って。周子は洞窟のあるという方向へ足を向ける。「ちょっと一人になりたいって気持ちも、分かるでしょう?」 少し殊勝げに声のトーンを落とすと、たちまちカズマは了解した。 ―――意外と扱いやすい男。 カズマは気遣うように周子に言う。「では、われわれはまずは洞窟の番人の所へ挨拶に行ってきます。洞...

[tog]20:五百年越え

 静かに睨み合うラインハルトとカズマとを少々持て余し、周子は今度は自分で話を元に戻した。「でさあ?いつの間に、クレリック・リザートは死んだことになっているの?殺しても死なないようなあのおっさん、こないだ会ったときにはすごくぴんぴんしてたのに」  カズマとラインハルトの驚いたような眼差しが突き刺さったが、構わず周子は言葉を続けた。「クレリック・リザート王の伝説というより、あのおっさん、当人を知ってい...

[tog]19:カシナルト行

 饅頭を握りしめ、真っ二つの剣を見たい!と騒ぐ周子に、ラインハルトは快諾して。 そもそも王の命令で周子を連れ戻しに来ていたカズマは、帰りましょう、と根気強く説得を続けていたものの、結局はラインハルトに押し切られ、同行することになり…… 。「真っ二つの剣、かのクレリック・リザート王の残した聖剣についてご存知ないとは、なんとも珍しいお方だな」 ラインハルトの直轄領、カシナルトへ向かう上等な馬車に揺られる...

[tog]18:真っ二つ饅頭

「……しかし、例の洞窟もここ最近は大変な賑わいだとか?」「ほほう、さすがにお耳が早い」 不仲だなんだと言いながらも、その後カズマは素直に茶を勧められ、ラインハルトと話し込んでいる。そのおかげで周子はゆっくりと豪勢な食事をとることが出来たのだが。 フォン・グランツ家とイーズリー卿、両家の仲が悪いとか、過去に遡ってさまざまな諍いがあるだとか、そんなことを二人とも言っていたのだが、実際の経済活動や政治の話...

[tog]17:魂の繊維最後の一本まで

「…………………」 迎えに来た、と口上を述べたカズマは一目周子を見るなり、顔をそむけた。 よーくよく見れば、口の端が微かに歪んでいる。 自分の格好を笑われたことよりも、この冷淡なカズマがウケたらしいことの方が、周子としては面白かった。してやったり、といった気分で。 カズマの冷淡な無表情を崩すのはなかなかの快感だと知った。 やはり内心、笑ったのであろう、それを打ち消すかのように、先ずは一番不機嫌そうな話題...

[tog]16:抜き身の刃物

 馬車に放り込まれて、またまた連れ去られるようにして王宮を後にして。 再びラインハルトの屋敷に戻ってみると、先ほどの料理がまだ並べられたまま手付かずに残っていて。空腹を感じていた周子はそれを食べたいと申し出たのだが、途端に断られた。「こんな冷めたもの……改めてご用意いたしますから。ぜひとも私の歓待をお受けください」 ラインハルトの恭しい言葉に周子は苦い顔をする。「いや、実はね、別にそんな贅沢好きでは...

[tog]15:イーヴ2

 ギャランがシャツをわしづかみ、上半身裸のままで飛び出して来る。ようやくその姿を見つけて駆け寄ってきた周子をど突くように一度当たって、ギャランは一瞬足を止めた。「ギャラン、あんた一体何やって……」 鋭く青い瞳に射られ、思わず竦んで周子は言葉を飲んだ。 ギャランはキッ、と唇を噛んで身を翻し走り去っていく。 周子はその異様なギャランの様子を見送り呆然と立ち尽くして。 どれほど立ち尽くしていたか知れない...

[tog]14:イーヴ

 そんなときだった。 ばったん! ドアを蹴り上げて、凄みのある美女が飛び込んできたのは。「王が!」 鋭く一言そう叫んで。 あたりを見回すと、ぎろっと、ラインハルトを睨みつけた。「いないじゃないのよ!」「とうに帰られた」 相変わらず地獄耳でいらっしゃるな、と冷や汗をたらし、ラインハルトが低くうめいた。周子はラインハルトの喉元を締め上げる美女の華やかな勢いを見た。 深くスリットの入った真紅のドレスが、...

[tog]13:別次元の王

 ギャランは馬車に乗り込むなり一切口をつぐんでしまった。 よほど腹を立てているのか、周子が話し掛けても視線すら返してくれなかった。周子は、ギャランは本当に腹を立てると口すらもきかなくなる、といったカズマの言葉を思い出して苦笑した。 ―――存外狭量な男……まるで子供みたい。 それで仕方なく周子は窓の外を眺めたり、膝の上に載せたハンズと指相撲なぞして馬車での長い時間をつぶした。長い時間……カズマの屋敷から、...

[tog]12:ハンズ

 テラスに面した一面の大きな窓は折れ戸になっていて、開け放つとまるで室内と庭とがひとつにつながるような開放感がある。 開け放たれた向こうに深遠なる闇が広がっている。  昼に降っていた雨はとうに止んでいる。 いまは、雨滴とも霧ともつかない水の微粒子が、大気の中に浮くともなく沈むともなく漂っている。 夜が深まりゆくにつれ、その微粒子が、空気が、次第にゆっくりと冷えてくる。なんとも良いこころもちのする夜...

[tog]11:割線

 罵倒された挙句に痛烈な平手を食らい、穏やかならぬ気持ちで眠れぬ夜を明かしたカズマは、ようやく白々とした朝を迎えると、ダイニングへ飛び込むなり周子の名を呼んだ。 その声に表情を険しくしたのはギャランである。「ほおーん? いつもならまず、おれの姿を見るや、おはようございますギャラン様、だろ? 今朝はよほどあの女が気がかりと見えるな」「おはようございます、ギャラン様、今朝はお早いようで」 棘のあるギャラ...

[tog]10:呪の効力

 先ず最初に、きらりと光るメガネが目に入った。 カズマが、ためすがめつ自分の顔を覗き込んでいる。目が合った、と思うなり、その顔は慌てたように素早く引っ込んだ。 ようやく意識を取り戻しむくりと起き上がった周子の、青黒く腫れ上がった左頬を改めて見、さすがにカズマはきまりが悪そうに、んんっ、と小さく喉を鳴らした。 ソファの上で身を起こした周子は、すぐ側にスキンヘッドの中年男が日傘を差掛け立っているのを...

[tog]9:洗礼の応酬

 しばらくして。 瓦礫の中に煤やら土くれやら埃やらをごっそりかぶった金髪が、かすかに動いているのを見つけ、周子は小さく安堵の息を漏らした。「危っな。うっかり殺っちゃうとこだった」 その金髪を探して先ほどからあたりの瓦礫をあちこち掘り探っていた手を、ぱっぱっ、と払って、ようやく見つけたギャランの金髪をむんずと掴み、瓦礫の中から引きずり起こした。ぺちぺち、とその頬を叩く。「ほら、しっかりしてよ、さすが...

[tog]8:洗礼

 不思議な男だった。 万人の心を蕩かすようなその美貌、あでやかな金髪と青い瞳の上等なつくりはただの見せかけで、ぞっとする程の厳しさと凍るような憂い、威厳とも言うべき不可侵な神々しさ、この男の存在はそれで出来ている。邸内の他の多くの従者を前にしても、ギャランは微塵たりとも表情を変えなかった。全く以って近寄り難い印象だった。だがそれが、どういうわけか、ふとした拍子に驚くほど幼くあどけない、屈託ないも...

[tog]7:発動した呪

 ―――雀を仕留めた猫のように。 何も真っ先にこのメガネ男の許へ連れてこなくともいいのに。 まだ飛びまわれる雀を、ぽてっ、と飼い主の目の前に落とす。 まるで見せびらかすかのように。 気を許せば飛び立つのに。あえて、放して。 そして、 身動きしようものなら、優しくその上に、手を、置く。 爪はなくとも、容赦の無い、尊大さで。「カズマ、おれの人生まんざら捨てたもんじゃあァないそうだ!」 ギャランは周子の手...

[tog]6:バカみたいな青い目だな

 ぐらり。 体が大きく傾ぐ感覚……急に増した重力を感じるなり、ばたりと地面にうつ伏せに落ちた。 強い夏の陽射しと、頭を撫でる微かな風、地に付けた頬と体の下から土の湿気がじんわりと染みて来るのが分かった。 頬のすぐ横に、誰かの黒光りする革靴を見て、ああ、召喚されたのだ、と周子は思った。 ゆっくりと身を起こそうとし、地面に立て支えた腕が震えた。 ―――重い。地面が恋しい。 召喚されたときはいつもこうだ、ミ...

[tog]5:ガーナ

「のあーっ、畜生、今日も空振りかっ!」 およそ魔物とは言いがたい、貧弱なスライムをぺちゃりと靴底で踏みつけると、ギャラン・クラウンは叫んで仰け反った。 傾きかけた夕陽はいっそう赤みを濃く増しつつ急速に地平線の向こうへ沈んでいく。斜に背負った夕陽が、ハチミツのようにあでやかな金色の髪を赤く染め上げ、陽に透けた髪がまるで光を放っているかのように光り輝いている。 陰になって定かではないが、その表情は苛立...

[tog]4:召喚された先

「……」  召喚された修三は、驚いたような表情をほんの一瞬見せた。が、すぐにいつもの怜悧な無表情に戻ると見下げ果てたような冷めたかすれた声で呟いた。「……こんな若造に出し抜かれるとは、クレリック・リザート、あ奴も落ちたな」 修三の目の前の若い男は、掛けていたサングラスを外し胸ポケットに挿すと、代わりにそこから煙草を取り出し、火をつけた。 優美な紫煙の香気がゆったりと立ち上る。 考え深げでいて、それでい...

[tog]3:父の名に知るもの

 ベースの敷地境の鉄門扉の向こう、日褪せたレンガの壁に寄りかかっているその姿、細身の黒いパンツと素肌に白シャツ一枚羽織っただけの素っ気無い姿だが、その気負いのない様がまた、修三らしい。 腰ほどまであるまっすぐで艶やかな漆黒の髪は、彫金の髪飾りでひとつに束ねられ、風が疾ると、その冴えた空気の抜けた一筋の余韻に一層香気が際立った。「……父さん」「おまえがタチバナであろうが無かろうが、なにも回りに流され...

[tog]2:隷属のタトゥー

 泣き崩れたシャアラを後ろに、ようやく周子はロンの方を見た。「よぉ、ラッシュ」 ベースの建物の入り口を占拠し、血走った眼で小さな女の子の首にナイフを突きつけているロンのその様子は、最悪の惨事を予測させるに十分すぎる迫力だったが。「ねぇ、とにかくその子、放しなさいよ。泣いてるし。あんたそんな小さな子を人質にとって自分が恥ずかしくないの? 見てる私はすッさまじく情けないよ?」 周子を躊躇させるには全く...

[tog]1:ミアム

「あなたの所為よ! イビサ!」 蝶番が外れんばかりの勢いでドアを開けた、家に上がり込み、指を突きつけて、「あなたがラッシュを、とんだ箱入りに育てたのが悪い!」 そう威勢良く罵倒し胸倉掴んで平手を一、二発……だがイビサを見たこの瞬間、シャアラはおどおどと視線を外し、なんて大それた事を考えたのかしらとたちまち後悔した。 この家の主たる彼の姿を居間に見るなり、その近寄り難い超然とした雰囲気に瞬時に萎縮した...

ダウンロードについて

テキストファイル(*.txt)でのダウンロードが可能です。ファイル保存し、PCでも携帯端末でも紙への印刷でも、お好きな形態で気軽にお読み頂ければと思います。■「タトゥー・オブ・ギャラン」/長編恋愛FT/連載中第1話〜31話をダウンロード(tog.txt/423KB)[最終更新日2008/01/16]第32話〜73話をダウンロード(tog2.txt/496KB)[最終更新日2007/12/17]第74話〜86話をダウンロード(tog3.txt/240KB)[最終更新日200...

「タトゥー・オブ・ギャラン」目次

「タトゥー・オブ・ギャラン」長編恋愛FT  →ダウンロードはこちら 隷属のタトゥーを刻まれた周子の呪主は口さえつぐめばイイ男、バカな国王ギャラン。シビアでトリッキーなラブアプローチ展開中、周子の召喚ミスにより端を発した、タトゥーに振り回される三人のなにやらいろいろと手順を間違えた恋愛模様、がっつだギャラン。【目次】[tog]1:ミアム [2008-01-15][tog]2:隷属のタトゥー [2008-01-16][tog]3:父の名に知るも...

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